第27話 怪しい別荘

 ほぼ1時間ちょうどで乗合馬車はボリアスコのターミナルへと到着。

 俺達同様いかにもリゾートですよという皆さまが降りていく。

「さて、場所はどの辺かな」

 ターミナルは街中の広場状になった場所。

 そこから四方向に道路が伸びている。

「少し歩くらしい。海沿いで馬糞が臭わない程度には距離があるって言っていた」

 確かに馬車のターミナル付近は結構臭う。

 まあ馬車のターミナルなんで何処でもそんなものだし、ある程度は仕方ないのだろうけれど。


 ミランダを先頭に海側へ向かって歩くこと50腕100m程度。

『直進:公共ビーチ』と書かれた看板を左に曲がる。

「ビーチの方じゃないんだ」

「まあ任せておけ」

 どんな場所なのだろう。

 右へ左へと細い道を抜けて大きな屋敷らしい門の前に出た。

 ミランダは迷わずそこの門に手をかけ、暗号呪文を唱える。

「何か大きそうな建物だね」

 フィオナの感想に呪文を唱え終わって門を開き始めたミランダが頷いた。

「ゲオルグ商会の別荘だからな。本来はやんごとなきお客様をお迎えしたり接待したりする場所らしい」


 おいおい。

「そんな場所借りても大丈夫なのか?」

「グードリッジさんはもうこの夏は使わないって言っていたからな。貸してくれといったらあっさりOKしたよ。あの水ポンプ、もう完成して順調に水を丘の上の開拓地に流しているらしくてさ。こんな別荘で良ければと二つ返事で貸してくれたよ」

 本当にいいのだろうか。


 その思いは中へ入り、別荘本体を見た時に更に強くなった。

 何だこの立派な建物は。

 大きさが俺達の家以上だし壁が白いし。

 ここスティヴァレの建物は大体外壁は赤からオレンジ系統の色だ。

 土を壁に塗り付け表面を魔法で焼くという製法上、どうしてもそんな色になる。

 でも上等な建物だと焼いた後、草木灰を塗ってもう一度焼いて表面をガラス質に仕上げる。

 そうすると白とか緑色とかの艶のある仕上げになるのだ。

 無論手間がかかるので金持ちの家くらいしかそんな事をやっていない。

 しかも白色に仕上がる草木灰は結構貴重品で高価な筈だ。


「立派な建物ですわね」

「貴族クラスの賓客を招いたりするらしいからな。ああ見えてグードリッジさん、手広く色々やっているし。多分あの馬車も親父経由で設計図を手に入れて作っているぞ。さっきの馬車の台車部分にゲオルグ商会の刻印があったしな。

 ただこの別荘の売りは大きさや豪華さじゃない。別荘らしく色々といい感じの施設があるらしいんだ」

 どういう事だろう。

 そう思いつつ、まずは中に入ってみる。


 玄関内はまあ、普通の貴族館に近い造りだ。

 広めのエントランスがあり、受付風のスペースがあり、階段があるという感じ。

「今回実際に使うのはこっちの場所だ」

 勝手知ったる他人の家という感じでミランダが案内する。

 出たのは広い海が見渡せるリビングだ。

「この窓の一枚ガラス、どれくらいするんだろう」

 フィオナがそんな事を言う。

 透明なガラスというのはスティヴァレでは高いのだ。

「まあその辺は豪華さにも振っている別荘だからな。でもいい眺めだろう」

「本当ですわ」


「でもこの眺めだけじゃないんだ。荷物を置いたら次行くぞ」

 落ち着く暇もなく追い立てられるように移動。

 食堂らしい場所とキッチンの横を通過して、そして出た部屋は……待てこれは!

「風呂ですね」

 うちの風呂より遥かに広い風呂だった。

 4人で入っても余裕位の浴槽が2カ所もある。

「これなら全員で入っても大丈夫ですわ」

 おいテディ待てそれは俺にはちょい厳しい。

 夜に色々やっているじゃないかと言わないでくれ。

 夜そこそこ暗い中とこんな明るく広い場所でというのは色々違うのだ。


 そしてやはり大きく透明なガラス窓の向こうは海だった。

 そこそこ広い階段が海、浜辺らしき場所まで続いている。

「この先はプライベートビーチになっている。あまり広くは無いらしいけれどさ。だから海で思い切り遊んでからこの風呂場で砂と潮を落としてなんて出来る訳だ。しかもプライベートビーチだからムフフな事をしても問題ない。どうだいアシュ、なかなかいいだろう」

 良すぎて大変ヤバそうだ。

 だから回答は保留しておく。

 ついでに更にヤバい事になる前にちょっと話を逸らせておくとしよう。


「取り敢えず昼食を食べてから遊ぼうか。色々買いだしてあるからささっと作れるけれど」

「ならアシュの手伝い1人で、もう1人は私と寝室の整備だな。2階にちょうどいい寝室があるらしい。うちの家以上にでっかいベッドがついているそうだ」

 何だそりゃ。

 何用なのか思い切り問い詰めたい処だ。

 まあきっとナニ用なんだろうけれどさ。

 ここは行楽地にある商家の接待用別荘。

 そういった接待もやりかねない。


「なら今日は僕が手伝おうかな」

「なら私は寝室の方を担当しますわ」

 あっさり分担が決まる。

 俺の手伝いはフィオナだ。

「それじゃまず、食べ物を保存庫に入れておこうか」

「生ものとかは収納袋に入れたままの方が痛まなくていいかもしれないね」

「ならお昼に使う分だけ出せばいいか」

 調味料だのパンだの色々取り出す。

 さてそれじゃ調理に取り掛かろうか。

 今回はマヨネーズが手に入った。

 ここスティヴァレではマヨネーズと言わずメルカソースと言うらしいけれど。

 これで簡単にサンドイッチでも作っておこう。


「それじゃフィオナ、この鰹の切り身をオリーブオイルでじっくり煮てくれ。泡が出ない程度に。ニンニクとかハーブは適当で、まあ任せた」

「いつものオイル煮でいいんだよね」

「そう、それで」

 一方で俺は卵を魔法で一気にあたためてゆでたまごを作る。

 予定ではツナサンドと卵サンド、ハムチーズサンドを作るつもり。

 簡単だし美味しいしちょうどいいだろう。

 でもある程度晩飯も仕込んでおいた方がいいのかな。

 色々疲れる事態になってしまう可能性も否定できないから。

 収納袋に入れておけば痛んだり腐ったりする事は無い。

 だからピザでも何枚か焼いておくとしようか。

 ローストチキンやポテトサラダ等も。

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