第27話 シチュエーションゲーム 1
俺と夏凛はとりあえず昼食を取って、業者さんが来るまで拓真さんから預けられたゲームはしなかった。途中で邪魔されても困るし、何より小指が少しだけ発光してることが気掛かりだった。
もし、その……変なことが起きてる最中にチャイムを鳴らされると、困るからだ。
☆☆☆
~午後5時~
業者さんが来て、1階のリビングは修理してもらったが2階の夏凛の部屋は故障原因が不明だった。
業者さんが試しにスイッチ入れたら普通に付くし、細かく見てもらっても原因は不明のままだった。
もしかすると、リビングのエアコンは普通に寿命で壊れ、夏凛の部屋は”縁結びの紐”が今回起きたことに乗っかって、一時的に使用不能にしたのかもしれない。
──あくまでも、俺の仮説に過ぎないが。
「思ったより時間かかりましたねぇ」
Tシャツに着替えた夏凛がソファで足をパタパタさせている。
「そうだな、原因がわからない物を延々と調べてたから、なのかもしれないな。よし、ちょうどいい時間だし、アレやってみようぜ!」
「そうですね、時間的にもちょうどいいですし」
夕食には少し早いので、拓真さんから借り受けたあの”シチュエーション・ゲーム”とやらをしてみることにした。
箱は展開式になっており、展開すると2束のデッキ?のようなものがあって、それが拓真さんの言っていた”状況”と”場所”のカードだということがわかる。
デッキを取り出すと箱の中央に何やら差し込み口のようなものがあった。きっとここに引いたカードを差し込むのだろう。
では、兄である俺から「いざ! ドロー!」って時にチャイムが鳴った。業者さんの忘れ物かと思っていたら、応対に出ていた夏凛が膨れっ面で戻ってきた。
「兄さん、城ヶ崎先輩が来てます。もしかして呼んだんですか? そんなに私と二人っきりで遊ぶのが嫌だったんですかっ!?」
「ち、違うよ夏凛! たまたまだ、たまたま……じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
インターホンから外の様子を覗くと、城ヶ崎さんが車に手を振っている場面が見えた。恐らく親御さんに車で送ってもらったのだろうが、なぜ立ち去るのだろうか?
ピンポーン
疑問に思っていたら催促のチャイムが鳴らされてしまった。おっと、こうしてる場合じゃない、出なきゃ出なきゃ。
ガチャ
開けると制服姿の城ヶ崎さんが顔の横で”ヤッホ~”っと手を振っていた。
「え~、コホン、コホン! 何か……用事か?」
とりま同じ
「アンタ……下手過ぎでしょ。そういうの良いから──ほら、プリントを渡してくれってゴリラに言われてさ。それで来たってわけ」
「おおぅ、バレテ~ラ。でもまぁ、ありがとな……助かったよ」
「え!? うん……どういたしまして……」
俺が感謝するのはそんなに珍しいことだろうか? 城ヶ崎さんは少しだけ照れた表情を浮かべていた。
「あれ? じゃあなんで車は先に帰ったんだ?」
「ん? 今日特別暑いじゃん? ちょっと帰りにコンビニでアイス買ったりしようと思ってさ」
う~ん、でもこのまま帰すのもアレだよなぁ……あ、そうだ! 拓真さんから奢ってもらったアイスとかお菓子とか残ってるし、ちょっと家で休憩してもらおう!
俺は「バイバイ」と踵を返して帰ろうとする城ヶ崎さんを引き留めることにした。
「城ヶ崎さん! ちょっと家でお茶しない?」
我ながら少し昔の口説き文句にクサイ台詞だな、と思いながら言ってみた。城ヶ崎さんは先程よりも顔を真っ赤にして聞いてきた。
「いいの!?」
「お、おう……このまま帰すのも気が引けるというか……もしかして、用事でもあったか?」
「ない!! ううん、あってもキャンセルするし!」
「そっか、じゃあ入って。ちょうど面白いゲームをもらってさ」
「へえ、なんのゲーム? 一応ほとんどのハードは揃えてるよ」
「そういうゲームじゃないんだ。ボードゲームでもないし……連想ゲームに近いのかな? まだやったことないから何とも言えないけどね」
「ふ~ん、まぁなんでも割りとできる方だから負けても泣くなよぉ! あ、お母さんにちょっと連絡してくるね!」
「おう、いってら~」
こうして城ヶ崎さんも参戦することになった。
☆☆☆
リビングのテーブルに箱を広げて3人で囲う。そこまでは良かったのだが、夏凛が少しだけ不機嫌だ……5分ほどの説得の末になんとか機嫌を持ち直してくれたが、俺への言葉にやや冷たさが残ってしまった。
「兄さん、言い出しっぺなんですから最初にカードを引いてください」
「……はい」
まずは”状況”のカードから引いてみた。出たのは”密室”というカードだった。次に”場所”のカードを引くと”更衣室”というカードを引いた。
「その2枚を差し込めばいいんでしょ? どうせショボい電子音と共に適当な指示が出されるだけだって」
城ヶ崎さんは俺に早く差し込むように急かし始めた。
「よし、じゃあいくぞ!」
カードを2枚差し込んだ瞬間、視界はホワイトアウトしてしまった。そしてすぐに視界は真っ黒になり、ものすごく窮屈な空間に変わっていた。
「うう……ここはどこだ?」
ふにゅん
手を動かしていた俺は何やらとても柔らかいものを握ってしまった。
何だこれは?
むにゅ……むにゅ
「んふぅ……だ、めえ!」
先程から口許に毛のようなものが当たり、しかも良い匂いがするし、触っている柔らかい物は気持ちいいし、しかも触るたびにそれがこちらへ体重をかけてくる。
結果的に俺の前面は柔らかい感触に支配されることになる。
「な、んで……私、さっきまで……家にいたの……にぃっ!」
そして俺は気付いた。いや、気付くのが遅すぎた……”密室”と”更衣室”そこから導き出される答えは『ロッカーの中』だ。
俺が触れているものは恐らくは”夏凛”であり、彼女の台詞から一緒に飛ばされた可能性がある。しかも状況的に夏凛を後ろから抱きすくめている体勢でしかも手は前にあって、ソレを掴んでしまっている。しかも触感からスク水である可能性が高い。
「夏凛、俺のことがわかる──ゲフッ!?」
抵抗を始めた夏凛の肘打ちをもろにくらった俺は意識が飛びそうになった。
「え? 今の声……兄さん?」
「あ、ああ……俺だ。黒斗だ」
夏凛は抵抗を止めて俺からグー1個分ほどの距離を取った。しかし残念ながら振り向けるほどの広さは無いので、夏凛は前を向いたままだった。
「ごめんなさい、兄さんとは思わなくて……」
「俺だってごめんな、触っちゃって」
「ううん、事故だから仕方ないですよ。それよりも、ここどこなんでしょう?」
「たぶん、更衣室と密室のカード引いたからここに転移されたのかもしれない。予想だけど、ロッカーの中と思う」
「なるほど、ではもしかしたら中から開けれるかもしれませんね」
「わかった。ちょっと探ってみるよ」
鍵の位置らしき場所を探ってみるが全く見つからず、ここはどうやらロッカーであってロッカーではない場所であることがわかった。
「ちょ、兄さん! あまり動き回らないで下さい!」
「クソッ! どこかに脱出口があるはずなんだ!」
その後、色々動き回ってるうちに再度視界がホワイトアウトして、気が付いたら俺達は元の場所に戻ってきていた。夏凛も俺もあの空間のことを覚えていて、しかも城ヶ崎さんもどこか別の場所に転移していたのだという。
もう止めておこう、そう思ったのだが夏凛と俺の話しを聞いた城ヶ崎さんが何故か悔しそうな表情を浮かべて”もう一度だけ引きたい”と言い出したので、あと1回だけ引くことにしたのだった。
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