第155話 バジリカタ防衛戦(1)

 今回は陣を何段にも構えている。

 一番外側が丸太障壁。

 次が俺、チャールズ・フォート・ジョウント。

 ここまでは前のバジリカタ襲撃と同様だ。


 でも今回、俺の背後には戦闘用ゴーレムが100体控えている。

 前回回収したゴーレムを修理したりオッタービオさん達が新造したりした成果だ。

 それでも数では想定する敵ゴーレムの3割程度だろう。

 しかしこっちのゴーレムは対戦闘用ゴーレムの戦い方を教え込んである。

 だからそれなりに戦える筈だ。


 その後ろにはナディアさんとニア&マイア。

 久しぶりにフルサイズになった龍2頭を見たがやっぱり大きい。

 二頭とも龍の咆吼ドラゴンブレスを使えばこの辺り一帯がとんでもない事になる。

 出来るだけ回りの麦畑に被害は出さないように注意はする予定だ。

 ただある程度は向こうの出方次第だな。


 そして最後に第二騎士団の精鋭が2個中隊。

 指揮官は前回と同様ギュンター百卒長だ。

 更に領主館内の現地作戦本部には第二騎士団副団長のフレルバ副千卒長も本部長として詰めている。


 更に今回は号外新聞社の記者も招いている。

 ミランダが世話役としてちゃっかりその中にいたりもする。

 ジュリアも画板を持って待機中だ。


 敵の先頭集団が2離4km先に確認出来た。

 よし、始めるとするか。

『チャールズ・フォート・ジョウントから作戦本部及び第二騎士団の諸君へ。敵騎士団が2離4kmまで接近してきた。これより戦闘態勢に入る。

 なお今回は私も本気の戦闘を行う可能性がある。その為今回に限り作戦本部に詰めている部下の1人に我が魔法の一部を貸し与えた。以降はその者が状況の中継を行う予定だ。なお中継は伝達魔法でこの付近一帯に流す事とする。

 それでははじめるとしよう』


 今回は降車せずゴーレム車のまま近づいてくる。

 前回ゴーレム車を奪われた事に対する反省だろうか。

 なおどのゴーレム車にも既存の属性は無視する魔法陣が設置されているようだ。

 つまり空間操作魔法のような一般的ではない魔法以外は通用しないという事か。


 それでも攻撃する方法は無い訳ではない。

 例えば土魔法で路面を壊すとか、風魔法で重量物を運んで上から落とすとか。

 つまり魔法が直接作用しない方法を使えばいい。

 ただその分攻撃に手間はかかるようになる。

 だから方法論としては悪くない。

 後で第二騎士団のゴーレム車にもあの魔法陣を設置しよう。

 そんな事を考える。


 ゴーレム車は丸太障壁の前で立ち止まった。

 各ゴーレム車から兵士やゴーレムが降車する。

 先頭から2番目の濃紺色で窓ガラス付のゴーレム車からも1名降りてきた。

 誰かはすぐわかる。

 陛下だ。


『久しぶりだね、チャールズ・フォート・ジョウント君。昨年の魔法武闘会以来だね。あの頃はまさか君がスティヴァレ国に敵対するとは思ってもいなかったよ』

 そう来たか。


『私はスティヴァレに仇なしているつもりはない。陛下及び上流貴族、それと結びつく一部の者が道を違えただけだ。かつて陛下は英邁な方だと思っていた。だがここ最近の様子を見る限り変わられてしまったようだ。だがまだ間に合わない訳では無い。ここから兵を引きもう一度考え直して欲しい』

 まわりに聞かせる事前提のわざとらしい台詞だが本音も混じっている。

 間に合わないわけではない以降は少なくとも本音だ。


『国家の秩序の本質は階級制度と権力による支配だよ。身分階級が上の者に対し下の者が無条件に従う事。それなくして国としての秩序は成り立たない。身分が上位の者に対して下位の者が従わなくなれば国は崩壊してしまうだろう。それが世の理だよ。

 チャールズ・フォート・ジョウント、君は十数件の領主館及び商会襲撃の罪と民衆による暴動幇助の罪、そして我が妹ロッサーナ誘拐の罪に問われている。犯罪者としておとなしくここで自らの罪に裁かれるべきだろう』


 陛下は陛下のシナリオに書かれた役に徹しているようだ。

 やはりそうだろうなと若干諦めが入る。

 でも俺は俺で自分の役を演じるしかない。

 すくなくとも今この場面では。


『確かに数件、領主館及び商会の倉庫へお邪魔した事があるのは認めよう。だがそれは領主や商会が与えられた責を果たさず私腹を肥やす事のみ目を向けていたからだ。彼らはその代償を支払わざるを得なかった。それだけの事。

 またその数件以外の襲撃及び殿下誘拐の件については私の与り知るところではない。大方そちらの国政に巣くう輩の仕業であろう。どのような輩かはかつて皇太子の身分から幽閉される身となった陛下ご自身がよくご存じの筈だ。私としては殿下の拉致を発見した者、及びその時間帯に王宮にいた者を調べた方がいいだろうと忠告しておこう』


 陛下が一瞬にやりとしたのが確かに見えた。


『助言はありがたく受け取らせて貰おう。だが我が妹ロッサーナ誘拐の件については私はよく知っている。我が魔法は全ての場所全ての時間に起こった事を認識可能だ。故にあの時何が起きたかはこの目で確認した。

 第一発見者である侯爵2名と伯爵1名、更にこれらの者の意のままに動く近衛騎士団の部隊員合計13名が何の目的でロッサーナの執務室に行き、どんな会話をしたか、既に把握している。

 だが彼らが見ている中、妹は姿を消した。代わりにチャールズ・フォート・ジョウント、貴殿の犯行声明だけが残された。あの場で起きた出来事はそれが全てだ』


 ここであえて彼らの犯罪を知っているぞと陛下は宣告した訳だ。

 何のつもりだ。

 そう思いつつ俺は俺の台詞を伝達魔法にのせる。


『だがそれは私の仕業でも無ければ私の部下の仕業でもない。他に私の与り知らぬ処で行われた襲撃事件と同じとしか言いようがない。

 それにしても陛下の懐の深さには恐れ入る。まさか妹殿下を襲撃しようとした者をいまだ部下として、このような場まで引き連れて使用しているとは。私には真似の出来ない事だと言わざるを得ない』


 さてどういう返答が返ってくるかな。


『残念ながらロッサーナの件については貴殿以外に出来る魔法を持つ者を思いつかない。姿を消した直後に走査した結果、付近には存在を感じなかった。かつて貴殿と対戦した闇魔法使いでも遠距離移動の魔法は使えない。その魔法を使えるのは貴殿チャールズ・フォート・ジョウントの他にはただ一人、私だけの筈だ。

 あと部下については心配してくれなくていい。何をしたか僕が知っている事はたった今、充分に理解してくれただろう。汚名を返上する為さぞかし必死になって働いてくれるだろうね。今更君達側へ逃げても無駄だろうから』


 陛下もなかなかいやらしい事をする。

 つまり『必死に働かないと後はわかっているよな』という脅しだ。

 あの3人の貴族、そしてあの場にいた騎士もこの場にいるのだろう。

 それだけこの場で本気になって戦わせるつもりのようだ。


『さて、チャールズ君と話し合ってもどうも無駄なようだから第二騎士団の方へも呼びかけるとしよう。これは王命だ。第二騎士団のここを預かる部隊長及び各騎士、兵士達に告ぐ。速やかにチャールズ・フォート・ジョウントを捕らえるとともにここを明け渡してくれ』

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