第168話 更に十数年後 サリオン君の疑問

 僕の家はどうも色々と変わっているらしい。

 まずお母さんが6人いる。

 僕にとってはこれが普通。

 でも他の人はお母さんは普通1人、多くても3人くらいまでのようだ。


 兄弟も他の子と比べてかなり多い。

 一番上のアイシャ姉から一番下のシャーリィまで、いまのところ12人。

 だから全員で出かける時はゴーレム車が2台必要だ。

 ちなみに家にはゴーレム車は3台ある。

 こんなにあるのも珍しいらしい。

 同級生で家が大きな商会のダイ・グ君の家も、自宅用のゴーレム車は1台しか無いって言っていたし。


 住んでいる家も不思議な家だ。

 僕の部屋がある、通称別館と呼ばれている家。

 この別館は1階廊下の奥の扉で本館と繋がっている。

 でも別館の外は海のすぐそばだ。

 ゼノアの港がある海じゃない。

 岩があって砂浜がある遊べる海だ。


 ここの海は色々遊べて楽しい場所だ。

 専用のボートもあるし夏は泳いだり貝をとったりも出来る。

 ペットのニアとマイアも大体ここにいて顔を出すと撫でてくれとやってくる。

 お父さんとジュリア母さんが気分転換と言って釣りをしていたりもする。


 でも、ここの事は家の人とピート君達以外には言ってはいけない事になっている。

 ペットのニアとマイアの事も。


 昔は何故他の人に言ってはいけないのだろうと思っていた。 

 友達と遊ぶには最高の場所なのに。

 ニアもマイアも可愛いのに。

 でも今なら僕も何故言ってはいけないのかわかっている。

 この家はどう考えても普通では無いからだ。


 僕の家はゼノアの街の中。

 周りはほかの家で囲まれている。

 なのに廊下で繋がっている別館の外は海辺。

 こんなのはどう考えてもおかしい。


 僕の部屋の窓の外も別館玄関から出た場所と同じ。

 ゼノアが雨でも晴れていたり、ゼノアが晴れていても窓の外は雨だったりする。

 何故そうなっているのかは教えてもらっていない。

 大きくなったら教えてくれるとフィオナ母さんは言っているけれど。


 あと龍という生き物も本来は山の中に住んでいて滅多に出てこないものらしい。

 出てきたらそれこそ大事になるそうだ。

 マイアもニアも可愛いのにな。

 のせて貰えば空も飛べるし。

 

 うちの家はお父さんとお母さん達で小さな商会をやっている。

 毎日家の1階にある事務所で全員でお仕事をしている。

 ミランダ母さんとフィオナ母さんは出かけている時も多いし、サラお母さんはご飯を作ったりお買い物をしたりもしているけれど。


 僕らの自慢はここの事務所の奥にある図書室。

 初等学校の図書室以上に本がある。

 図書室には少ない漫画だって何十冊も置いてある。


 最近のお気に入りは未来から来た水色の狸型ゴーレムが不思議な道具を出してくれる漫画だ。

 これは毎月新しい本が続きで出ているのだけれど、学校の図書室には入らないし国立図書館でも人気があってなかなか借りることが出来ない。

 でも家の図書室には毎月最新号が置いてある。

 だから時々学校に持って行って友達と回し読みをしたりしている。


 なおアイシャ姉は漫画でも五星物語の方が好きだと言っていた。

 これは美形の超人や巨大ゴーレムが戦うお話なのだけれど、数年に1冊しか新しい本が出ない。

 お父さんは『その辺は原作準拠だ』と言っていたけれどどういう意味だろう。


 それでもやっぱり人気があって、図書館でもすぐ売れてしまって借りる事が出来ないそうだ。

「どうしても駄目でもお父さんかジュリアお母さんに頼めば何とかなるかしら。うちには揃っているけれど欲しがっている友達が多いから」

 なんてアイシャ姉は言っていたけれど。


 他にも漫画は色々あるが、うちの兄姉ではこの2作が人気かな。

 強いて言えばティン兄さんだけはボボボーボ・ボーボボという漫画が今までで一番面白かったと言っていた。

 ただ僕も読んでみたがこの漫画、意味不明というか訳がわからない。

 他の兄姉もほとんどは僕と同意見。


 ただこの訳のわからない漫画も結構売れたらしい。

 家の中でもお父さん、ジュリアお母さん、フィオナ母さん、ティン兄の4人は面白そうに読んでいた。


 そう言えばうちのお父さん、お母さん達に比べるとごく普通に見える。

 いつも静かでだいたいは事務所でお仕事をしているかリビングで本を読んでいる。

 お母さん達は皆綺麗だし色々な事が出来たりもするけれど、お父さんだけは本当に普通のおじさんにしか見えない。


 でもお母さん達に言わせると、お父さんが一番強くて何でも出来るそうだ。

『そんな事ないよ』とお父さんは言っているし、僕も兄妹のみんなもそうだと思っているのだけれども。


 ただ僕の家に時々遊びに来るダンさんという金髪の恰好いい人に言わせると、

『君のお父さんはスティヴァレ最強の英雄なんだよ。知っている人は少ないけれど』

なのだそうだ。


『最強って、ダンさんよりも?』

『もちろんさ。何せ僕はアシュノール君と一度本気で戦って負けたしね』

『あのお父さんが?』

『今でも本気を出せば最強のままだよ。今の僕でも戦えば瞬殺かな、前のように』

 今ひとつ信じられない。


 このダンさんという人はスティヴァレでも4人しかいないA級冒険者の1人。

 なおA級冒険者4人のうち残り3人はダンさんの奥さんだ。

 3年前にスティヴァレで一番強い人を決める魔法武闘会で、ダンさんの奥さんの1人、ソニアさんが優勝している。

 そのソニアさんよりもダンさんの方が強いらしい。

 それくらいに強い人だ。


 ダンさん達は月に1回くらい奥さんのフレドリカさん、ソニアさん、レジーナさん、その子供でピート君、リコさん、カヤさんと、別館の玄関からやってくる。

 ピート君は僕より1つ上、リコさんは同い年、カヤさんは1つ下。

 別館の玄関から来るお客さんはこの人達だけだ。

 来るときのパターンも大体決まっている。


「アシュノール君、また飯を食べに来たよ」

 必ずダンさんはそう言って事務所の方に声をかける。

「またですか、陛下」

 口調だけは嫌そうに、でも表情は嬉しそうな顔でお父さんがそう答えるのだ。

 なおお父さんはダンさんを何故か陛下と呼ぶ。

 確かに高貴な感じがするしそういうあだ名なんだろうな。

 僕はそう思っている。


「君の家の飯は美味しいからね。月に1度は食べに来ないと」

「人の家を飯屋がわりにしないで下さい」

「いいじゃないか。お土産も持ってきたしさ」

 そんな感じでやってきてその晩は別館の広い部屋で泊まり次の日に帰って行く。

 だいたい毎回そんな感じだ。


 そんな感じで他の人と比べるとかなり不思議で変わった所が多いらしいこの家。

 でも僕はかなり気に入っている。

 というか他の家の事を聞くとうちと比べて楽しくなさそうな気がするのだ。

 兄弟も少ないしお母さんも少ない、本もないし別館の海も無い。

 うちのお風呂に色々な浴槽があって遊べるなんて話も聞いた事が無い。

 皆どうやって家で過ごしているのだろう。


 この家には秘密も多いから、そんな話が出来るのは兄弟とあとピート君、リコさん、カヤさん達だけ。

「でも楽しければそれでいいんじゃない? 私もこの家は楽しいと思うし」

 リコさんはそう言うけれど。


 なおリコさん達も高級学校に通う時にはこの家に下宿するそうだ。

 まだ何年も先だけれどその時が実は今から楽しみだったりする。

 リコさんは可愛いし、話していても楽しいし。

 ただ最近ちょっと綺麗になってきて、話したりするとドキドキもするけれど。


「みんな、ご飯にしますよ」

 おっと、サラ母さんの声だ。

 本館の食堂に行かなくちゃ。


(おまけ・FIN)

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異世界翻訳者は途方に暮れる~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~ 於田縫紀 @otanuki

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