第113話 同級生ちゃんと妹ちゃんと倉庫整理

 今俺が運んでいる荷物はガラスケースで覆われた日本人形、正直マジ怖い。普通の日本人形ならそこまで無いんだが、なにせ白月神社にある日本人形だからな……たまに目が合うし、勘弁してほしいぜ。


「黒谷君、サボってないかな?」


「サボってません、睨めっこしてました」


「あ、その子と目を合わせたらダメだからね。顔が赤くなる呪いをかけられちゃうから」


「先生! そういうこと、もっと早く言ってくださいっ!!」


 俺が先生に抗議すると「ごめんね、私……ダメな先生だね……ぐすん」と少し涙ぐんできたので結局俺が謝ることになった。


「顔が赤くなる呪いとか言ってたけど、何も起きないな……。まぁいいや、先生! 次はどれを運べば──って、うおっ!」


 段ボールを3段にして持ち歩いていた夏凛とぶつかりそうになって、間一髪のところで避けることができた。だが、俺は背後の恵さんとぶつかって転倒してしまった。


「いたたたた……恵さん、大丈夫──っ!?」


 言いかけて切った、何故なら……俺の顔面は恵さんの大事な部分に顔ごと突っ込んでいたからだ。勿論、体操服を着ているので下着どころか短パンなんだが、俺が息をするたびに身悶えていて、思いっきり”大しゅきホールド”を頭部にされて抜け出せない状況に発展していた。


「ふぁふてて」

(助けて)


「アンッ! く、黒斗ぉ~、あんまり……ん……動かないで……」


 すぐに夏凛が駆けつけて恵さんの足を外しにかかった。


「恵先輩! 落ち着いて! 足の力を緩めて下さい! こういう時はヒーヒーフーですよ! ……あ、兄さんの顔が赤くなってます!」


「ふぉろいだああああ!!」

(呪いだああああ!)


 その後、落ち着きを取り戻した恵さんが足の力を緩めてくれたおかげで、何とか脱出することができた。羞恥心に駆られた女子が、あれほどの馬鹿力を発揮するとは思いもしなかった。


 倉庫を掃除するにあたって、白里先生は2階に上がってはいけないと注意をしていた。2階は1階に比べて色々とよくないものがあるらしく、白里先生ですら対処が難しいと言っていた。


 それを知ってるはずなのに、休憩中に夏凛がいきなり立ち上がってフラフラと歩き始めた。向かう先は禁止されている2階への階段……それに気付いた俺は夏凛を追いかけた。


「夏凛ッ! 何やってんだよ、ダメって言われてたろ?」


「あ、兄さん? 私……なんでこんなところに……」


 追い付いた時、夏凛は不思議な鏡に触っていた。特に何かが映ってるというわけでもないが、何故か夏凛はしゃがみ込んで震えていた。


「ほら、早く下に行くぞ」


「……はい」


 元気のない夏凛の肩を抱いて1階へ降りた。その後、多少のハプニングはありつつも何とか倉庫の掃除をやり終えた。だけど、その間ずっと夏凛は元気がなかった……ぼーっとしているというか、悩んでいるというか、空元気に近い感じだった。


「黒斗、夏凛を連れて白里先生のところに行った方が良いんじゃない? あたしから見ても明らかにこの子、元気なさそうだし……」


「そうだな、悪いけど俺達は白里先生の家の方へ行ってくるわ」


「うん、じゃあまたね!」


 恵さんは帰り、俺と夏凛は白里先生の家へと向かった。


 ピーンポーンとチャイムを鳴らすと、私服姿の白里先生が出てきた。帰ったはずの俺と夏凛が来たことに驚いてるようだった。


「2人してどうかしたの?」


「えーっと、実はですね──」


 夏凛が何かに引き寄せられるかのように2階へ上がったこと、俺が追い付いた時にはすでに鏡に触れていたこと、そしてその後の夏凛の様子なども含めて全て話した。すると、白里先生は少しの間考え込んだあと夏凛の肩を掴んで真正面から向き合った。


「黒谷さん、あなたが触れたのは”真実の鏡”という曰く付きの鏡なの、触れると本来自分が歩むはずだった道を映画の様に見せられちゃうの。頭がぼーっとしてるのは情報量が多くてびっくりしてるだけ、短時間しか触れてなかったみたいだし、今日の夕食時にはもう復活してるはず」


 未だぼーっとしてる夏凛に代わって、俺は白里先生に夏凛が何を見たのかを聞いた。


「先生、夏凛はどんなものを見せられたんですか?」


「うーん、人それぞれと言いたいけど、あなた達2人に関しては大体予想がつくわね。きっと”縁結びの紐”を使わなかった自分を見たのかも。実をいうと普通の人が触っても一瞬何かが見える程度で夢みたいに記憶にも残らないものなの、大きな改変があった人だけあの状態になるみたい……」


 縁結びを使わなかった世界の俺達……。両親が出ていく直前に言った別々に生きていくという言葉を守りつつも、心の奥底で離れたくないという気持ちを体現して家庭内別居状態だったあの頃……。


 想像するだけで吐き気がする。それを実際に見た夏凛は多分、かなり辛いのかもしれない。


 俺が俯いてると、白里先生は何かが入った封筒を手渡してきた。


「白里先生、これは……」


「1週間分のお給料よ。まだ2日ほど残ってるけど、神社もほとんど綺麗になったし、黒谷さんの心労を考えたらもう充分かなってね。あ、それと、城ヶ崎さんから聞いたよ~、お給料で県境にあるファンタジアに行くんだって? 教職に就く身としてはダメって言いたいけど、若人はそれくらいするべきだと思うの。城ヶ崎さんには私から渡しておくから、楽しんできなさい」


「先生……ありがとうございます!」


 頭を思いっきり下げてお礼をすると、白里先生はニコっと笑い「帰りは送るから」と言って神社の表に車を回してくれた。


 ホント、白里先生には感謝しかない。隣に座る夏凛の肩を抱いて、しみじみそう思った。

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