2章 怪人フェルゴールと再会

回収者

 

 ガーディアンズ 日本支部--



 ウィイイイン!ウィイイイン!



 緊急サイレンが鳴り響く。

 怪人が現れた合図だ。

 それと同時に、出動の合図でもある。


 この一年間、あの鎧の怪人も現れないどころか、他の怪人すらも現れていない。

 せいぜい雑兵レベルの怪人が現れたくらいで、これといって目立った何かは起きなかった。


 だが、このサイレンが鳴ったということは、強い怪人がいよいよ現れたということ。

 この一年、何か準備をしていたに違いない。

 ようやく、怪人側が本格的に動き出したということだろうか……


 あれから一年。何もしなかったわけじゃない。

 もう、負けない。


芹澤せりざわ!」


 飛鳥井あすかいが走ってそばに駆け寄り、出撃準備室に駆け込んだ。


「……飛鳥井。」

「このサイレンって……やっぱり……!」

「ああ、間違いないだろう。」

「あの鎧の怪人か!?」

「わからない……だが、もう既に数カ所で現れているらしい。第一小隊はもう向かっている!」


 ドタドタと走る音がする。

 他のメンバーもどうやら到着したようだ。


「飛鳥井!芹澤!」

村主むらぬし東雲しののめさん!王城おうじょうさん!」

笠宮かさみやさんがメンテナンス終わったみたい。」


 東雲が我先にと、先に出撃用の王城製特別バイクに搭乗した。


「おい、東雲!」

「早く行くわよ。怪人を、殲滅してやる。」


 東雲がアクセルを吹かす。


「……冷めた奴。」

「それだけやる気ってことでしょ。」


 村主と王城を見て、飛鳥井は頷く。

 芹澤はもう既に準備を始め、バイクに乗っていた。

 それを見て、皆がバイクに乗り込む。


「うん、そうだな。よし……みんな、行くぞ!」

「ああ。」

「……」

「おう!」

「よし。」


 全員が、出撃した。

 この国を、驚異から守るために。



 ♢♢♢



『さて……仕事の時間だ。』



 何者かが、高層ビルの上から彼らを見ている。

 その存在を、誰も知ることは無かった。



 ♢♢♢



「ジャリャアアアア!」

「ジャリ!」

「ジャリャリャ!」


 黒い体に骸骨の頭を持った怪人が、銃と剣を持ってガーディアンズの別部隊と対峙たいじしていた。


 服を着ていないにもかかわらず身体から逆立ったえり、そして体色に反した白のスカーフベルトが特徴的だ。


 だがそれよりも一番の特徴として目立つのは、その怪人は一人ではなく、集団でおそい来るということ。

 その上数は無限かと思えるほどに、何度も何度も集団で、この地球、この国に襲来しゅうらいし、現れている。

 それはつまり、ガーディアンズ日本支部のガーディアンが一番見てきた怪人であり、戦ってきた怪人でもある。

 十分に対策はされていた。


「そらっ、と」

『ジャアアア!』


 叫びを上げたジャリアーが黒い闇へと消えた。


 やがて、全てのジャリアーの集団がガーディアンズによって全滅させられた。


 ピピッ

 ピゴッ


 リーダー格の男が、右手首に付いた端末で連絡を取り始めた。


「こちら第一小隊。雪音ゆきね、終わったぞ。」


『了解です!南南西方向に飛鳥井くん達が向かいました!そこに反応の大きな怪人がいます!距離があるとは思いますが……!』

「加勢だな。わかった。行くぞお前ら。」

「「はい!」」


 全員が特殊バイクに乗り込み。

 誰もいない道路を駆け抜けた。



 ♢♢♢



『さあ、死ね死ね!』


 人が逃げ、散っていく。

 それを追い、右腕の剣で無差別に切り裂いていく怪人と、銃と剣を持ったジャリアー達。


 サーベルの腕を持つ怪人の体格は大きく、隆々しい。

 足は人間というよりは、動物の足が人間大になったようであった。

 そしてなにより、赤いマントと胸にある紅い32の文字が目立つ。


 ザシュッ


 スタスタ……


 グチャっ


 倒れた死体に追い打ちをかけるように踏み荒らし、切っては追い、切っては追いを繰り返す。


 怪人の行進は、大きな広場まで続いた。

 怪人はそこで違和感に気づく。


(どうしてここには地球人がいない……!)


 そんな時--


『NOW INSTALLING』


 そんな怪人の疑念をかき消すような機械的なサウンドが響いた。


『ぐじゃっ……!誰だ!』


 怪人の振り向いた先には、特異なスーツを着た人間たちが武器を携えていた。


「どうやら、アタリを引いたようだな。」


 芹澤が思ったことを口に出した。


「鎧の怪人じゃあないわね。」

「そんなことは関係ない。」

「そうだな、いくぞ!みんな!」

「おうよ!」

「よし……!」


 飛鳥井が号令をかける。


 それを見た怪人が気だるげに、そしてバカにして言った。


『はぁん?お前らか、が言っていたガーディアンズとかいう地球人の集まりは。なるほど、確かに複数で群れているなぁ!ゆけえ、ジャリアー!』


「「「「ジャリャアアアアア!!」」」」


 約20もいるジャリアーが雄叫びをあげて、ガーディアンズに襲いかかる。


 だぁん!

 と、先手必勝と言わんばかりに、芹澤が勢いよく踏み込み、ジャリアーの上を飛び越した。

 レーザーランスを構え、怪人の頭上からランスを振り下ろす。


「くっ!!」

「芹澤!」

「は、ああああああ!!」

『はぁん……そんなモンか!?』


 芹澤がなんとか踏ん張るも、徐々に押され始めた。

 芹澤が両手で競るも、怪人も両手で押すため、そろそろ限界が近い。

 芹澤が怪人の剣ではない方の腕を掴み、何とかして怪人がこちらを押すパワーを少しでも軽くしようと、手首を掴んで剣から離そうとする。

 だがそれを怪人に利用され、勢いよく振り回された。


『つえりゃああああっ!!』


 芹澤はジャリアーの集団にぶん投げられた。


「くっ……!」

「芹澤!」


 飛鳥井が芹澤に駆け寄った。


「ハァ……あいつの手に、発信機をつけた。あいつが俺たちから逃げようと、これでいつでもあいつを追える。」

「ホントか……!よし。立てるか、芹澤。」

「当たり前だ。いくぞ、飛鳥井。」

「ああ!」


 飛鳥井と芹澤がジャリアーの群れに突っ込む。

 一方を村主が特攻し、その後ろを東雲と王城がバックアップをしていた。


 そして、


「はあっ!」

「ふっ!」

「はっ!」

「うおりゃあ!」

「せいっ!」


「ジャ……リャアアアア!」


 ジャリアー全員が黒い闇に消えた。


 それを見ていた怪人がフンと鼻を鳴らした。


『なかなかやるようだ。俺が相手してやろう!』


「逃げずに待つとは……ずいぶん余裕だな。怪人!」

『逃げる必要がねえからなあ!』


 怪人が剣の腕をガーディアンズに構える。


『俺の名はブウィスタ!てめえらは、さっさとブッた斬ってやる!』


「やってみろや!」


 一番最初にブウィスタへ飛び込んだ村主。

 だが、ブウィスタは読んでいたかのように簡単にレーザーサーベルに自分の剣を当て、払おうとした。


「ぐうっ!」

『へへ……どうした……?』


 迫り合いのスキを狙い、飛び上がって上から剣を振り下ろそうと飛鳥井が試みた。

 だが、怪人は競っていた村主を宙に蹴り上げ、宙に浮いた村主にぶつけた。


「ぐっ!」

「うっはっ!」


「はあああ!」


 その隙に芹澤が背後から迫った。


 足を振り上げた分、怪人は体制を整えるのが遅れた。


 ブゥン


『しまった!』


 バシュッ!


『ぎっ!この……クソ!』


「いまっ!」

「オッケー!」


 ピュンピュンピュンピュン

 ビュンビュンビュンビュン


 芹澤の背後からの攻撃で、無防備になったブウィスタの体に、東雲のレーザーガンと王城のレーザーアローの連射が放たれる!


『ジャアアアア!小賢しいんだよ!!』


「行かせるか!!」

「せりゃあ!」


 ガキキィン


 飛鳥井と村主が行かせまいと二人でブウィスタの剣を止めにかかる!


「一人じゃダメなら……!」

「二人でどうだあ!」


『ぬ、ぬううりゃあああ!』


 ガキュイン


「ぐあああっ!」

「うはああっ!」

『足りねえなああ!!』


 怪人それをいとも簡単ににはねのけた。

 だが、そこを東雲と王城がすかさず攻撃する。

 そして、東雲がレーザーランスで突き刺した。

 だが、ブウィスタが反応して後ろに下がったため、致命傷とはならなかった。


『もう怒った……!下等生物がああああ!』


「村主!立て!来るぞ!」

「お、おお……!飛鳥井!」


 ブウィスタの剣戟けんげきが迫り来る。

 息が整っていない中、飛鳥井と村主の二人でなんとか後退しながら防いでいく。


『吹っ飛べ!』


 ガキン!ガキン!

「うわっ!」

「ぐおっ!」


 二人のガードが一瞬甘くなったところを狙われ、プロテクターに傷が入った上にそのまま吹っ飛んだ。


「はあっ!」


 ザシュッ


「追撃させるかよ……!」

『ぐ、あっ……!く、』


「ナイス……芹澤!」


 芹澤の最大出力のビームランスが怪人を貫いた!


『そんな……バカな……』

「東雲さん!王城さん!」

「ターゲット、ロック。」

「もう準備してるっ……!」


 ビビビビ……!


「みんな退け!」


 飛鳥井の指示で芹澤がブウィスタからビームランスを引っこ抜いた。

 そして、即座にバックステップで距離をとる。

 飛鳥井と村主も各々距離をとった。


『ただで、やられるかぁ!』


 怪人は剣を振り回しながら前に突進してきた。


 レーザーバズーカが、ターゲットをロックした。


「いけぇ!!!」

 カチッ


 ビィィィィイン


 二方向からレーザーバズーカのエネルギー弾が射出された!


『うぐ……あああああああああ!!!!!!!!』


 ボカァアアアン!!!


 ブウィスタは爆発した。


「よし!」

「いっちょあがり!」


 飛鳥井と村主が喜ぶ中、東雲はバイクの元へ向かっていた。

 それに王城気づいた。


「東雲さん?」

「目的は終わったわ、長居する必要もないでしょう?」

「それもそうね、さっさと帰りましょうか。」

「おーい、芹澤!帰るぞ!」


 なんだ、この違和感?

 なんだ、怪人は倒したはずなのに……どうしてこんなに怖いんだ……!?

 今まで、怪人が爆発したこと……

 !


 芹澤が腕に着いた、端末を確認した。

 すると、驚きの事実がそのスクリーンには映っていた。


「芹、澤……?」

「おい、敵は生きてる……!」


 芹澤は踵を返して駆け出し、バイクに乗り、アクセルを吹かして走らせた。

 この恐怖を拭うかのように。



 ♢♢♢



 ヒュン……タン……



 建物の屋上を軽々と移動し、怪人を担いでいるがいた。


『すまねえ、助かったぜ……アンタ。』

『問題ない。これが俺の仕事だからな。』

『まさかあのエネルギー弾合わせてマイクロ爆弾をぶつけ、俺が消滅したように見せかけて俺を回収するとはさすが"回収者"だぜ。』

『……』

『クソッ、俺が……あんな下等生物共に遅れをとるなんて……!次はアイツら……絶対にぶっ殺してやる!』

『お前はなりたいか?』

『っ!?』

『強くなればもうあのような奴らに敗北することもない。』

『あ、当たり前だ!』

『そうか。なら、大人しくしていろ。すぐに運んでやる。』

『あ……ああ、わかった……』


 さて、さっさと運びたいところだが……

 近くにごにん……遠くに三人か。

 なぜこうも的確にここ付近に……


 っ……発信機。


『ブウィスタ。いつの間に発信機なんてつけられたんだ。お前は。』

『なに……』

『ほら。手首についてた。』

『なんだと……!っ!あの槍野郎か!!』

『はぁ……』


 大方戦闘の際に、油断したところを付けられたのだろう。


 こいつをこのまま連れて帰った際に、俺達の宇宙船の場所がバレる可能性はゼロじゃない。


 ……ならば、


 俺はその発信機を剥がし、自分で持つことにした。


『ゲート』


 ブゥンと黒と青が入り混じる空間が現れた。


『お前、先に帰ってろ。』

『え、あ、アンタは……』

『お前の尻拭いだ。行け。』

『え!?ちょちょちょ!』


 首根っこを掴み、ブウィスタをゲートの中に放り投げた。


『さて……仕事の時間だ。』


 黒い鎧の藍色の瞳が、一際輝く。


 冷たい風が、吹き始めた。

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