第124話 悩める黒斗
旅行から帰ってから日常が戻ってきた。
学校では夏凛や恵さんと可能な限り一緒に過ごした。いつも通りの転倒イベント、いつも通りに触れ合い、いつも通りにお弁当を食べる。
告白されたからこそ見えてくるものがあった。
いつも通りの日常の中で、2人は必死にアプローチしていたんだ。告白されなければ、偶然とかで片付けていたと思う。
帰り道、恵さんと初めて出会った公園が目についた。寒空を見上げながら、ブランコに座ってゆっくり漕ぎ始める。
恵さんは茶髪ゆるふわロングだけど、完全な陽キャじゃなくて、むしろ見た目に反して恥ずかしがり屋だし、ツンデレだし、見た目通り振る舞おうとして後輩の恋愛相談に乗ったりするから、面倒見もいい。
最初の出会いは入学式の日だったかな。
俺は盛大に遅刻して、その通り道で恵さんを見かけた。第一印象はやはり見た目通り、陽キャという印象を受けた。
だけど何故かブランコに座って俯いてて、その姿に俺と同じ何かを感じ取った。
今にして思えば、それはきっと"寂しさ"だったんだと思う。
恵さんは中学時代に地毛の茶髪によりクラスで浮いた存在だったと言っていた。廊下を歩けば先生に注意され、その度に許可証と弁解を繰り返す日々、それが素行の悪い生徒のように見えたんだろう。
勿論、当時の俺はそれを知っているわけもなく、本能的にそれを感じ取って話し掛けた。
俺を見上げた時の泣き顔は、今でも覚えてる。
それからはバカ言い合いながら過ごしたっけ。休憩時間の度に話し掛けてきてさ、そんな些細な会話が俺にとって救いだったんだよ。
ブランコから立ち上がり、埃を払って帰宅の途につく。
家に帰って、電気の点いてないリビングで立ち止まる。
暗さがあの時に似ている。夏凛と縁結びで繋がったあの時に──。
テーブルに赤い紐を置いて風呂に入ったんだ。そして戻ってきたら夏凛がそれを手に持ってて……運悪く繋がってしまった。
「ぷふっ! なんだよ、それ。まるでコントじゃねえか」
よくよく考えたら笑えてくる。ホントにコントみたいだよな。
それからどうしたんだっけ? 自分の部屋で右手小指の
今思えば、暗闇とはいえ、完全に全裸を見たのはあれが最初で最後だ。
しかも生で揉みし抱いたんだっけ?
当時の夏凛には怒られたなぁ……はは。
揉んで、脱げて、キスをして……本当に色々あったなぁ。
縁結びに精神を強制する能力はない、心を強く持てば何てことはない。拓真さんはそう言っていたけど、年頃の男女が何度も接触したら惹かれ始めるのは当たり前のように思える。
黒髪ロング、整った顔立ち、胸は大きく、腰は括れ、太ももとお尻は程よい肉付き、こんだけ揃った女性と触れ合ったら、実の妹であろうとクラっと来ちまうって!
いやいや、勿論エロだけで夏凛に惹かれた訳じゃねえよ?
優等生っぽく見えてどこか抜けてるし、嫉妬深いし、優しいし……誰に対しても敬語でありながら「むぅ~」とか「ひゃうっ!」とか可愛い声をあげるし。
それに、夏凛も俺と同じ寂しがり屋なんだよな。
助っ人部をしながら人の感謝と温もりを求めていて、それなのにどこか他人と距離を置いてしまう。
危なっかしくて、見てられないんだ。
俺はリビングから自室に移動してベッドに倒れ込む。
そして悩む、とにかく悩み抜いた。
その結果、決められないまま24日になってしまった……。
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