第133話 始まりの終わり 1
29日の朝、いつも通り夏凛と朝の消化イベントを始めたのだが……何故か発動しなかった。
距離にして1メートル、互いに手を伸ばして触れ合わせるも、転倒イベントは起きない。
それぞれ右手小指を確認してみる。
「痣は消えてないよな?」
「ですね。色も変わらないのに……どうしたんでしょうか」
指輪の跡のような赤い痣は未だ健在で、縁結びの効果が消えたというわけではないようだ。
「うーん、モヤモヤします。少し実験しませんか?」
「そうだな。何が原因かきちんと探らないと、変なところで発生しても困るしな」
ということで、俺と夏凛は実証実験を行うことにした。
まずは正面から手を握って恋人繋ぎへ──。
異性としての接触が強いほどにイベント発生率は高まる。夏凛の細く綺麗な指、ツヤツヤピカピカな爪、俺より体温が低いのか夏凛の手は少しだけ冷たかった。
「何も起きませんね」
「ああ、起きないな」
「てか、今日は部活良いのか?」
俺の質問に、夏凛はくすりと笑って嬉しそうに答えた。
「女の子の間で彼氏のことが瞬く間に広がっちゃって『あとは自分達でなんとかするから、黒谷さんは彼氏とデートでもしなさい!』て、気を遣われました」
「そうか、まぁ大掃除だしな。緊急性があるわけじゃないだろうし、ここは御言葉に甘えるとするか」
「ふふ、じゃあ彼氏さん──続けましょうか」
夏凛はそう言って俺を抱き寄せたあと、思いっきりハグを始めた。
ムニュウっと当たる柔かな感触によって心臓の鼓動は高鳴り、それと同時に愛おしさで胸がいっぱいになった。
行き場を失った夏凛の柔肉は、鎖骨より少し下のところまで盛り上がっていて、第2ボタンまで開けられたブラウスのせいで少しだけそれが見えていた。
喉をゴクリと鳴らすと「兄さんのエッチ」と言って、小悪魔さながらの笑顔を見せてくる。
ここまでしてもイベントは起きない。非日常に慣れた俺たちにとって、それこそが非日常とも言えた。
「では、シチュエーションを変えてみましょうか?」
「確かに、縁結びは狡猾だからそれも良いかもしれない」
火の側では発動しない、夏凛の下着が男に見えるところでは発動しない、階段などの明らかに危ないところでは発動しない、ざっと挙げただけでもこれ程のルールがある。発動条件が多少変わってもおかしくない。
ということで、今度はシチュエーションを変えて検証することになった。
夏凛はエプロンを着用して庭に出て、クルリと振り返った。
「ではここに置いてください。色々な物が見えちゃってますが、彼氏さんなら気にしませんよね?」
「……彼氏だろうが兄だろうが、男は気になるって」
2人分の洗濯物が入った洗濯カゴを、物干し竿の下に置いた。夏凛の言うとおり、白やらピンクやら、容姿に見合った下着がカゴからはみ出していた。
夏凛の考えたシチュエーションはこうだ。
夏凛が洗濯物を干そうとしたら、後ろから彼氏役の俺が手伝う、その際に手でも触れれば発動するんじゃないか? そういう作戦だった。
「あ、兄さんのトランクス発見! どうしてブリーフにしないんですか?」
ヒラヒラさせながら聞いてくる。下着を触られるのが恥ずかしいって、男でもありうるんだな。
俺は身をもってそれを体感した。
「ピッチピチの下着が苦手なんだよ」
「お揃いみたいで良いと思いますけど?」
夏凛はそう言うと、フレアスカートをギリギリまで捲り上げた。白く肉付きの良い太ももが露になり、俺は咄嗟に視線を外した。
「ふふ、兄さん顔真っ赤です。あ、ほら! 手が届きませんから、手伝ってください──黒斗君」
敢えて下の名前で呼んで気持ちを揺さぶってくる、直前のエロも踏まえて恐ろしい彼女だ。
夏凛の後ろからそっと近付いて洗濯を手伝う。
「やっぱり男の子は背が高いですね。助かりました」
「いやいや、わざと物干し竿を高めに調整していただろ」
「バレましたか」
夏凛は少し舌を出してテヘペロをしてきた。
くそ! テヘペロがこんなに似合うとかズルすぎる、可愛すぎる!
その後もピンクのショーツを手渡したり、ブラを見せてきたりして、ドキドキしながらもなんとかやり遂げることに成功した。
だけどその間、1度たりとも転倒イベントが発生することはなかった。
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