第37話 妹とテレビ鑑賞

 ──コトン


「はい、兄さんはコーラで良かったですよね」


「さんきゅ……。なぁ、夏凛ってよくこういうの観るの?」


「夏と言えば”最恐に怖い話”は風物詩ですよ? 兄さんがそう言うってことは、毎年観てなかったんですね。人生ちょっと損してますよ」


「損ってそんな大袈裟な……。俺はゲームか洋画を観る方がいいんだよ」


「じゃあ、この機会に新規開拓していきましょう!」


 夏凛はリモコンの再生ボタンを押してテレビに集中する。拳3個分ほど離れた夏凛、自分の部屋で妹と隣同士でテレビを観るなんてなんか新鮮な気分だ。


 すでにオープニングが始まってるのに、その姿を見てしまう──。


 髪は風呂上がりなので少し濡れていて艶やか、着ているピンクのパジャマは年相応の可愛らしい物なのに、お胸が大きいのでボタンは2つほど外されている。


 そう遠くない未来、どこの誰とも知れない男がこれに触れるのだろうか?


 そう考えると少しだけ胸が痛くなり、俺はすぐに頭を横に振った。


 ダメだダメだ! シスコンをこれ以上拗らせる訳にはいかんだろ!


 俺は自身に渇を入れてテレビに集中する。


 ちなみに、夏凛には言ってないことがあった。実を言うと、俺は"怖いモノが苦手"なんだ。普通普通と言い訳しながら遂に観る段階になってしまったが、本当は背もたれにしてるベッドに潜り込みたいレベルで怖いんだ。


 そりゃあ、空想の産物だからって思ってはいるよ? でもね、これを観てから1週間くらいは髪を洗う時、手があるんじゃないかって怖くならないかッ?


 そして俺が歯を食い縛りながら観ていると、司会のコールでVTRが流れ始めた。


 ぶっちゃけ、心霊スポットに芸能人が行くところは全く怖くない。ヤラセ感が凄いし、大抵はこじつけばかりで全然幽霊に見えないからだ。


 だが、番組の作ったVTRだけはマズイ。ナレーションの声もわざと低くしてやべぇし、終盤に出てくる幽霊は超攻撃的だし!


 いつ出てくるかと身構えしていると、何かが俺の手に触れた。


 ──ピト。


「ひえええええっ!」


「わ、兄さん!? ご、ごめんなさい!」


 突然冷たい何かが触れてきたので驚いてしまった。ってよく見ると夏凛が俺の手を握っている。冷たい物の正体はこれだったか……。



「兄さんがそんなに苦手だとは思わなくて、震える手を見てたらつい握ってしまいました」


「お、俺が苦手とかそんなわけないだろ? はは、はははは……」


「もう、兄さん……顔に出てますし、ボソボソと小声で何か言ってるのも聞こえてましたよ? でも、これなら安心できますよね?」


 夏凛は握った手の力を更に強めた。触れた瞬間は冷たかった夏凛の手は、時間経過なのか心理的な作用なのかはわからないが、温かく感じた。


「いやでも、なんつーか、照れるよ……」


「そうですか? 兄妹ですし、これくらい普通ですよ! さ、続き観ましょうか♪」


 そう言いながら、夏凛は肩を寄り合わせるように距離を詰めてきた。パジャマ故にその下の質感が俺の体に伝わってきて、その感覚で少しだけ気が紛れた。


「えへへ、こうやって寄り添ったら心まで暖かくなりますね!」


 夏凛、こんなに優しい妹だったのか……。早く接していなかった事こそ、人生を損していた気がする。

 心がじんわりと和らいだ矢先──夏凛が唐突に画面を指差して言った。


「あ、多分この女子高生そろそろ背後に出てきますね──」


『きゃあああああっ!!』


「ひええええっ!」


 夏凛の予想通り、VTRの女子高生の背後に髪の長い女性が現れた。それに驚いた俺は無我夢中で何かに抱き着いた。


「ひゃうッ! もぅ……兄さん、仕方ないですね」


 頭上から夏凛の優しい声が聞こえた気がした。続いて、背中に手を回されてトントン、と柔らかく叩かれた。


 その後も何度かテレビから悲鳴が聞こえたが、俺は目を閉じて夏凛に抱き着いていた。

 そしてエンディングのテロップが流れ始めた辺りで俺は我に返った。


 夏凛に抱き着いていた俺は、飛ぶように離れて咄嗟に小指を見た。だが、微塵も光ってないことからこれは"俺自身が引き起こした"事象であることを理解してしまった。


「夏凛、ごめんな……」


「いえいえ、年上の男性から甘えられるというのも中々新鮮なものですね」


「面目無い」


「もう気にしないで下さい。それよりも──まだ10時ですし、丁度借りてたDVDが何本かあるので観ませんか?」


「ああ、できれば洋画で頼む、アクション系でな」


 その後、夏凛と洋画を観たのだが……唐突に流れた濡れ場により、互いに顔を真っ赤にする結果となった。

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