第14章 2年目夏のバカンス
第90話 夏が来た
色々あって6月の終わりには、ヘウレーカと11人いるの漫画2冊をダンーコ社から出版した。
ヘウレーカはほぼそのままだが、11人いるの方は絵柄だの服装だの舞台だのをスティヴァレ向きにかなり変えての出版だ。
これらは
あまりに売れたので国立図書館出版部からクレームが来た。
こういう新しい表現形式はまずうちで出せという、しょうもないクレームである。
ただ最大手で監督官庁でもある国立図書館の意向には逆らえない。
結果、毎月1巻ずつの予定でイティハーサと乙嫁語りを仕上げて持ち込むことになった。
更に当座の読み切りとして、萩尾望都の精霊狩りシリーズとキャベツ畑の遺産相続人なんてのも訳して出版部へと持ち込んだ。
この辺はもうジュリア様々という感じだ。
何せこれだけの仕事を1月でやってのけたのだから。
実際ジュリアの描画速度は恐ろしい位に速い。
文字部分を変えるだけなら1時間で10頁以上仕上げる事が出来る。
それでもこれだけ仕上げるのは大変だ。
結果的には平日の学校終わりから夕食までと、安息日の午前か午後片方あるいは両方を費やしてお仕事をしている状態。
仕事をしろと強制しているわけではない。
むしろその逆だ。
「無理に仕事を詰めないでいいですから。その辺の出版社との調整はミランダの仕事ですわ」
「そうそう。学生時代でないと出来ないこともあるしさ。課外活動とかさ」
テディもフィオナも勿論他の面子も仕事量を抑えようとしているのだ。
しかし本人の言い分はというと、
「これを読んで描くのが楽しい。内容も読み進めるのも楽しいけれど、スティヴァレで読みやすいようどう変えるかを考えるのも面白い。何より自分の手でこのお話が完成するところがたまらない」
なんて感じ。
結果としてバシバシ仕事を仕上げてしまっている。
また、サラのお料理号外もパワーアップした。
サラの意見で読者の意見欄を追加したところ、また売り上げが伸びたのだ。
読者の意見は出版社の方で仕訳けた後ミランダ経由でサラに届けられ、サラが読みながら読者の意見欄をまとめるという形式。
大ヒットこそ無いが隔週刊で着実に売れている。
ナディアさんの児童書シリーズも絶好調。
一部の話が初級学校の教科書にまで取り入れられ、更に売り上げが増えた。
おかげで、
「何か僕達元々の面子が一番稼いでないよね」
「本当ですわ」
フィオナとテディがそう話したりする状態だ。
旧来の小説部門も医学書科学書部門も以前と同じ程度には出ているのだけれども。
なおミランダはかなり仕事が増えた模様。
「お願いするよりお願いされて断る方が遥かに多くてさ。全く参っちゃうよ」
なんて言いながら毎日外を飛び回っている。
まったくタフな奴だ。
俺はその辺の余波を受け、自分で訳したい本の翻訳がなかなか出来ない。
昨年の今頃も仕事に追われていたな。
そう思いつつ今年も仕事に追われている。
以前は忙しい時期がある程度決まっていたが今はそうではない。
サラの料理レシピは2週間に1度選んで翻訳する必要がある。
今では未知の難病の駆け込み寺扱いされているフィオナ担当の医学書追補版は忘れた頃に依頼が入ってくる。
テディ担当の小説は毎回次は何を訳すか探さなければならない。
ナディアさんの児童書はとりあえずこそあどの森の物語シリーズが12巻もある。
他の仕事が無い時に出来る限りこれを進めている状態。
ジュリアのイティハーサと乙嫁語りは既に全部訳してある。
でも1冊完結ものもある程度は見繕って訳してやる必要がある。
そんな状態で気が付けば暑い季節を迎えていた。
そんなある日のこと。
差出人を見て真っ先にテディが封を開ける。
ふむふむという感じに一読。
「改良型の馬無し馬車が出来たそうですわ。それに登山用のゴーレムも試作がほぼ終わって、8月にはバルマンのリゾートに作った試験線で試すそうです」
そう言えば夏までに改良したものを作るって言っていたよな。
忙しくて忘れていたけれど、それが出来たという事か。
「できるだけ早く行きましょう。今度こそあの車が買えるかもしれませんわ」
「クレモナ商会との話し合いもあるだろうしさ。その辺はミランダ担当だな」
放っておくとテディ1人で工房まで馬無し馬車を買いに行きそうだ。
税金を払った後だし収入も増えた。
今なら
取り敢えず俺達も手紙を確認してみる。
内容はまあテディが言った通りだ。
ただ8月の前半は工房を夏休みにするとも書いてある。
この期間にバルマンのリゾートで登山ゴーレムの試験をするとのこと。
「そうか。そろそろ夏休みにしないとな、この工房も」
「そろそろミランダが言ってくる頃だと思うけれどね」
「ですわね」
確かにそうだな。
「サラやジュリアの夏休みっていつからでしょうか」
「20日からです」
「サラやジュリアは何日くらい里帰りする予定かな?」
「1泊2日で充分。日帰りでもいい」
「私もそれくらいあれば充分です」
おいおい、もう少し帰ってやれよ。
親が悲しむぞ。
事務所の玄関扉が開く。
「ただいまー」
ミランダだ。
「オッタ―ビオさんから手紙が届きましたわ。改良型馬無し馬車が完成したので是非いらしてくださいだそうです」
「そうか。登山ゴーレムも出来たらしいな。今大急ぎで試験用の軌条を作っているそうだ。8月頭に試験するんだと」
「それもこの手紙に書いてありますわ」
ミランダが渡された手紙にさっと目を通す。
「今日クレモナ商会で聞いた話とだいたい同じかな。まあ私達は試験に立ち会う必要は無いけれどさ。
ところでそろそろうちの夏休みの話をしようと思うんだけれど、どうかな」
「今その話をしていたところですわ。サラ達は20日から休みで、実家へは日帰りか1泊2日でいいそうです」
「私が言える義理はないけれどさ。もう少し帰ってやった方が親は喜ばないか」
確かに俺達に言えた義理は無い。
勘当されてそれきりの者2名、勘当はされていないものの1年以上親に顔を見せていない者2名という面子だから。
「ここでの暮らしの方が楽しい。実家に帰ってもすることが無い」
ジュリアがそう言えば、
「私もです。実家にもその周りにも何もないですから退屈です」
サラもそういう感じだ。
「とりあえずわかった。さて、それでだ。20日から休みなら休みに入ってすぐ、8月頭位までちょっと旅行に行こうと思うんだけれどどうだろう」
おっと、いきなり休みの計画が出て来たぞ。
「オッタ―ビオさんの工房はどうするのでしょうか」
「勿論行く。まずはオッタ―ビオさんの工房に寄って、それから更に旅行の目的地へ行こうという話なんだ」
ミランダは自在袋を置いて自席に座る。
「去年と同じボリアスコの別荘でも良かったんだけれどさ。ラツィオに行くついでという事で、ゼノアとラツィオの中間くらいにあるゲルセットの貸別荘を借りた。前回と同様プライベートビーチ付きだ。持ち主が今年の夏は使わないそうでさ。気持ちよく貸してくれたよ」
おいおいおい。
「大丈夫なの? 今回もまた申し訳ないような豪華な別荘じゃないよね」
「いや、前回以上に大きくて豪華な別荘だと思う。今回はクレモナ商会の別荘だ」
おいおいちょっと待ってくれ。
「そんな場所をお借りしても大丈夫なのでしょうか」
「今年はクレモナ商会、その別荘を使わないから問題ないそうだ。なんても今年の接待は新装開店したバルマンのリゾートを期間中借り切ってやるらしい」
おいおいおい。
「あそこって一般向けのリゾートじゃなかったっけ」
「そうだけれどさ。会頭自身が視察して大変気に入ったそうだ。様々な種類の浴槽やそれらを順番に入る健康増進システム、露天風呂で食事できるサービス、あとはあの
そうなのか。
ならいいのかな、他の別荘を借りても。
「確かあの件では
「登山ゴーレムが成功したらあと
サービス貰いすぎな気がするけれど大丈夫だろうか。
何かオチがなければいいけれど。
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