霜を踏み躙るもの8
「おいおいおいおい、聞いてねぇぞこんなバケモンがいるなんて……!」
「トーカさんみたいです!」
「まぁ、トーカの親戚みたいなもんだからね」
「あっ、じゃあ挨拶しなきゃです?」
「どうも、いつもトーカが御世話になっております」
「んなことしてる場合か!? とっとと逃げるぞ!」
背後から迫る理外の怪物に目を向けつつ、チャッカマンはどうしてこうなったかを振り返り己が不幸を呪っていた。
~数刻前~
チッ、ここに来てから不幸続きだ。訳わかんねぇ肉塊は襲ってくるわ、汚水に手を突っ込む羽目になるわ、挙げ句の果てに目の前にあるチャカを諦めなきゃいけないわ……。
「神よ……」
「……? チャッカマンさんってキリスト教徒だったんですね!」
「いやラピス、別に神に祈る=キリスト教徒ってわけじゃないよ」
「キリスト教なんか信仰してるわけないだろ、俺の神は拳銃神だけだ」
まぁ、名前を知ってるだけで概要すら知らないんだけどな。名前が素晴らしいからそれだけで信仰対象だが。たしかネットを漁ってたら見かけた名前だったか……
「そんな神様いるんですね!」
「いや確か漫画の題名だったと思うんですが……」
「……マジ?」
「マジです」
嘘だろ、俺が信仰してきたものは何だったってんだ……俺は、俺は一体どうしたら……
「神よ……」
あぁ、今はその神さえいない。
……。
「……早いとこ次の部屋に行くぞ」
「あ、諦めましたね」
「良いことありますよ!」
2人の励ましを背にドアを開けると、そこは非常に奇妙な部屋だった。
丸い椅子、丸い机、その他角のない品々。
角の概念が消失したような空間。
長々といると気持ち悪くなってきそうな部屋だが、1つ角のあるものを見つけた。
「なんだ、ありゃあ?」
「あれは……割れたガラス?」
「踏まないように気を付けなきゃですね!」
……言ってることは間違ってないんだが、ラピスの言葉ってなんか気が抜けるんだよなぁ。若干ずれてるというか。
「さて、では探索の方を……」
「おい、ちょっと待て。あの煙は何だ」
さっきのガラス片、その付近から蒼白い煙が上がり始めていた。しかも、その煙の向こうから視線を感じる。
「あー、わんわんの呪いですかねぇ……」
「わんわんの呪い?」
「犬! 大好きです!」
「うーん、いつの間に視られたんでしょうか」
「おいおいそれより不味いんじゃないかあれ……!」
煙から角が生えてくる。どうやらあれが腕らしい。
続いて頭、胴、脚。
その目は餓えていた。
その目は痩せていた。
その目は真っ直ぐコロナの奴を見据えていた。
あらゆる邪悪を集約したようなそれはまるで動くキュビズム絵画のようだ。
この部屋とは対称的に、曲線の概念の存在しない身体は輪郭すら曖昧だが、何故か猟犬のような印象を受ける。
そんなわけで俺達はこんな目にあってる。
「おいおいおいおい、聞いてねぇぞこんなバケモンがいるなんて……!」
「トーカさんみたいです!」
「まぁ、トーカの親戚みたいなもんだからね」
「あっ、じゃあ挨拶しなきゃです?」
「どうも、いつもトーカが御世話になっております」
「んなことしてる場合か!? とっとと逃げるぞ!」
あぁクソっ! 何でこいつらこんなに気が抜けてるんだ!?
神よ、偽物でもいいから今だけどうか俺を救ってくれ。
「いや、どうせ逃げても別の角から出てくるだけですよ。トーカと一緒です」
「はぁ!? じゃあどうする!」
「ここで迎撃します」
「トーカさんに後で謝らなきゃですね!」
そう言って2人は怪物へと飛び掛かった。
「コロナ、てめぇの回りはいつもこうなのか!? 退屈しなさそうだな、おい!」
「どうも」
「褒めてねぇよ!」
ちくしょう、何で俺がこんな目に……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます