第69話




「うおっ、なんだこれ?」



「臭! モンスターじゃん、倒してみようぜ」



「おい、コイツ物理無効持ちだ!」



「ちょ、速っ……!?」



「ひぃっ、助けてくれ!」



「なんっ、飲み込まれっ……!」



「落ち着け! 魔法付与して攻撃をし、ぐわっ!」



「おい、大丈夫か!?」



私たちの見ている目の前で、突然地面から湧いてきた軟泥に付近のPLが次々とやられていきます。



「うわぁ、外から見るとあんな感じなんですね」



「ちょ、てけりちゃん? なんでそんなに冷静なのかしら!?」



「というか、発言からして経験済みであるか……」



えぇ、エイブラハム戦で嫌という程。大抵飲み込まれる側だったので、外からじっくり見たことはなかったです。



「それにしても、私たちのことは襲ってきませんね」



「白無垢の母補正かしら?」



「おそらく、自由に動ける我々が解決しなくてはならないということであるな」



そう、周囲のPLを無差別に襲っている軟泥ですが、私たち3人とクラリスニアン達だけは例外です。軟泥はなんの興味も示さず、こちらを見向きもしません。


……ん? クラリスニアン?



「っ!? 王首領さん、クラリスニアンはどうなってますか?」



「いなくなってるのである……って、え? あ、あっちに走って行ってます!」



思わずロールプレイの切れた王首領さんの指差す先では、混乱したようにめちゃくちゃに手足を振り回しつつも、真っ直ぐ何処かへと向かうクラリスニアン達の姿が。


いやぁ、思わず飲み込まれる人に見入ってしまいました。



「周りに気を取られ過ぎたわね……追うわよ!」



「追わなきゃダメですかね? これで追っ払えたと思えばそれはそれで……」



「ダメに決まってるでしょう!?」



ダメか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


クラリスニアンはその小さな体軀からは想像もつかないような速さで、妄執の朽ちた果ての深部へと駆けていきます。これはAGIあげてなかったら置いていかれてましたね……。



「速いですね。リアルの私より体力ありそうですし」



「え、まだ1分くらいしか走ってないのであるが」



「私の体力は、10秒も走れば底を尽きますよ?」



「えぇ……」



なんですかミラさん、その引いたような困惑したような声は。



「自分から話を振ってきたから聞くけど、何かの病気かしら? あ、答えたくなかったら答えなくて結構よ」



「いえ、体質ですね。私、人よりちょっとだけ体力が少ないんです」



「……で、あるか」



「ちょっとだけ……?」



ええ、ちょっとだけですとも。英語にするとa littleです。


ところでこれはどこまで走るんでしょうか?もうかなり深いところまで来たと思うんですが……あぁ、いえ、クトーニアンやシュド・メル関係だとしたらまだまだ潜ってもおかしくないですね。



「地下潜行三千里です!」



「?」



「てけりちゃん、その人最後行方不明になってるからやめるのである」



ミラさんには伝わらなかったようですが、王首領さんには伝わったようです。つじーんですよ、つじーん。



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