第100話 漁師直伝の泳ぎ方
飲み過ぎた翌朝はお茶漬けがよく似合う。
なおスティヴァレでは茶が全て輸入なので高価。
だから実際は茶ではなく冷たいだし汁漬けだ。
塩辛もちょうどいい具合に仕上がっているし、他のおかずもさっぱり系で揃えた。
ご飯よりパン派がいるかもしれないので一応パンも用意してある。
でも見る限り二日酔い組5名はごはんを選んだようだ。
「頭がガンガンするな、今日は」
「奇遇だね。僕もだよ」
それは二日酔いの典型的症状だ。
度数がかなり高い蒸留酒を半分に割った程度でガンガン飲んでいたからな。
「私も今朝は少しゆっくりしようと思いますわ」
「私もそうします」
テディとサラも似たようなものだ。
スティヴァレの果実酒はアルコール度数が強烈だから。
「飲んだ次の日はこういった朝食がいいですね。サラッとおなかに入るし胃に優しい感じです」
飲んだ中でただひとりナディアさんだけは平気な模様。
こう見えても昨年まで軍の最精鋭の1人だからな。
鍛え方が違うのだろう、きっと。
「昨日いい場所を見つけたのですが行きませんか。3人ならゴーレムボートと引っ張るボートとで行けますから」
「行く」
ジュリアは乗り気のようだ。
「俺も行こうかな」
「留守番していますから」
テディ以下は午前中は動かない模様だ。
「用意した方がいいものはありますか?」
「太陽が暑いからシャツは着ていた方がいいです。あと水中眼鏡とシュノーケルはあった方が楽しいと思います。自在袋は私も持って行きますけれど自分用が必要なら」
なるほど。
魚を捕るのだろうか。
別荘の庭まで引き上げておいた水上バイクとバナナボートもどきごと海へ移動。
水上バイクはナディアさんの運転で、俺とジュリアはバナナボートもどきに乗って出発だ。
ボートはかなり速い速度で沖へと向かう。
牽引されるボートの後ろに乗っている俺でも少し怖いくらいの速度だが、ジュリアは全くもって平気らしい。
俺は怖くてボートから手を離せず動けない状態なのだけれど、彼女は平気で周りを見回したり下をのぞき込んだりしている。
それでいて全くバランスを崩す様子が無い。
ボートは別荘のある砂浜からかなり沖に出て、かつ南下した場所で停止する。
ナディアさんがアンカーを下ろしたところを見るとここが目的地のようだ。
「ここは下が岩場で少し浅くなっています。そのおかげで他の場所より魚が多いようです」
「了解」
ジュリアがボートからいきなり海へ飛び込んだ。
見事な動きで回転し、下へと潜っていったようだ。
魚を捕りに行ったのかな。
俺も行こうかなと思って自在袋をボートに縛り付け、水中眼鏡とシュノーケルを装備したところでジュリアが上へ上がってきた。
「収納」
でっかい鰹っぽい魚をつついて水面に浮かび上がらせる。
魚は既に締めてあるようだ。
おいおい早速かよ。
とりあえず収納してやったら彼女はまたふっと水面下へと消える。
相当に泳ぎ慣れているようだ。
今度こそ俺も行こうと思ったらまたすぐにジュリアがあがってきた。
しかも今度はタコを抱えている。
「これも」
「俺も潜るから自分で入れてくれ。ここに収納袋をくくりつけてあるから」
水面からでも手が届く場所へ自在袋を縛り直す。
これなら海中からでも使える筈だ。
自在袋の出し入れは持ち主が袋に触れながら念じればいいだけだからな。
持ち主指定は家の全員やってあるし。
「感謝」
タコを収納してジュリアは再び海中へ。
どうやっているのだろう。
俺も飛び込むようにして潜ってみる。
おっとシュノーケルに海水が入った。
水中眼鏡も微妙に水が入ってくる。
慣れないから仕方ない。
水面でボートに捕まりながら直しつつ、海中の様子を見る。
ボートの下はナディアさんが言った通り少し高くなった岩場だ。
岩の頂点から海面まで
ただ周りはそこそこ深い。
見た限り砂地になっている部分は水面から
全体的に砂底で、この付近だけ岩場になっている感じだ。
そのせいか岩場を中心に魚がそこそこ多い。
見るとナディアさんは海面を泳ぎながら海中を見ているようだ。
泳ぐと言っても腕も脚も最小限だけ動かして水面を漂う感じ。
一方でジュリアはというと、すっと岩近くの場所から水面へと戻っていった。
また獲物を捕った模様だ。
俺もやってみようか。
まずは下の岩場の方へ行ってみよう。
頭を下げて腕を使って潜ろうと試みる。
だが何故か下へと進まない。
ちょっと潜りかけるが身長程度が限界。
つまり逆さになると足が水面に出るくらいだ。
仕方ない。
一度上に出て、ボートをつかんで呼吸を整えてからもう一度。
ターンはそこそこうまくいったと思う。
でもやはり身長程度が限界だ。
腕と足の力ですこしだけ下に行くが身長くらいでやはり潜れなくなる。
もう一度ボートに捕まって考える。
何故俺があまり下まで行けないかを。
海水は塩分がある分重い。
水中眼鏡には空気が入っている。
人間の身体の比重は確か水とそう変わらない程度の筈。
という事は肺に思い切り空気を吸って潜ったのが失敗の原因かもしれない。
空気は当然海水より遙かに軽い。
だから息を吸って体積が増えた分、軽くて潜りにくくなっている可能性がある。
ただ息を全部吐いた状態で潜ったら空気が足りなくて溺れてしまう。
だから思い切り息を吸うより少し少なめで挑戦。
今度は微妙にさっきより下に行けた気がする。
考え方は間違っていなかったようだ。
でもこの状態だと息が続かない。
すぐ苦しくなる。
うん、俺にはジュリアの真似は無理だ。
ただどうやって獲物を捕っているのかは気になる。
何せ銛などの漁具は一切使っていないのだ。
どうやっているのだろう。
そう思ったらまたジュリアが上へと戻ってきた。
そして今度はボートの上へ乗る。
どうやら上で少し休憩するようだ。
ちょうどいいので聞いてみる。
「ジュリア。さっきから魚とかタコとか捕っているけれどどうやって捕っているんだ? 手づかみだと無理だろあれって」
「水魔法。魚の頭を狙う。当てたら
そうか。
生物は
だから魔法でまず殺して、そして取り寄せる訳か。
「潜るときも水魔法で水流を作ると楽。紡錘形のイメージで自分を含めた場所全体を海水ごと水魔法で動かす。あと身体強化魔法を使うと沈みやすくなる」
なるほど、魔法併用という訳か。
そうすれば確かに普通に泳ぐより楽だし速いだろう。
言われてみれば当たり前の方法だけれど目から鱗だ。
「こうやって捕った魚は身の傷みが少なく高値。漁師の常識」
なるほど、
ジュリアの親は漁師と聞いている。
彼女もその辺を親から教わったか見て当然のように身につけたかしたのだろう。
よし、まずは魔法を使って泳ぐところから挑戦してみよう。
身体強化を使った後、自分の周りの水ごと水魔法で動かせばいいんだな。
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