第51話 夏と巫女とおみくじ ②
安藤からまさかの返信に舞は大喜びだ。それこそ狂喜と言わんばかり――――
だが、重要なことに気付いて我に返る。
まって。あたしってアンジローとふたりきりでデートしたことないんじゃない……?
考えてみれば、これまでのデートはいつもフランチェスカが一緒にいたのだ。
プールに誘ったときも、こないだの夏祭りも。
「えっと……どうすればいいの?」
とにかく安藤には返信しなければならない。だが、メッセージには『どこか遊びに行くんですか?』とある。
「どこかって……」
安藤からまさか承諾を得るとは思ってなかったし、どこへ行くのかもそこまで考えてなかったし……と舞は頭を抱え、ぼすんとベッドに倒れこむ。
途端、「あ」と声を上げた。
「こういうときは経験者に聞くのが一番よね。うん、あたしって頭いいー」
スマホを操作して耳に当てると、すぐに相手が出た。
「もしもし、あ、
「おす。どうしたの? まい」
「ちょっと相談したいことがあるんだけど……いい?」
「いいよー。で、なんかあったの?」
「うん、実はね……」
クラスメートであり、友人でもある加奈は彼氏持ちだ。
すーっと深呼吸してから、あらかじめ考えておいたシナリオを話し始める。
「あのね、あたしの友だちが今度、初デートに行くんだけど、どこか良いところ知らない? って相談されたんだけど」
少しの間があった。
「ねぇ……その友だちって、あんたのことじゃないの? ていうか、あたしもあんたの友だちだし」
「うぇ!? いや、べべべ、べつにそんなことは……!」
わかりやすいリアクションに加奈がふぅと溜息をつく。
「ついにあんたにも彼ピが出来たのね。おめでと」
「あー……いや、まだ正式に付き合うって決まったわけじゃないの」
「そうなの?」
「うん。でも二回くらい遊びには行ったんだけど、おじゃま虫がいてね……」
ははーんと加奈が意図を汲んだかのように言う。彼女のしたり顔が目に見えるようだ。
「なるほど。デートのときにコクるわけだ」
「ッ! そ、それはそうなんだけど……」
「つーか、あんたも受験生でしょ? この時期にデートして大丈夫なの?」
「うん……だけど、今じゃないとダメな気がするの。この機会を逃したら、もうこのチャンスは二度と来ないんじゃないかって……」
受話口からふーんと気乗りのしない返事。真剣に聞いてくれているのか不安になっていると、彼女からの言葉でその不安は消えた。
「オッケー。そういうことなら恋愛マスターのこの私にまかせなさい」
これまた彼女のドヤ顔が目に浮かぶ。
「そうねぇ……場所はブクロなんかいいんじゃない?」
「ブクロって池袋だよね? 渋谷とかじゃないの?」
「これだからシロウトは……」
受話口から加奈の溜息。
「ブクロなら映画館もオシャレなカフェやご飯食べるとこいっぱいあるし、そしてなにより……」
「なにより?」
「水族館があるでしょ?」
「あー、あれね」
舞はビルの中にある有名な水族館を思い浮かべた。
「でも、それがどうしたの?」
「よく聞いて、まい。水族館に来た男女はかなりの高確率で告白が成功するのよ」
「そ、そうなの!?」
「水族館の持つリラクゼーション効果、嫌がうえでも雰囲気を盛り上げるBGM、そのなかを水槽の可愛らしい魚を見ながら歩くだけでもロマンチックじゃん?」
「たっ、たしかに……!」
さすがは加奈だ。自称恋愛マスターを名乗るだけのことはある。
「うん! あたし、なんだか自信でてきた!」
「その意気だよ、まい。あと当日は目いっぱいオシャレしてきな」
「うん」
「がんばんな」
「ありがと……加奈」
「いいってことよ。それじゃね」
通話を切り、しばらくホーム画面を見つめる。
そして意を決したかのように、うんと頷いてアプリを開いてそこから通話をタッチ。
耳に当てて相手が出るのを待つ。二度、三度、四度目の呼び出し音で「はい」と出たときに舞は思わず身構えた。
「もしもし、あ、アンジロー? あのね……今度の金曜日なんだけど、その」
どくどくと心臓の鼓動が高鳴る。安藤にも聞こえてしまうのではないかと思うくらいに。
「池袋に、行かない……?」
「池袋ですか?」
「う、うん。ほら、あそこだったら映画館もあるし、水族館だってあるし……」
友人の言葉をそのまま通話口に乗せる。
「じゃ、そこにしましょう! 待ち合わせ場所と時間はどうします?」
待ち合わせ場所と時刻を指定し、「それじゃ当日に」と通話を切った。
スマホをじっと見、そしてはぁーっと溜息をつく。
ついに今度の金曜日、あたしはアンジローに……
これまではフランチェスカに邪魔されてきたが、今回その彼女はいない。
「フランチェスカ……あんたには悪いけど、あたしだって真剣なの」
そう言って巫女はあらためて決意を固くした。
③に続く。
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