61

 神ツ国中央神殿の奥にある自室の窓から、シュテファーニアはぼんやりと降りしきる雪を眺めていた。夜目にもわかる灰色の空から、ひらひらと白が舞い下りてくる。

 殿下とエリシュカは無事に東国へと至ったのかしら、と彼女は思った。わたくしの言葉の届かぬ遠くへ、すでに辿り着いているといいのだけれど――。

 いまのシュテファーニアは、以前にも増して不自由な暮らしを強いられていた。巫女としての修行こそ続けられていたものの、与えられていた幾許かの特権――夜を徹して図書庫にこもったり、兄と書簡を取り交わしたり――はすべて取り上げられ、むしろほかの巫女見習いたちよりも窮屈な思いをしているほどである。

 兄イエレミアーシュの手引きによって父である教主と話をした夜から、シュテファーニアは修行の一環としての奉仕に伴う外出や母との文通さえ禁じられ、なかば中央神殿に幽閉されるようにして修行に励んでいる。

 逃げたりなどしない、奉仕活動は大切な務めのひとつなのだから、自分はそこに加わる義務があるはずだと正論を述べても、シュテファーニアが属する中央神殿の神官長は教主、つまり父その人であり、彼女の主張が認められることはなかった。

 かろうじてツェッィーリアを傍に置くことだけは許してもらえていたが、世話係である彼女に対してすら監視の目は光っているらしく、その徹底ぶりに父の怒りの深さが感じられるような気がした。

 当然と云えば当然のことだわ、とシュテファーニアは思う。

 父はこの国と神とを守るべき教主なのだ。いくら娘であるとはいっても、守るべきものを踏み躙ろうとした者をそう容易く許すわけにはいかない。シュテファーニアの云い分を認めることはつまり、父にとってみれば自身の存在意義を自ら否定することに等しい。

 娘の云い分を認めるわけにはいかない。父を否定にかかった娘を、しかし彼はこれ以上厳しく罰することもできないのだ。愛ゆえに。

 父の心は痛いほどによくわかる。シュテファーニア自身の心と、それは表裏一体であるからだ。

 己が信ずるところを守るためには、相手を否定せずにはいられない。

 だが、これまで培ってきた絆が、完全なる否定を許さない。

 これからいったいどうしよう、とシュテファーニアは思った。なんの力も持てぬまま、神殿の奥深くに閉じ込められ、不甲斐ない自分を責めながら巫女として生きるのか。賤民に負い目を、自身に憐れみを、ただ抱くだけ抱いて、なにもできないまま――。

 厭よ、そんなのは厭。

 でも――、とシュテファーニアの心の奥底で臆病な声が小さく囁く。

 ここでじっとしていれば――お父さまの云うなりにここに閉じこもっていれば――、おまえは誰も傷つけずにいられるのよ。お父さまもお母さまも、お兄さまやお姉さまがたも、誰ひとりとして。

 ねえ、それでいいじゃない、と声はなおも続ける。誰もおまえを責めたりはしないわよ。賤民も、イエレミアーシュお兄さまも、ツェツィーリアも、誰も。

 ――わたくし以外は、誰も。

 賤民を解放し、国を変える。神から未来を取り戻し、新しい国へと生まれ変わる。

 それは、ほかの誰でもないシュテファーニアの理想、シュテファーニアだけの理想だ。

 たとえ実現しなくとも、誰も彼女を責めたりはしない。父はもちろんのこと、シュテファーニアの心をよく知るイエレミアーシュもツェッィーリアも、彼女の理想が叶わなかったことを憐れみはしても、責めたりはしないはずだ。

 もう、このままでもいいのかもしれない、とシュテファーニアは臆病に身を委ねそうになる。だって、わたくしの罪と身勝手の象徴であったエリシュカは王太子とともに幸せになったのだから。ほかの誰に責められることがあっても、あの子が幸せなら、わたくしはそれで――。

 弱々しいため息をついたところで、部屋の扉がごく控えめに叩かれる音がした。

 誰、とシュテファーニアは首を傾げる。父に逆らい、立場を悪くしたシュテファーニアを訪ねてくる者はいない。それでも以前は、巫女や神官たちから親しく声をかけられることも多かったのだが。

 億劫そうに在室の応えを返せば、姫さま、とごく抑えたツェッィーリアの声が聞こえた。シュテファーニアは急いで扉を開け、どうしたの、と問うた。

 傍仕えである彼女ならば、この部屋に入るのにいちいち扉を叩いたりせずとも腹を立てたりしない。現にツェッィーリアは、滅多なことでもない限りそんな真似はしたことがなかった。

「ツェツィーリア?」

 どうかしたの、と尋ねるシュテファーニアに、彼女の忠実なる侍女は硬い表情を崩すことなく低声で答えた。

「いますぐに大聖堂までお運びくださいませ、姫さま」

 はあ、とシュテファーニアは両眉を軽く持ち上げた。驚きと不審、彼女らしからぬ品のない応えは無理からぬものであった。

 大聖堂は広大な図書庫に次いでこの中央神殿の中核となる部屋で、月に幾度も大規模な祭祀が催される神聖なる場所だ。

 いまだ巫女として正式な地位を得ていないシュテファーニアが大聖堂に足を踏み入れるのは、年に四度の大祭祀の折と月に一度の教主による講義の際、あとはせいぜい清掃当番のときくらいのものである。

 今夜はたしかに市井の民も参列を許される祭祀の晩ではあるけれど、とシュテファーニアは思った。わたくしたち修行中の者たちは、列席を許されていないのではなかったかしら。

 シュテファーニアがそう云うと、ツェツィーリアは硬いままの表情に苦味を添えて、イエレミアーシュさまがお呼びなのです、と答える。

「お兄さまが?」

 なにやら厭な予感がする、とシュテファーニアは思った。父との話合いが決裂してこの方、文のやり取りを禁じられてからこちら、兄と話をする機会はついぞ訪れなかった。

 祭祀の場への急な呼出しが穏当なものであるわけがない、と思うのは、シュテファーニア自身腹に一物を呑んだままでいるからなのか、あるいは兄が自分以外に見せる冷酷と薄情をよくよく知っていたからかもしれない。

 厭な予感とはつまり、己に災難が降りかかることを案じてのものではなく、祭祀の場に集まっている者たちにとっての不運あるいは不幸をおそれてのものである。

「念のため、とイエレミアーシュさまは仰せでした」

 ツェツィーリアの前置きは、シュテファーニアの胸に立ち込める暗雲をより濃くするものでしかない。

「もしおまえが怖気づくようなら、私は私のやりたいようにするよ」

 イエレミアーシュの口調そのままにツェツィーリアが云った。

「やりたい、ように……」

 シュテファーニアが紫色の双眸を細く眇めると、ツェツィーリアはなにかに怯えるように首を小さく横に振った。

「いずれ、ろくなことではないようね」

 低く呟く主に向かって、しかし賢い侍女は頷いたりはしなかった。わかったわ、とシュテファーニアは云った。

「すぐに大聖堂へ向かいます。支度を手伝って、ツェツィーリア」

「……姫さま」

 どこか抵抗するようなツェツィーリアを強引に室内へと招じ入れ、身支度を手伝うようにと命じる。神殿で暮らすようになってからのシュテファーニアは、自身の身のまわりのことはなんでも自分でやってきたが、手伝う者がいてくれるのであればそのほうが早い。それに、いまはなんとなくひとりになりたくなかった。

「髪を纏めてもらえるかしら」

 そのあいだに自分でお化粧を済ませてしまうから、とシュテファーニアは云い、小さな鏡の前に腰を下ろした。化粧とは云っても、神に仕える巫女に華美な粧いは不要だ。見苦しくない程度に唇に潤いを与え、頬に薄い紅を乗せればそれで終いである。

 ツェツィーリアの器用な指先に髪を纏めてもらいながら、シュテファーニアは大聖堂で待っているという兄イエレミアーシュに思いを馳せた。

 父との話し合いは決裂した。

 娘の言葉を聞き、怒りと悲しみに支配された父は、シュテファーニアを本来の居場所――修行中の巫女に相応しい窮屈な暮らし――に押し込めた。罰らしい罰を与えられなかったのは、父が娘に甘いゆえ、あるいは、シュテファーニアの言葉が父の胸を確かに抉っていたからだろうか。

 そしてそれは、教主にとって血の繋がらぬ息子であるイエレミアーシュも同じだった。西方神殿を預かる神官長である彼もまた、これといった罰を受けることなく、多忙な日常へと戻されていたのである。

 シュテファーニアとの書簡のやり取りこそ禁じられていたが、それ以外にとくに不自由はなかった。もっとも、妹のために生きているような男にとってみれば、その仕打ちこそがなによりも耐え難い罰であったのかもしれないが。

 お兄さまはいったいなにを思われただろう、とシュテファーニアは思う。やりたいようにする、という言葉が不吉なものに感じられてならない。わたくしのことだけが大事だと、なんの躊躇もなく云い切るお兄さまが、あまり無茶なことをなさらなければいいのだけれど。

 兄であるイエレミアーシュが、家族に、ひいてはこの国に対して複雑な感情を抱いていることを、シュテファーニアは正しく理解している。自分に向けられる彼の感情が、ただの兄としてのものではないことも。

 けれど、シュテファーニアにとってのイエレミアーシュは兄だ。兄でしかない。幼い頃からともに育ってきた家族に、生涯わがただひとりとしての情を持つことは禁忌であると思っている。

 それに、たとえ、倫理的な問題などいっさいなくとも、彼女がイエレミアーシュに特別な感情を抱くことはなかっただろう。

 シュテファーニアは、ただひとりと向かいあうよりも多くに与えることを望むような女だった。それは幼いころから顕著であった彼女の核となる性質のようなもので、だからこそ父も母も彼女が神に仕える道を選ぶことを寿いだのである。

 自らの過ちを償うに、エリシュカひとりの幸いだけではなく、国を変えたいなどと大胆なことを願うのも、あるいはその性質ゆえのことであるのかもしれない。

 わたくしたちが親密な感情を交わすのにたとえなんの問題もなかったとしても、わたくしはお兄さまだけを特別に想うことはできない。そのことはお兄さまにもわかっているはずなのに、とシュテファーニアは思った。いまだに諦めてはくださらないのね。

 重苦しいため息をつきたくなるシュテファーニアだが、ここで妹に対する想いゆえの残酷をイエレミアーシュに許すわけにはいかない。

 大切な兄に過ちは犯してもらいたくはないし、周囲の誰にも無用の苦しみを味わってもらいたくはない。自分が出向くだけで、兄の行動に抑制が効くのならば、大聖堂へでもどこへでも赴くつもりだ。

 このときのシュテファーニアは、自らの意思で自らの未来を選んでいるようで、じつはそうではなかった。

 妹のことしか考えていない兄にとって、彼女の思考を読むことなど、呼吸をするよりも容易い。自分の伝言を聞いたシュテファーニアがなにをどう考えるか、感じるか、イエレミアーシュには、あらかじめなにもかもお見通しだった。

 いかにもそれらしい言葉を並べれば、妹はそこにありもしない残酷を思い浮かべるだろう。その残酷を執り行うに吝かではないが、いまはその必要はない。

 イエレミアーシュにとっていま大事なことは、シュテファーニアを大聖堂に呼び寄せることだった。

 ――わたくしならば、お兄さまの無謀を止めることができるはず。

 そう考える時点で、シュテファーニアにはすでにイエレミアーシュが思い描く以外の未来を選ぶことはできなくなっていたのだった。


 ツェツィーリアは歩む通路を慎重に選んで、大切な主を大聖堂へと導いていった。

 教主の宮に仕えていたときから有能であった彼女は、もちろんこの中央神殿でもその才をいかんなく発揮している。それは、シュテファーニアの身のまわりを、彼女が快適に感じられるよう整えるだけではない。いざというときに備えて、あらゆる知識を蓄えておくこともそのひとつだった。

 ツェツィーリアの頭の中には、中央神殿の建物の配置や人々の動線がしっかりと叩き込まれている。ここに十年以上暮らす年嵩の巫女たちよりもずっと確かなツェツィーリアの記憶に導かれ、シュテファーニアは誰にも見咎められることなく、大聖堂の入口の近くにまで辿り着くことができた。

 中央神殿の大聖堂は、入口をふたつしか備えていない。教主だけが使うことのできる正面の入口と、そのほかの者たちが使う入口である。

「ツェツィーリア?」

 シュテファーニアが不審の声を上げたのも無理はない。ツェツィーリアが、こちらでお待ちを、と足を止めたのは、教主以外に通ることを許されない入口のすぐ傍であったからだ。

「すぐにイエレミアーシュさまがお見えになります」

 ツェツィーリア、とシュテファーニアは厳しい声音で侍女を呼んだ。

「おまえ、お兄さまになにを云われたの」

「なにを、とは?」

「ここはお父さまにしか使うことを許されていない特別な扉よ。お兄さまはここでいったいなにを……」

「私はなにも存じません、姫さま」

 今日の昼間、イエレミアーシュさまからのご伝言を受け取っただけでございます、とツェツィーリアは主に負けぬほど硬い顔つきのまま答えた。

「姫さまを刻限までにこの場所にお連れするように、と」

「先ほどの脅し文句は、その伝言に?」

 ツェツィーリアは頷かなかったが、シュテファーニアは彼女の表情から事実を過たず汲み取ることができた。

「まったく、いったいなんだってこんな……」

「姫さま」

 ツェツィーリアの声は低く、聖堂の中の教主の説法の声が漏れ聞こえる以外、しんと静まり返った廊下にあってすら、よく聞き取れないほどだった。彼女がまっすぐにこちらを見つめているのでなければ、あるいは聞き逃していたかもしれない。

 どうしたの、と答える代わりに、シュテファーニアはツェツィーリアの顔を間近から見つめ返すことで呼びかけに応じた。

「姫さまのお気が進まないのであれば、すぐにお部屋にお戻りください」

「どういうこと?」

「お叱りならば私がお受けいたします」

「そういうことを云っているのではないのよ」

 姫さま、とツェツィーリアは主の目を覗き込むようにして云う。

「おわかりでいらっしゃいますか、姫さま」

「なにを?」

「イエレミアーシュさまのお手を取られる、というのが、どういうことであるのか」

 ツェツィーリアの言葉にシュテファーニアは眉根をきつく寄せ、手を取る、と聞き返した。

「おまえの云い方だと、まるでわたくしがお兄さまを特別な方とお慕いしているかのような……」

「イエレミアーシュさまのお気持ちを知らぬわけではありますまい」

 時に追われるツェツィーリアは、直截な物云いでシュテファーニアをたじろがせた。

「お兄さまは無体な真似はなさらないわ」

 ええ、そうでしょうとも、とツェツィーリアは思う。あの方は決して決して姫さまを手酷く扱われたりはなさらない。真綿で包むように慈しみ、抱き締めて――、そして、絶対に手離さないだろう。

「けれど、あの方は姫さまに自由もお許しにはならない」

「自由……」

「この国を出ること、新たな夫君を迎えられること、そうした自由です」

 シュテファーニアは驚きに目を見張った。

「なにを、云っているの? ツェツィーリア」

「そう驚かれるようなことではありませんよ、姫さま」

 姫さまがこの国のことを第一にとお考えでいらっしゃることは承知しております、とツェツィーリアは続けた。どなたかをお慕いして、心を囚われるような方ではないことも。

「ですが」

 シュテファーニアの瞳が細められる。ツェツィーリアはそこにかすかな怒りを見て取った。だが、口を噤むようなことはしなかった。

「いまはそうであっても、人は変わるものです。いつか姫さまが、国を出たい、どなたかに嫁ぎたいと仰せになられる日が来ても、私はなんら不思議には思わない。ですが、イエレミアーシュさまは違います。あの方は、姫さまのそうした心変わりを、決してお許しにはならないでしょう」

「わたくしが、いつか……」

 おまえは本当にそんなことを思うの、ツェツィーリア、と云うシュテファーニアの声は聞きとりづらいほどに大きく震える。

「人は変わるものでございます」

 ツェツィーリアは聞きわけのないこどもに云い聞かせるような口調で繰り返した。

「時を重ねるうちにお考えがあらたまることもありましょう。新たな方と出会い、別れ、そうこうするうちに変わることもある、と申し上げております」

 姫さま、とツェツィーリアは厳しかった表情と声音とを、やわらかなものに変えて主を見た。

「この国が過ちを正す日を夢に見て、その希望を姫さまに託したのは私です。使命を抱いた姫さまをお支えし、夢叶う日までおそばにありたいと、そう願いました」

 ですが一方では、こうも願うのです、とツェツィーリアはシュテファーニアの手を取った。冷たく強張った指先があたたかな掌に包まれる。

「姫さまにご自身のお幸せを蔑ろにしていただきたくはない、と」

「蔑ろ……」

 そんなことはしないわ、とシュテファーニアは小さな声で答えた。

「やらなければならないことを前にして、それでも家族のことを思って躊躇っているようなわたくしが、そんな……」

「その躊躇いを大切になさいませ、と申し上げているのですよ」

 どういう意味、と云わんばかりにシュテファーニアの眉根が寄せられた。

「姫さまのお心に迷いがあるうちは、大いに迷われるのがよろしいかと存じます。躊躇いがあるうちは、立ち止まったままで、」

 よろしいのではないかと、とツェツィーリアは最後まで云うことができなかった。

「おまえの侍女は口が過ぎるようだね、シュテファーニア」

 濃紫の瞳に苛立ちを露わにしたイエレミアーシュが現れたせいだ。

「……お兄さま」

「待たせたね、シュテファーニア」

 おまえはもう下がれ、とイエレミアーシュは妹の肩を抱きながらツェツィーリアに云った。

「ツェツィーリア」

 シュテファーニアが思わず伸ばした腕を取った兄は、彼女の身体を横から抱き込むようにすると、下がれ、と厳しい言葉を重ねた。

「聞こえないのか、次はないと云っているんだ」

 お兄さま、とシュテファーニアは抗議の声を上げた。

「ツェツィーリアはわたくしの侍女です。そのように勝手なことはおっしゃらないでくださいませ。それに、彼女はいまわたくしと話をして……」

「いまさら怖気づくのか、シュテファーニア」

「お兄さま」

 なにもかもいまさらだけれどね、とイエレミアーシュは笑う。

「いまさら?」

 思わず問い返したシュテファーニアは、兄の横顔に隠しようのない緊迫があることを見て取った。心の裡を覗かせぬ兄にしては珍しいことだ。

「そう、いまさらだよ」

 じきに父上の説法が終わる、とイエレミアーシュは優雅な仕種で大聖堂の扉を示して見せた。漏れ聞こえてくる父の声には大仰な抑揚がつけられている。父の説法を聞き慣れたシュテファーニアはその声を聞いただけで、父が祭祀の終わりを告げる最後の祈りを唱えているところだということにすぐに気がついた。

「父上付きの神官のひとりに金を握らせ、時機を合わせてこの扉を開けさせる約束をした。私とおまえとはともにこの扉から大聖堂に入り、古い時代の終わりを告げるんだ」

 イエレミアーシュはそう云って冷たく美しく微笑んで、驚きに身を竦ませる妹の髪にやわらかなしぐさで唇を落とした。

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