第83話 昼食は本場で?

「それでは今回はわざわざお越しいただいた上、貴重な意見をお聞かせいただきありがとうございました」

「いえ、こちらこそ面白い物を見させていただきました」

 テディから欲しいオーラが本気で出ているものな。

 製品化するまでに稼がないと大変そうだ。

 それとも案外うちの財政は余裕があるのかな。

 会計関係はミランダやフィオナに任せているからよく知らないけれど。


「あとすみません。買い物1件いいですか」

 フィオナが突然そんな事を言う。

 一体何を買う気だろう。

「何でしょうか」

「素体状態に近い小型ゴーレム、1体欲しいんですけれど」

 何に使うんだろうそんな物を。

 うちにゴーレムを使うような業務は無いよな。


「小型というとどれくらいですか」

「ここの工房で出している炭鉱先導坑用タイプ6位のサイズで調整は速度優先で。改造するのでカバー類が外しやすいものが欲しいです」

 どうやらフィオナには確たる目的があるようだ。

 俺にはわからないけれど。


「わかりました。レイチェル君、最終仕上げ前のネクサス6はあるかい」

「3体あります」

「なら全部こっちへ持ってきてくれ」


 ゴーレムって結構重いよな。

 どうやって持ってくるんだろう。

 そう思ったら奥から作業服姿の女性がゴーレム3体を引き連れてやってきた。

 なるほど、ゴーレムに歩かせれば問題ない訳か。

 引き連れてきたゴーレムは2足歩行の人間型タイプ。

 ただし身長が俺の胸程度と小さめ。

 仕上げ前だからか関節部分等は金属製の骨格が見える状態だ。


「これでいいでしょうか」

「はい。それでいくらになりますか」

 表に出ていた安いゴーレムが1体正金貨1枚100万円だったよな。

 これは小型高性能タイプだからもっと高い筈だけれど。


「3体とも差し上げます。そのまま持って行って下さい」

 えっ、何だって。

「ちょっと主宰!」

「それは申し訳ないです」

 フィオナとゴーレムを連れてきたレイチェルさん、双方から異議が出る。

 でもオッタービオさんは涼しい顔だ。


「これをフィオナさん達に差し上げた方が後ほど面白い事になるでしょう。そう思えばこれくらい大した額ではありません。それに馬無し馬車の件で色々と参考になる意見をお聞かせいただきましたしね。ですからどうぞ3体とも受け取って下さい」

 おいおいおいおい。

 いいのだろうか。

 製品価格で正金貨3枚300万円以上の筈なのに。


「わかりました。取扱説明書と初期固有名称確認票をつけますね」

「いいのでしょうか、本当に」

 これはテディだ。

「よくあることですから」

 レイチェルと呼ばれた女性は苦笑いしている。


「それでどうやって持ち帰られますか。簡易起動させて後をついてこさせてもいいですし、1000盃200リットルの大型自在袋なら3体入りますけれど」

「なら僕の自在袋でちょうど入ります」

 オッタービオさんの問いかけにフィオナがそう答える。

 どうやら最初からゴーレムを買う気だったようだ。

 3体ただで貰えるとは予想外だっただろうけれど。


「どうもありがとうございました」

「いやこちらこそ。それじゃ馬無し馬車改良版が完成したらすぐ知らせますから」

「よろしくお願いします」

 俺たちは工房を後にする。


「さて、次は飯だな」

「何処かいい処あるか?」

 俺は学生時代に外食できるような財政事情では無かったので全く知らない。

「任せてくれ。何件か心当たりがある」

 自信満々のミランダに引き連れられて俺たちは歩いて行く。


 学校方向へ向かって公園を突っ切ろうとしたところだった。

 フードをかぶり公園のベンチに座っていた男がこちらへ声をかけてきた。

「お嬢さん方、昼食の場所をお探しでしょうか」


 怪しいなと思って顔を見て気づいた。

 皆はおぼえていないかもしれないが俺は彼を知っている。

「ヴィットリオさんでしょうか。王室秘書官の」

 テディはおぼえていたようだ。

 雰囲気的に多分他のみなさんも。


「おぼえていただけて光栄です。実は主から皆様をお食事に招待するよう命ぜられております。馬車を待たせておりますので一緒においで願えますでしょうか」

 おいおい。

 この人の主というと陛下だよな。


「主が言うには、ここで以前に食事をいただいた借りを1回でも返しておかないと、夏のバカンスの時に押しかけにくいとの事です」

 何だよそれ! 

 陛下が夏におしかけるの既に確定かよ!

 でも間違いなく相手が陛下だという事はわかった。


「仕方ないな」

 ミランダが俺の思った事と台詞的に全く同じ台詞を言った。

 しかし奴はそう言いつつもニヤニヤしている。

 同じ仕方ないでも俺とミランダでは大分内容が違うようだ。


 そんな訳で俺たちはヴィットリオさんの後に続いて公園を出て、待っていた大型馬車へ。

 馬車は公園を抜けて大通りを走っていく。

 王宮の門も素通りだ。


「良かったなサラ、王宮内観光なんて普通出来ないぞ」

 確かにミランダの言う通り王宮敷地内なんて普段見ることができない場所だ。

 でもそういう問題じゃ無い。

 それにサラ、再び固まっているし。

 ナディアさんは少し慣れたようだけれどもやはり緊張気味。


 馬車はメインの王宮を過ぎ裏側へ。

 小綺麗な建物の前、小さな馬車止めがあるところで停止した。

「こちらになります」

 馬車を降りヴィットリオさんの案内で中へ。

 なお固まっているサラはテディが何とか歩かせている。


「こちらは王族の私的な迎賓室となります。主がお待ちです」

 エントランスを通り最初の部屋を入ると小会議室のような場所だった。

 ただし王宮内だけに造りが豪華だ。

 壁も一般的な家と違い大理石だし下の絨毯は高そうだしテーブルも椅子もいかにもいいものという感じだ。

 テーブルには既に様々な料理が並んでいる。

 更に言うとここへ招いた張本人2人の姿もある訳だ。


「それでは失礼しました」

 ヴィットリオさんは消え、俺たちと陛下、ロッサーナ殿下が残される。

「まあ座ってくれよ。サラさんがラツィオは初めてと聞いたからさ、ラツィオ料理を各種並べてみたんだ。正式な食事会ではないから様式がごっちゃだけれどね」

 仕方ない。

 覚悟を決めて適当な場所へと座る。


「あと給仕とかは来ないから飲料は適当にセルフサービスでさ」

「料理そのものはうちのシェフが作りましたから味は確かだと思いますわ」

 そりゃ王室のお抱えが作ったならこの国でも最高位の味だろう。


「それではいただきましょう。お好きな物からどうぞお食べになって下さいな」

 そう言われてもナディアさんとかサラは手が出せないだろう。

 だから俺は陛下や殿下と同じタイミングで目の前の骨付き肉を取る。

 子羊を焼いたものにちょっと酸味があるソースをかけたものだ。

 うん、ジューシーで美味しい。

 流石王室のお抱え料理人、腕は確かだ。


 見るとナディアさんとサラ以外は果敢に取っている。

 ナディアさんとサラもおずおずという感じで取り始めた。


「それにしても面白い事をしているんだね。あの馬なし馬車はアシュ君達の特注かい? ゴーレムまで守備範囲だとは思わなかったな」

 良く知っているよなとはあえて言わない。

 何せ陛下の魔法なら遠隔情報も見放題なのだ。

 しかもある程度の未来視まで出来る。

 つまり何事もその気になれば筒抜けだ。


「あれはフィオナが言った事をヒントにしてオッタービオさんが作った試作品です。あれを特注するような財力は無いですよ。それにまだまだ改良するそうですし」

「でも元々はアシュが言った事だよね。ゴーレムは人型や動物型の必要が無いとか。足が車輪になるのだって元はアシュが教えてくれた別の装置からの発想だし」

 こらフィオナ俺に振るな。


「馬無しで自由に走れる馬車、いいですわね。私も個人用に1台欲しいですわ」

 殿下はどうやらテディと同じような事を考えているようだ。

「私も是非手に入れたいのですけれどね。次の試作品は夏までには作るそうですから、その頃には入手時期がわかるかもしれませんわ」

 はいはいテディさん。


「夏までには改良点を全て直した試作品は作れると思うけれどね。でも商品化まではどうだろう」

「あの方は凝り性に見えましたから」

 テディとかフィオナ、あと多分ミランダはこの面子でも公式の場で無ければあまり遠慮はしない。

 ナディアさんもこの面子の中でなら話せるようになったようだ。

 進歩したな。 


「でも試作機まで出来たら後は早いと思うぞ。車体や主な構造は馬車業者に投げてゴーレム部分だけをあの工房で取り付ければそう手間はかからないだろ」

 ミランダは楽観的。 

「そうだけれどね。問題はどの程度まで作り込んだら商品化していいと判断するかだよね。ナディアさんも言うようにオッタービオさん、色々こだわりそうだし」


 俺はそんな話を無視して次の料理へ手を伸ばす。

 今度は主食系という事でピザだ。

 ラツィオ風ピザは薄焼きでトマトソースとチーズのみのシンプルなもの。

 味も甘めで辛みは無し。

 分厚くて何でも載せるゼノア風とは大分異なる。

 でもこれはこれでしっかり美味しいし落ち着くんだよな。

 パリパリと遠慮無くいただく。

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