それは大切な誰かを守る【蒼く白く輝く光】
静まりかえった森の闇の中で、青い髪の少女は仰向けに横たわっていた。
右足の太腿には、肉食獣に噛みちぎられたような深い傷が刻まれている。
痛みと出血は咄嗟に【断ち切る】ことができたものの、その足は動かない。元に戻すには治療か治癒魔術が必要になるだろう。ここまで乗ってきた
『ちょっ――ちょっと、もっちー! 怪我してるの? 大丈夫!?』
耳元に浮かんだままの
「ごめん、ナルさん。最後の最後で詰めを誤った――でも、命には別状なさそうだから大丈夫だよ」
『でっ、でも――
その時、ミズホの方へと向き直っていた
間も無く、滅閃が
だが、少女には不思議と恐怖心のようなものは無かった。
「それは――実は心配してない、かな。あのね、ナルさん――私はやるべきことはやったよ。バリアをすべて断ち切って、【その道筋】は確保した――だから、あとは――ナルさんに任せるよ」
『あっ――あたし――が――? で、でも――』
何かを言おうとするナルを制するようにミズホ強めの声を発する。
「ちょっとナルさん。もう時間無さそうだよ。あのね――」
青い髪の少女は、軽く微笑むように柔らかな口調で続けた。
「ナルさんなら、バシッと決めてくれるって信じてるから――」
もう、相手の声は聞こえず。自分の声も相手には届かない。
仰向けに横たわったまま、少女は視界の奥に立ちはだかる
その口元から迸るのは白と黒の光の渦。今にも放たれようとしている
そのあまりに強すぎる出力。
でも、恐怖心は無い。そう、欠片だって無い。
それよりもレシノミヤの街の人が、今のところ誰も死んでいないことに安堵する。
――だって、私は【あの時】死んでいるはずだから、今さらどうこうということはない。そんなことより、誰も死なせていないことの方が、大事だから。
枷を断ち切られた覇王の左腕を、思い起こす。その力は街を覆い、
――覇王はすごいなぁ――少女はふと今の状況とは全く関係のない呟きを漏らす。
その時、
少女は眠るように瞼を閉じた。
――あの
だって彼女は、レシノミヤで最も優れた魔術師なんだから。
○●
それを放つ間際、あたしが考えていたのは、顔の思い出せない両親のことでも、奪われた故郷の風景でも無かったのは、何故だろう。
あたしはただ、がむしゃらにそれを制御していた。
任せるよ、だなんてズルイ言葉だ。
信じてるよ、だなんてどんな呪いよりもしんどい言葉だ。
そんなこと言われたら、やるしかないじゃないか。
あたしはただ、友達を死なせたくなかっただけ。
あの小さな笑顔を、あの白く細い手を握った時の柔らかさを、砂なんかにはしたくなかったから。
そう思うと、自然に肩の震えも指先の痙攣も止まった。
そうだ――親の仇とか、街を護るとか、召喚した以上は責任を持つとか、壊れかけた世界を救うとか、そういうの重かったんだ。だから震えちゃうんだ。そんなの背負えないって、自信がなくなっちゃうんだ。
さっきあたしに微笑んでくれた、あの
そこに、自信があるとかないとか関係ない。
あたしが魂をかける理由、それだけで十分だったんだから。
○●
「クハハハハ……! 砂と化して死ぬがよい
サイカスは狂ったように嗤う。そして滅閃を放たんと詠唱の最後の一文を誦じようとした、その時。
「――
蒼く白く輝く光が、眼前まで迫っていた。
○●
「
アシャは薄れつつある金色の瞳で、その光景を眺めながら呟いていた。
その蒼い光は、レシノミヤの街の中央にそびえる塔の頂上から放たれている。
「貴様は、我らに防御手段が無いと言った。確かに、右腕の枷だけみればそうだろう。だが、俺には【左腕】の力――【
蒼い光に飲み込まれた、
「貴様は、我らに攻撃手段が無いと言った。確かに、俺の右腕の力は遠くには届かず、小娘の
その時、声が聞こえた。
大きな叫び声。
その声は
おのれ、おのれぇ、おのれぇ――!!
四天王であるこの私をここまで――ここまで追い込むとは――枷の男よ――お前、いったい――何をした――この魔術は――うがぁ――私の身体が――崩れ――!!
「この期に及んでも不様な奴だ――俺は何もしておらん。ただ、この街を護っただけだ」
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