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 今日は図書庫で待っている、とエリシュカに伝えてちょうだい、とツェツィーリアに伝言を託したシュテファーニアは、勤めから解放された夕刻、ほんの少しの休息も挟まずにすぐさま図書庫へと向かった。

 巫女の修行は厳しいもので、早朝から夜更けまでさまざまな勤めに忙殺されるのが日常である。だが、数日に一度ほどは夕刻に解放される日もあり、今日はその貴重な一日にあたっているのだった。

 今日を逃せば、次はまた先になってしまう。今日のうちになんとしても話をしなくては、とシュテファーニアは誰にもわからぬであろう覚悟を決め、小さく身体を震わせた。

 図書庫の入口で司書の青年からいつもどおりに書灯を受け取り、そのまま書架の並ぶほうへと歩を進める。途中、書机がずらりと並ぶあたりには、多くの神官や巫女――他国から教義を学びに訪れている者も少なくない――、それからまだ修行中の身であると思われる者たちの姿が見受けられた。

 シュテファーニアは適当な書架から適当な書物を選び出し、できるだけ人気の少ない場所を選んで腰を下ろした。ここではほとんど心配する必要のないことではあったが、万が一にも誰かの関心を引いたりしてしまうことのないように、特徴的な銀髪を隠すように深く頭巾をかぶって書を開いた。


 シュテファーニアが、兄イエレミアーシュと東国王太子ヴァレリー・アランと三人で話をしてから、すでに数日が経過していた。

 一刻も早く使者を手配してほしい、とヴァレリーは云った。一筆書けと云うのならすぐにでも書いてやる。だがそれは、使者が山に入るのを見届けた、そのあとのことだ、と彼は少しも譲らなかった。

 そんなヴァレリーのために、イエレミアーシュが山越えの使者を仕立てたのは今朝早くのことである。これから本格的な真冬を迎える神ノ峰を越えるには、手練れの案内人でも周到な準備が必要とされる。通常であれば三日はかかるその準備を一日半で終えた案内人が、王太子の認めた東国国王宛ての書状を懐に納めて出立するのを、イエレミアーシュとヴァレリーはともに並んで見送ったのだという。

 神殿をひとつ任されている兄はともかくとして、あくまでも神官の立場にある殿下には、国境の山門に近づくような自由すぎる振る舞いは控えていただきたいものだ、とシュテファーニアは思う。

 留学を目的に東国からやってきた勉学熱心な神官を装うヴァレリーは、巫女見習いにすぎないシュテファーニアとは異なり、その行動にほとんど制約がない。誰かにその身分を質されることさえなければ、という前提はあるが、寝起きする中央神殿からの外出も、ささやかな市場を歩きまわることも、他の神殿への出入りも禁じられてはいない。とはいえ、国境となると――。

 神官の仕着せを脱がずにいれば、あの派手な黄金色の髪が人目に触れることもないだろうから心配はいらないよ、と兄は云うが、本当だろうか。万が一にも誰かに見咎められるようなことがあれば――。

 ああ、でもいまは悪いことばかり考えていても仕方ないわね、とシュテファーニアは小さく首を振った。ともかくも使者は出立し、彼を見送った殿下は、お兄さまに、約束の書状はすぐにでもしたためる、と請け合ったという。

 書状は早ければ今夜にもわたくしの手元に届くだろう。ならばわたくしは、殿下のもうひとつの頼みを聞き届けなくてはならない。

 けれど、その前に――。

 ふと、こちらを見つめる気配を感じたシュテファーニアは、そこで静かに顔を上げた。図書庫の入口に近いほうへ視線を向ければ、そこには神殿付下女の仕着せに身を包み、大判の手巾で髪を隠したエリシュカが所在なげに俯いていた。

「お待たせいたしまして、申し訳ありません」

 丁寧に頭を下げるエリシュカに向かって、シュテファーニアは、いいのよ、と短く応じてすぐに立ち上がった。

 ついてきて、と低い声で告げて書灯を手にすると、静かな足取りで図書庫の奥へ向かって歩き出す。やや戸惑うような様子ながらも、離れることなく背後に続いてくるエリシュカの気配を確かめたシュテファーニアは、意識的に歩みを速めた。

 ふたつの書灯が書架の狭間を静かに進んでいく。書架と書架のあいだに潜む闇が、歩みに合わせて揺れる書灯に照らされ、まるで息づいているかのように退けられては膨らみ、膨らんでは退けられる。

 シュテファーニアは、エリシュカに気づかれぬように気をつけながら、細く小さな息をついた。安堵とため息の混ざったそれは、底冷えのする図書庫の空気に白く流れて、やがて消えていく。

 このわたくしが、賤民の娘にじかに声をかけることを許す日が来るとは思わなかった、とシュテファーニアは思う。いいえ、声をかけるどころか、いまのわたくしは進んで彼女に――彼女の人生に――かかわろうとさえしている。

 東国王城を抜け出し、たったひとり旅路を歩んで故郷へ戻ってきたエリシュカを神殿へ迎え、己が身の傍に置くことで匿い続けるシュテファーニアは、じつのところ、彼女の今後をどうすればよいのか、明確な考えを持っていなかった。

 東国王城で施された寵姫教育のおかげで読み書きを会得したというエリシュカに、図書庫への出入りを積極的に勧め、文字を忘れることのないようにしてやったり、講師役を買って出た上に、さまざまな課題を与えて手習の手助けをしてやったりはしているが、そうした学問がどこへ繋がっているのか――あるいはどこへ繋げるべきなのか――まではわからないままなのだ。

 このまま神殿に置いておくわけにはいかない。いまのところはツェツィーリアがうまく誤魔化してくれているようだが、いつまでもそれが通用するわけもないし、万が一にもエリシュカの正体が露見した場合、咎めを受けるのはシュテファーニアやツェツィーリアではなく、賤民である彼女のほうだ。

 かといって、家族のそばへ戻すこともできない。帰国して早々に両親兄妹のもとへと駆けつけたエリシュカだが、彼らとの再会はどうやらただ喜ばしいばかりのものではなかったようだ。彼らとともに暮らすことはできないと、エリシュカ自らが悟ってしまったのだろう。

 自由を知り、自立することを覚えた彼女は、しかしこの国にいる限り賤民であり続けなければならない。それはきっと、以前とは比べものにならないほど、辛く苦しく悔しい生き方となるはずだ。

 かつてのエリシュカが――いまもなお、この国に縛られる賤民たちが――虐げられる暮らしに耐えることができているのは、ここよりほかにどこへも行くところがないという現実もさることながら、己の不自由を本当には理解していないということにこそ理由がある。

 わたくしたちの真の罪深さは、彼らに無知を強いていることに違いない、とシュテファーニアは思い、だが同時に、賤民たちに己の不遇を芯から理解してもらうには、きっと長い時間がかかるだろう、とも思う。

 その長い時間、エリシュカにふたたびの苦しみを与えてもよいのだろうか。

 よいはずがない、と断じるその一方で、けれど、ではエリシュカが心の裡にいったいなにを望んでいるのか、シュテファーニアは知りようもないのだった。

 わたくしが考えるエリシュカにとって最良の生き方とは、この国を出て自由にあることだと思うけれど、とシュテファーニアは思う。けれど、本当にそうなのだろうか。

 もしかしたら、エリシュカは自由など望んでいないのかもしれない。この国にあり続け、両親や兄妹とともに生きることをこそ求めているのかもしれない。

 そうだとすれば、彼女をこの国から出してやること――否、それだけではなく、こうして中央神殿に留め置いていることですら――は、虐げられるのと同じくらいにつらいことなのではないだろうか。

 望まぬ福音は、ときに暴力と同じくらいに人を傷つけるものだからだ。

 まずはエリシュカの心を、彼女が望むことがなんであるかを確かめなくてはならない、とシュテファーニアは思った。どんな未来を生きていきたいのか、その意志を確かめなくてはならない。殿下の望みを叶えるのは、そのあとのことだ。


 シュテファーニアとエリシュカは図書庫の最奥の壁に行き当たった。これまでただの一度も足を踏み入れたことのない場所に戸惑っているらしいエリシュカに、心配はいらない、とばかりに目配せをしてから、シュテファーニアは壁伝いに歩きはじめた。

 やがて、壁沿いに小さな扉がいくつも並ぶ、そのうちのひとつの前で足を止め、シュテファーニアは不安を隠さぬエリシュカを落ち着かせるように、深い笑みを浮かべてみせた。

 エリシュカの気持ちはわからないでもない。

 シュテファーニアとて、最初にここまでやってきたときには、恐怖に近い不安を隠せなかったものだ。

 ましてやエリシュカは賤民である。文字を知らず、神殿に馴染みもなく、図書庫というものの存在すら知らなかったに違いない彼女に、いきなりのこれはいささか酷であるのかもしれない。

 けれど、――もう時間がない。

 どうか耐えて、とシュテファーニアは思った。耐えて、すべてを受け止めてちょうだい。

「こ、ここは……?」

 ほとんど吐息だけの声を上げ、エリシュカは壁に止めつけられた札を見上げる。史料室、と記された文字を慎重に読み取ってでもいるのか、眉根がきつく寄せられている。

「この大陸の歴史を知ることのできる部屋よ」

 シュテファーニアはいつも手首に括りつけてある鍵を袖口から取り出すと、音をたてないように気をつけて錠を開けた。

「入って」

 有無を云わさず小さな扉の奥へエリシュカの身体を押し込む。思いのほか天井の高い――しかし、平面的にはほとんど広さのない――壁をくり抜いて作られたような部屋の中へまろぶように足を踏み入れたエリシュカは、強引な主に文句を云うことも忘れて室内の様子に唖然としているようだった。

 シュテファーニアもすぐに彼女に続き、小さい割に重たい扉をそっと閉めた。

 腕の届く限りに高く書灯を掲げても天上のあたりに薄闇が残る史料室は、いつものように仄かに暖かく、足元から忍び寄る冷気に凍えていたふたりの身体を、ほっと生き返らせてくれる。シュテファーニアは茫然としたままのエリシュカをそのままに、書卓の上に広げられたままだった書物を閉じては重ねて整頓した。

「……ここにある書は?」

「見てのとおり、すべて歴史書よ」

 いまだに文字を読むことに慣れていないエリシュカは、並ぶ書物の背に書灯を近づけ、口の中でなにごとかを呟くようにしながら、そこに書かれている文字を追いかけている。

「東国正史、レスピナス王朝史……」

 これらは東国の、とエリシュカが問いかけるのへ、いいえ、とシュテファーニアは短く応じた。振り向いたエリシュカは、まっすぐにシュテファーニアを見つめてくる。

「東国だけではないわ」

 シュテファーニアは壁面の書架にほっそりとした手を伸ばし、書物の背に触れる。

「西国、南国、島ツ国。ここにはこの大陸のすべての国、あらゆる支配者たちが編んだ歴史書が納められているの」

「支配者……」

 そう、とシュテファーニアは頷いた。

「もちろん、わが神ツ国の歴史もね」

「歴史……?」

 エリシュカは国の歴史を知らないのに違いない、とシュテファーニアは思う。

 腕の立つ厩医で、馬については誰よりも詳しい彼女の父も、教主の宮のことならば大抵のことは耳にしているはずの厩番頭も、国の成り立ちについては、そのほんのさわりすらエリシュカに教えることはなかったはずだ。

 彼らもまた、国の歴史についてはなにひとつ知らないからだ。神に仕える者たちだけが、否、建国の祖である七人の巡礼者、その血に連なる者たちだけが、歴史という力を占有し続けてきたからだ。

「この国がどのようにして生まれ、どのようにして歩み、どのようにして今日の姿となったのか。それを知ることができるのが、歴史、歴史書というものよ」

 歴史を知ることがなにかの役に立つのかしら。今日の腹を満たし、明日の命を保障してくれるのかしら。そう云わんばかりのエリシュカに、シュテファーニアは苦笑いを向けて、正面から向かいあった。

「座って、エリシュカ。大切な話があるの」

「大切な?」

 そう、とシュテファーニアは頷いた。とても大切なことよ。

「それは……」

「この国の歴史。賤民のこと。わたくしのこと。それから、あなたのこと」

 シュテファーニアは、長い長い話をした。

 神ツ国の成り立ち。賤民が虐げられてきた経緯。この国の本当の姿。神の正体。

 かつての自身が願っていたこと、いまの己が望むようになったこと。

 それから――。

 静かで落ち着いた声音を崩さないようにすることはとてもむずかしかった。幾度も声を詰まらせ、息を整え、それでも最後まで涙を零すことなくシュテファーニアは話を終えた。

 エリシュカはほとんど口を挟まなかった。きっと、なにを云ったらいいのかわからないのだろう、とシュテファーニアは思った。

「詫びの言葉を云うつもりはありません」

 エリシュカの薄紫色の瞳に刹那の怒りが浮かんだ。当然のことだ、とシュテファーニアは思う。奪い、殺し、虐げて、それでも謝らないと、わたくしはそう云っているのだから。

「まだ云ってはならないと、わたくしはそう思うからです」

「なぜ、ですか?」

「詫びられれば、赦さねばならないでしょう」

 シュテファーニアは長い話のあいだじゅうエリシュカから離さなかった眼差しを、そこではじめてわずかに逸らした。

 いつ、どのようにしてそうするかはさておき、シュテファーニアはいつか神ツ国の真実をすべての賤民に、民に、明らかにするつもりでいる。土地を簒奪し、信仰を押しつけ、やがては神の姿さえも歪めてしまった、教主と神官、その一族の真実を。

 みなはいったいどんな顔をするだろうか。

 驚くだろう。呆れるだろう。そして、ひどく怒るだろう。

 嘘をつかれていたと。騙されていたと。偽られていたと。

 憎むだろう。恨むだろう。悲しむだろう。

 なんの意味もなく殺された家族や仲間を想い、望みもしなかった暴力に手を染めさせられたことを思い出し、命を返せ、尊厳を返せ、良心を返せと叫ぶだろう。

 失われたものは取り戻せない。

 どれほど叫んだとて、泣いたとて、喚いたとて、――なにも、もとには戻らないのだ。

 わたくしたちは彼らに返すべきものを持たない。

 憎しみも恨みも悲しみも、なにも生みださず、どこへも届かない。

 だけど、とシュテファーニアは思う。それらはみな、必要なことなのだ。

 命を奪われた痛み、尊厳を傷つけられた痛み、良心を殺された痛み、その痛みを癒やすためには、己にその苦しみを強いた者を、一度は憎み、恨まなくてはならない。そして、失われ、傷つけられたものを想い、悲しまなくてはならない。

 詫びの言葉を受け入れ、赦すのは、そのあとのことだ。

「いまのあなたがそうであるように、エリシュカ、賤民は、民は、自分たちがなにを奪われてきたのか、なにをさせられてきたのか、その自覚がありません。当然、わたくしたちを憎んだり恨んだりはしていないでしょう」

 疎ましくは思っているはずですが、とシュテファーニアは云い添える。

「それではだめなのです。きちんと憤らなくては。憎んで、悲しんで、それからなのです。誰かの話を、わたくしたちの謝罪を聞くのは、それからでなくてはならない」

「ご自身を憎めと、姫さまは、そう、おっしゃるのですか」

 エリシュカの声は喉の奥に引っかかるように掠れる。なぜですか、と彼女は云った。

「憎まれたり恨まれたりすれば、ご自身の心が満たされるからですか。悪いことをしたと、それは申し訳なかったと、でもそれだけ罵ったのなら、それで赦せと、そう云えるからですか」

「必要だと、思うから」

「必要……」

 人にはさまざまな感情がある。喜怒哀楽と表現されるよりもずっとたくさんの感情は、決してよいものばかりではないだろう。

 シュテファーニアにも覚えがある。誰かを嘲ることや、誰かを恋しく思うことも感情ならば、そこには必ず正と負とのいずれもが含まれていることになる。

 喜びの中にも妬みがあるし、怒りの中にも諦念がある。悲しみの中にも安堵があるし、楽しさの中にも怯えがある。

 純粋な感情などどこにも存在しない。

 けれど、きっと、妬みも諦めも、安らぎもおそれも、すべてが必要な想いなのだ。

 どれを否定しても、人は歪んでしまう。

 誰かを憎み、恨むことが、その誰かだけではなく自分を傷つけるとわかっていても、そうすることが必要なのだ。悲しんでばかりいてもなにも変わらないとわかっていても、そうすることが必要なのだ。

 これから先、前を向いて歩いていくために。

 わたくしがそうだったもの、とシュテファーニアは思う。自分がなにを望むか、なにを願うか、本当の意味で自覚し、覚悟を決めたのは、ヴァレリーに導かれたエリシュカを目の当たりにした、いつかの夜会でのことだった。

 わたくしの身代わりにすぎなかったくせに、とあのときのシュテファーニアは憤り、己の存在をなかったものにされたことを心底悔しく思ったのだ。

 けれど、その感情があったからこそ、シュテファーニアはそれまでの己の過ちに気づくことができた。自らの心を見定め、本当の願いを抱いて、故郷のために険しい道を征く覚悟を決めることができた。

 人は過ちを犯す。誰かを傷つけ、ときには殺め、踏み躙る。

 けれど、人はそれを正すことができる。誰かを慈しみ、愛し、育むことができる。

 わたくしが本当の意味でこの国を愛することができるようになったのは、エリシュカに対して抱いた憤りのせいだった。

「理不尽であっても、間違っていてもいい。自分の抱く想いから逃げてはいけない。醜い思いも、悪い考えも、すべて自分の裡から出てくるものだと、そう知ることでしか、人は前に進めないのだと思う」

 さあ憎め、さあ恨め、と云ったって、人の心はそんな簡単には動かない。だからその方法はこれから考えなくてはならないけれど、とシュテファーニアはかすかに笑った。

「詫びの言葉を並べ、罪を償い、許しを乞うのは、そのあとのことです」

 エリシュカは言葉を失い、ただ茫然としていた。急な話で驚かせてしまったわよね、とシュテファーニアは云った。

「だけど、どうしても話しておく必要があったの。殿下のことを話す前に、この話をしておかなくてはならなかった」

「殿、下……」

「ヴァレリー・アラン・ラ・フォルジュ殿下。王太子殿下のことよ」

 エリシュカがふたたび口を開きかけたところへ、まるで計ったかのように扉が叩かれた。特徴的な調子に、シュテファーニアがさっと立ち上がって扉へと歩み寄る。

「ツェツィーリアなの?」

 扉の向こうからの返事は聞き取りにくかった。お連れしました、という短い言葉がやたらにくぐもって聞こえたのは、扉が厚いせいばかりではなく、ツェツィーリアが声を潜めているせいもあっただろう。

 シュテファーニアが重たい扉をゆっくりと開くと、部屋の中に冷たい空気が流れ込む。長い話に高揚していた心と火照っていた頬があっというまに鎮まった。

「遅くなりました」

 謝罪するツェツィーリアの背後から、待たせたな、と資料庫に足を踏み入れたのは、ほかの誰でもない、ヴァレリー・アラン・ラ・フォルジュその人だった。

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