第95話 修学旅行 画面の端に見えたもの

 2日目の昼はレストランでバイキングとなった。普通のレストランと違って魚介類が多くてそれがウリのようだった。


 料理を皿に移してテーブルに戻る途中、剛田先生のテーブルに生徒が座ってるのが見えた。


 昨日の脱落者だ。女子の部屋に侵入しようとして発見されたらしい。


「黒斗、どうしたの?」


 中々進まない俺を心配して恵さんが話しかけてきた。


「いや、先生のテーブルで食べるって、見せしめみたいで嫌だなって思ってな」


「まぁ自業自得だよね。でもさ、女子も女子で迎え入れようとしたらしいの」


「マジかよ、もし男子がたどり着いてたら……」


 考えるのはやめとこう。どうせろくでもないことが起きるに決まってる。


 食事が終わると、そのまま大通りで自由行動となった。さて、ここからは班行動だ。


 俺、恵さん、田中、加藤の4人は通りを歩きつつ家族へのお土産を買うことにした。


 先を歩く恵さんがくるりと回るように振り返って言った。


「やっぱさ、定番といえば"白い愛人"だよね。みんな買うでしょ?」


「一応買うけど、残るお土産も買っときたいな」


 田中と加藤もそれに同意する。じゃあってことでお土産屋に寄った。食べ物もあるし、物となるお土産もあるからだ。


 白い愛人をカゴに入れると、恵さんがドンっと軽めにタックルしてきた。


「ねえねえ、何を買うつもりなの?」


「あー、夏凛にお土産を買おうと思ってさ、キーホルダーが良いなって見てたんだ」


 ペンギンのキーホルダーを手に取って、恵さんの目の前に持っていく。すると、恵さんは目をキラキラさせ始めた。


「えーっと、そんなにこれがいいの?」


「ペンギンだよ? ペンギン! 可愛いじゃん! しかもね、これ……ご当地限定なんだよ!」


 ぱぁっと笑顔を見せるその姿を見て、俺はそのままカウンターへと向かい、キーホルダーを買ったあと恵さんにそれをプレゼントした。


「え? どういうこと?」


「いや、欲しいって顔してたし……あ、でもこれ買うだけの金はあるか。もしいらないなら──」


 と、言う前に恵さんがキーホルダーを胸に当てて、取り返そうとする俺の手から守った。


「良いの、これが良いの」


「勝手なことしてないかなって思ったけど、喜んでくれたなら良かったよ」


「ううん、黒斗、ありがとうね」


 素直に感謝を言われると、ドキッと胸が高鳴った。


 俺は誤魔化すようにして、夏凛のお土産を選ぶことにした。白熊の写真立てを買ってバスの停まっている駐車場に向かった。


「今日も脱落者は出るかな」


 他の生徒が集まるまでまだ少し時間がある。なので、隣に座る恵さんに話題を振る意味で話しかけた。


「女子が誘ってるみたいだし、出るでしょうね。試練に打ち勝った男子と付き合う……そんな感じよ。ところでさ、黒斗は来てくれないの?」


「は? そんなステルスゲーみたいこと出来ないって!」


「え~! 残念、もし来てくれたら黒斗に惚れたかもしれないのになぁ~」


 うう、冗談でもそう言うこと言われると本気にしそうになる。


 その後、生徒が全員集まり点呼が終わると旅館へと出発した。今日の夕食はジンギスカンらしい、全員に小瓶ほどの大きさの消臭スプレーを渡されてそれを使うように言われた。


 ジンギスカンの匂いはとても強烈で中々落ちないらしいから。


 旅館に着いて暇を持て余していると、スマホが鳴り始めた。音からしてRineの着信音で、相手は夏凛、しかもビデオ通話のようだ。


 タップして応答した。すると、夏凛の顔がドアップで映し出されて「おわ!」と声をあげてしまった。


 同じ部屋にいる田中と加藤がこちらを向いた。


「わ、悪い……ちょっと驚いただけだ」


「こっちが驚いたぞ」

「ほら、続きやるぞ」


 2人は再びゲームに熱中し始めた。画面を見ると夏凛が手を振っていた。


 取り敢えず部屋から出て"くつろぎスペース"ってところで話すことにした。


「夏凛、助っ人部は終わったのか? まだ6時だし早いな」


『はい、今日はサッカー部の助っ人をやっていました。ですが、雨が降り出してすぐに終わったのです』


「へえ、そっちは雨なのか」


『はい、そちらは雪ですか?』


「ああ、ちょっと見てろよ?」


 そう言って、外の見えるガラス張りにスマホを向けた。


『わぁ~、ほんとに雪が降ってるんですね~。綺麗だなぁ~!』


 夏凛は楽しそうに雪景色を見ていた。


 スマホを戻して、夏凛と他愛のない話しをしていると、画面の端に見知ったある物が映っていた。

 それは夏凛の部屋に似つかわしくない物だった。


「なぁ、どうして俺のトランクスが夏凛のベッドに?」


『え!? あ、あ~~これ? これはその、兄さんが忘れていったから、洗濯しておいたんですよ!』


 やっぱりトランクスは家に忘れていたのか、誰かの荷物に紛れてないか心配してたんだ。


『やっぱり、妹とはいえ女の子に洗濯されるのは嫌……でしたか?』


「そんなことはない。なんか家庭的で良いなって思うよ」


『私が──お嫁さん!? そ、そんな……私、心の準備が……』


 嫁などと一言も言ってないのだが、何故か夏凛はモジモジし始める。でもまぁ、黒髪ロングな女の子が洗濯する姿は家庭的だよな。

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