第86話 初恋の人の予言
五月上旬
入学してから約一ヶ月が経ち、教室では複数のグループが出来ている。
俺は初日から仲良くなった上野、入谷、神谷とよく一緒に行動をとってはいたが、それとは別に羽田、南川といったクラスのイケメンコンビとも親しくなっていた。
勿論、彼等と親しくしているのは大塚達、女子から『遊園地のアルバイト』の声がかかる為だが、『この世界』では彼等から俺に寄ってきている。
やはり『前の世界』とは微妙に『未来』が違っている。
しかし間違いなく大塚は羽田のことが好きなはずだ。
俺達が教室で会話をしている時は必ず北川と一緒にこちらの方をチラチラ見ているからだ。
俺達が大塚達にアルバイトの誘いを受けたのはいつ頃だっただろう?
『ホームルーム合宿』の前だったか、それとも後だったか……
さすがに何十年も前のことなので俺の記憶も曖昧なところがある。
そんな事を考えながら羽田達と別れて自分の席に戻り椅子に座ったと同時に女子が俺に声をかけてきた。
「五十鈴君……?」
「えっ?」
俺はメチャクチャ驚いた。
なんと声をかけてきたのは
いや、ちょっと待て。さすがにこれは覚えているぞ。
俺が水井と初めて口を利いたのは『ホームルーム合宿』後で、それも俺と付き合ってくれるかどうかの返事を渋々聞いた時だ。
「み、水井……? 俺に何か用……?」
俺は何か怖いものを見たかの雰囲気を出していたかもしれないが、今回は許してほしいところだ。
「あ、あのね……もうすぐ『ホームルーム合宿』があるでしょ? それで今日の『ホームルーム』で班決めをするじゃない? それで、も……もし良かったらだけど……五十鈴君のいる班に私達を入れて欲しいなぁって……でも、他の女子のグループと約束してたり、私達と一緒が嫌だったら無理はしなくていいから……」
よく見ると水井から少し離れたところに
そういえば彼女達は仲良し三人組でいつも一緒に行動しているよな。
なるほど、そういうことか……
俺は何となくだが理解できた。
『ホームルーム合宿』は二種類の班分けをすると聞いている。
まずは寝泊りする部屋は男女とも各七名ずつの班に分かれることになっているが、合宿中に色々と行う行事は男女三名ずつの混合の班で活動することになっていた。
おそらく水井達の中に羽田か南川狙いの子がいて、俺が二人と同じ班を組むと思い、一番話しかけやすい俺に一緒の班になるお願いをしてきたのであろう……
もしかしたら水井が二人のうちのどちらかに気があるのかもしれないな。
少し複雑な気持ちにはなるが……
だから俺は水井にこう返事をした。
「別にいいけどさぁ、でも俺が羽田達と同じ班になるかどうかはまだ決めていないんだけど……班が確定するまで待っていた方がいいと思うよ……」
「えっ? う、うん……分かったわ。五十鈴君がそう言うなら班が決まるまで待つけど……別に……あ、有難う。それじゃまた今日の『ホームルーム』でね……」
あれ?
何か違和感を感じてしまった俺だったが深く考えることはせずに俺はカバンから次の授業の教科書を取り出していた。
そして『ホームルーム』の時間となり予定通り今度の『ホームルーム合宿』の班決めを行う事になった。
まず俺と同じ部屋で寝泊まりするメンバーは上野、入谷、神谷、羽田、南川、そして数ヶ月後に新見の彼氏になる予定の米田の七名に決まった。
早速、常にテンションの高い上野が『夜はみんなで好きな子の言い合いをしようぜ!!』とバカな提案をしていた。
俺は絶対にこの提案には乗らないぞと心に誓うのであった。
そして問題の男女混合の班分けだが、結局俺は上野と入谷の三人で組むことにした。
なので俺は水井のところに行き、『羽田や南川と同じ班じゃ無くなったから、水井達は他の班と一緒になったらどう?』と提案したが、水井の口からは意外な答えが返ってくる。
「うううん、私達は最初から五十鈴君のいる班と一緒になりたかったから、五十鈴君達さえ良ければ一緒の班に入れて欲しいんだけどなぁ……」
「えっ、俺達なんかと一緒の班で良いのかい? べ、別に水井達がそれで良いなら俺は同じ班でも全然構わないんだけどさ……」
俺がこう答えると水井は満面の笑顔で『有難う!! それじゃよろしくね』と言うと西口と田所のところへ行くのだった。
俺はポカーンと水井達の方を見ていると突然、ヘッドロックをされた。
俺にヘッドロックをしているのは上野で、その横で入谷がゲラゲラと笑っている。
「うーっ!! お、おい、上野!! きゅっ、急に何をするんだよっ!? くっ、苦しい……」
「はぁああ?? 五十鈴く~ん……? 今、水井さんに失礼な事を言ってなかったかぁ? そうそう『俺達なんか』で悪かったなぁ……」
「へっ? ああ、悪かった!! アレは『言葉のあや』というやつで……グホッ……う、上野はクラス一の人気者だったよな!? わっ、悪かったよ……グフッ……」
「ふんっ!! 分かればよろしい……」
俺は何とか『スポーツバカ』で『怪力』の上野のヘッドロックから免れたのだった……
俺は前に『つねちゃん』が言っていた言葉を思い出した。
「隆君は自分の事、『男前』じゃないし『モテないタイプ』って思っているみたいだけど、それは大きな勘違いだよ。そりゃ、隆君がうちの幼稚園に入園した頃のままの『不安が顔に出るようなタイプ』だったら『男子』として魅力は無いかもしれないけど、今の隆君は堂々としていて、場合によれば先生なんかよりも『大人』な部分もあるから女の子からすれば今の隆君はとても魅力を感じると思うわ。だからこれから隆君の周りにはたくさんの女の子が寄って来るかもしれないわね……フフフ……」
『つねちゃん』……
『つねちゃん』にそう言ってもらえるのは嬉しいけどさ、今後のことを考えたら、『つねちゃんの予言』は何が何でも外れてほしい気持ちだよ……
そりゃあ、『前の世界』の俺は女の子にモテる為に必死に頑張ったけどさ……
それでも全然モテなくて……
なのに『この世界』ではモテる必要が無いから俺は大して努力なんかしていないのに、何故こんなことになってしまうんだ?
余りにも『矛盾』しているじゃないか……
【ホームルーム合宿当日】
俺達は学校の正門前の広い道路から大型バスに乗って『ホームルーム合宿』をする場所まで移動する。
座席は男女混合の班同士で自由に座っても良いことになっているのだが……
何故、よりによって俺の隣には水井京香が座っているんだ!?
これはある意味、俺にとっては『拷問』と同じである。
小学校、中学校と『前の世界』とは微妙に『未来』が違っていたが、高校生になった現在、更に違う『未来』へ進んでいるような気がする俺であった。
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
何かと思い通りに進まない隆……
そして高校生活が『つねちゃん』の予言通りになりそうな予感もしなくもない……
そんな不安を抱えて隆は『ホームルーム合宿』に臨むこととなる。
果たして『ホームルーム合宿』ではどんなことが起こるのでしょうか?
感想頂けると嬉しいです(*^^*)
どうぞ次回もお楽しみに!!
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