第59話 ゲーム指南!!
加藤と田中、そして恵さんがリビングに集まっている。
パッと見、読モ陽キャの恵さんが輪に加わったことで明らかに男友達が萎縮している。恵さんが色々と話しかけてるのに一言二言しか返せていない。
はぁ、とりあえずジュースとお菓子を出すか。
俺がオレンジジュースを人数分汲んでいると、恵さんが手伝いに来てくれた。
「黒谷~、あたしも手伝うよ。ジュース渡して」
本来ならトレイを使って一気に運ぶのが常識かもしれないが、
何故なら、1度転んで夏凛にお茶をかけたことがあるからだ。
濡れ透け状態の夏凛の上に転倒した俺がのし掛かって、色々触れてしまったことがある。あの時の夏凛は顔を真っ赤にしていた、かなり恥ずかしかったんだろう。
そんな思いをさせるわけにはいかないのだ。と、いうことでトレイは倉庫に直してある。対策、大事だね!
──ピトッ!
ジュースを渡した時に恵さんの手が俺の手に触れてしまった。
「……あ」
「柔らかっ!」
しまった! つい口に出してしまった。顔から火が出るほど恥ずかしい。
「そ、そう? く、黒谷は硬くて男らしいね。さすがは男の子!」
恵さんはそう言ってジュースを田中達の元へ持っていった。
冷たいし、柔らかかったな……。って何を考えてるんだ。ちょっと手が触れただけじゃないか。
ホンの少しの鼓動の高まり、それを無視してお菓子を持っていった。
☆☆☆
「あ、このシーンCMで見た見た! へぇ、襲われてたから滝に飛び込んだのかー!」
俺のするモン狩りを、恵さんが背後から観戦して色々とコメントをしている。今はCMで流れた割りと有名な場面だ。
そしてボスとの戦闘になったとき、俺はミスをしてしまった。
「おい、黒谷……さっきから動きが硬くないか?」
田中の言うとおり、ボス前の雑魚狩りの辺りからミスが多くなっている。その要因は1つしかないわけで、そしてそれを公然と口に出すわけにはいかないのだ。
「ふ~ん、武器を使ってモンスターを攻撃するのかー。そして倒したら素材を剥ぎ取る、ふむふむ」
そう言いながら恵さんは俺の右肩に手を回して、左の肩口から顔を覗かせてきた。これが男だったらゴリゴリの年上ヤンキーから脅されている様相なんだが、女の子となると柔らかさとか吐息で思考が鈍くなる。
「恵さんはゲームしたことある?」
「あるに決まってるじゃん。でもレベル上げとかあんまし好きじゃないからね、いつもすぐ飽きちゃうの」
──ムニュムニュ。
「……うっ」
「──ん? どうしたの? 体調悪い?」
「い、いや……なんでもない」
左腕は何かにめり込んでるし、背中に何かが押し付けられてるし、声が出ちまうのも仕方ないだろ。
てか対面の田中と加藤もミスが増えてきた。顔を見ると、2人とも顔を赤くして鼻息も荒い。
「く、黒谷~! 羨ましい!!」
「ああ、眩しすぎて画面が見えねぇ!」
そうこうしているうちに、画面にゲームオーバーの文字が出てきた。
「え、やられちゃったよ? 良いの?」
「あ、ああ……恵さんが来る前からずっとやってたからさ。集中力が切れたかもしれない。このまま続けても効率悪いな、休憩にするか」
提案に2人とも賛成し、テレビを付けてお菓子タイムとする。
「たまに教室の端で喋ってるの見かけてたけど、遊ぶほどの仲とは思わなかったなぁ。あたしなんか、ようやくこの間、一緒に出かけることができたんだよ?」
「一緒に!」
「出かけた!?」
田中と加藤は目を真っ赤にして俺を睨みつける。
「いや、買い物に付き合っただけだって」
「そそ、買い物したんだよね。服も選んでもらったっけ?」
「服を?」
「選ぶ~!?」
──ピコン。
2人がスマホをいじり始めたかと思えば、俺のスマホにRINEの通知が2件着た。
『夏休みに遊びに来ないと思ったら!』
『俺らを置いて階段を上ったのか!?』
一体なんの階段だよ!? ただ買い物に行っただけなのに。
『本当に言葉以上のことなんて起きてない!』
2人は首を振っている。どうやら彼らは俺を有罪と判断したようだ。
「ねえ黒谷、あたしもやっていい?」
RINEでやり取りをしていると、恵さんが俺のフィッチを手に持ってきた。どうやら仲間に入りたいらしい、レベル上げが苦手なのは地味な作業が嫌だからかもしれない。
狩りゲーは確かに多彩な戦いができて飽きにくいけど、それでも欲しい素材のために何度も周回する必要がある。
とはいえ、折角家に来たんだし……ずっと観戦というのも可哀想だよな。
「わかった。じゃあ俺のデータで弱いやつから狩ってみようか」
「え、いいの!? ありがとう!」
恵さんにゲームの起動から冒険の始め方までレクチャーし、次に簡単なクエストを受けさせた。
そしてクエストが始まり、標的であるモンスターを見つけた。恵さんの後ろから指示を出す。
「これを押せば攻撃、こっちを押したら回避だ」
「よし、じゃあ行くね! どっせーーーいッ!!」
攻撃の度に掛け声を上げるタイプか、なんかちょっと、可愛いな……。
ゲーム内のキャラが大剣を振り下ろして敵を攻撃、体力が尽きたモンスターはそのまま倒れてクエスト達成となった。
「わ、制限時間みたいなのが出てきたよ?」
「ああ、時間が過ぎたら街に戻されるから今のうちに素材を剥ぎ取るんだ」
「やったー!」
恵さんがゲーム機を振り上げて喜んでいる。
「もう、少しでござる」
「あと少しで眼福でござる」
怪しげな視線、田中と加藤だった。その視線は恵さんのスカートに向けられている。
恵さんは嬉しさのあまりスカートが捲れかけてることに気付いていない。
街に戻った恵さんに武器の改造の仕方を教えて、それをやってる間に裾を摘まんでソッと元に戻した。
「黒谷……もしかして、見たかったの?」
ゲームに集中してると思ったら、こちらを見上げてジト目を向けていた。
これはマズイと思った俺は耳打ちした。
『前に男子がいるんだぞ? 正直言ってあいつらに見られるのは俺としても面白くないしさ、わかるだろ?』
遊びの場を下劣な視線で汚すのは好きじゃない、そんなニュアンスで言ったつもりが、何故か恵さんが耳まで真っ赤にして俺に返した。
『あ、ありがとう……でもさ、今度からは今みたいにソッと言ってくれたらいいから、ね?』
確かに、ソッと耳打ちすれば良いものを、いつも俺は余計なことをしてしまうな。今度からはもっと慎重にならないと。
その後、恵さんを含めた3人で少し難し目のクエストを受けたりして遊んだ。気付いたらすでに7時、田中と加藤が帰ると言い始めた。
玄関まで彼らを送る。
「城ヶ崎さん、あなたはもう俺達と戦友だ。また一緒に遊びましょう」
「ああ、俺も楽しかった……また遊ぼう」
「え? あー、うん。ここ限定なら全然いいよ。またね」
恵さんは苦笑いを浮かべて彼らを見送った。一緒に遊んだことで戦友となったのだろう。ある意味、これが世界から戦争を無くす方法なのかもしれない。
それはそうと、恵さんはどうするのだろうか? 聞いてみることにした。
「恵さんはどうする? 駅まで送ろうか?」
「ううん、お母さんが家の前まで迎えに来るからまだここにいられるよ」
「そっか、じゃあそれまで適当にテレビでも観てるか」
「そうだねー」
恵さんのお母さんが来るまでリビングで寛ぐことになった。
「あ、黒谷っていつもピンクのハンカチ持ってるの?」
ソファで
「いや? いつもは青だけど?」
「ハイハイ、ピンク好きなの知られたくないだけなんでしょ? ポケットからピンクのハンカチ見えてますよーだ」
──ドクン。
心臓の鼓動が高まるのを感じた。完全に忘れていた、夏凛の下着の存在を!!
俺は恵さんがそれ以上興味を持たないように話題を変えつつ、コップやらお皿を片付ける。
そして台所まで来て、見えないことを確認したら下着を更に奥に押し込んだ。
──ピーンポーン!
チャイムの音が鳴る。もしかしたら恵さんのお母さんが来たのだろうか?
『あ、兄さん。ごめんなさい、今日鍵忘れちゃいまして』
夏凛がカメラ越しに小さく手を振っている。その後ろに人陰が見えた。
「後ろにいる人は?」
『あ、恵先輩のお母さんに送ってもらったんです』
「恵さん、今遊びに来てるから呼んでくるよ」
リビングにいる恵さんにお母さんが迎えに来たことを伝えて、玄関まで送ることにした。
「今日はありがとね! 今のゲーム、結構面白かった、また教えてね」
「ああ、またな」
入れ替わりで夏凛が入ってくる。なんだか色々ありすぎて久し振りに会ったような感覚がする。
「ただいまです」
「おかえり、夏凛。先に風呂入ってこいよ、ピザのチラシ持ってくるからさ」
夏凛が風呂の準備を始める。よし、今のうちにアレを返しておかなくては。
黒斗は知らなかった、この後もちょっとしたハプニングがあることを……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。