第56話 襲撃者!?
玄関で身なりの最終チェックを行う夏凛。朝みたいにベッドで着崩れてる様子もなく、完全に令嬢系JKと言える容姿だ。
「では行ってきます。鍵、お願いしますね!」
「ああ、行ってらっしゃい!」
夏凛は寂しさを紛らす為に今まで"助っ人部"として活動していた。今となっては必要ないんじゃないかと思うのだが、やりがいのある活動なのでまだ続けると言っている。
その為、いつも俺より早く学校に向かっているのだ。
時間的にまだまだ余裕はあるけど、さてどうするか……。
「よし、たまには早く学校に行くとするか」
夏凛が出てから10分ほど経って俺は家を出た。いつも通り鍵を閉めていると、いきなり背後からかなりの衝撃を受けた。
──ドンッ!
警察官から車に押し付けられる犯人の映像をテレビで観たことがある。今の状況はそれに近いかもしれない。
「うわぁぁぁぁん、黒谷ー、ごめんなさいぃぃぃ!」
ん? 聞き慣れた声……この声は。
首を捻って後ろを確認すると、そこにいたのは恵さんだった。いつものような気丈な態度ではない、それ故に俺もどうすればいいかわからなかった。
ただ、泣きじゃくってるのは間違いないわけで、俺が出来ることは頭を撫でて「大丈夫」と語りかけることくらいしかなかった。
「…………ごめん、もう落ち着いた」
5分ほどして冷静さを取り戻したらしく、腰に回していた手を緩めて恵さんは立ち上がった。
「にしても恵さんがここにいるから驚いたよ」
「う、うん……今日はお母さんにここまで送ってもらったの」
恵さんは茶髪を弄りながらそっぽを向いている。頬も少し紅潮しているようにも見えた。
きっとかなり大事な用で来たに違いない!
「それで、今日はどうしたの?」
「うん……最近あんたのことを避けてたよね? その事を改めて謝りたくて……」
「それについては本当に気にしてないから、マジで大丈夫!」
力こぶを作りながら大丈夫アピールをしてみたわけだが、恵さんの瞳は更に水気を増し始めた。
「ありがとう……本当に」
「俺も夢の中とはいえ暴走したからさ、女子なら戸惑ってもおかしくないよ」
少し俯いて頷く恵さん、普段とは違う一面だけど演技にも思えない。それに公園で初めて会った時も涙目だった。
「もしかして……恵さんって涙もろかったりする?」
「ち、違うし! そんなわけないし!」
ビクッと驚いたあと捲し立てるように否定してる、これは当たってるな。強気な性格はもしかしたら弱さを隠すためかもしれないし、そんな一面を知ると少しばかり可愛く感じてしまう。
「あ、こら! 髪のセット崩れるからやーめーてー!」
無意識に頭に手を伸ばした結果、今度は抵抗されてしまった。まだ完全に涙が収まってない恵さんは足元がぐらついて俺を押し倒してきた。
ふっ! 甘いな、夏凛を押し倒すこと半年……自分をクッションにしつつ接触を最低限にする技術はすでに身に付いてるんだ!
培ってきた技術を最大限利用して"クッションムーブ"を行う。
──ドサッ!
「大丈夫か?」
紳士然とした顔で胸の内にいる恵さんに語りかける。
「あ、うん……大丈夫」
起き上がり、手を差し出して彼女を立たせる。この時注意するのは胸板に感じた感触を思い出さないことだ。
相手は夏凛に匹敵する大きさだ、思い出せば確実に変な顔を晒すことになる。
「じゃあ、時間も時間だし、行こっか?」
「あ、待って! 少し家に入れてくれない? その……下着のホックが外れちゃって……」
──パンッ!
「黒谷!? なんで自分の顔叩いたの?」
「いや、渇を入れるためだ、気にしなくていい。俺は外にいるからさ、直してきなよ」
「うん、ありがとね!」
恵さんが家に入ったのを確認した俺は頬を緩めた。あんなことまで報告されたら想像しちゃうだろ!
感触とマッチしてマジでヤバかった!
折角今日からまた友人に戻れたんだ、また変態とか思われたくないからな。
「お母さん、あのおじちゃん変な顔してるよー?」
「シッ! 見ちゃいけないわ! 早く幼稚園に行くわよ!」
……酷く傷つけられた気がするが、気のせいだろ。
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