No.0 キャプテン・ゼスタート

 

 レブキーとフェルゴール以外のヒトケタが集まった。

 最後に集まったのは、地球に初めて訪れた時であった。


「いやいや……壮観だねぇ……」

「お前が言うのか。」

「いや、だってあん時以来だぜ。感傷に浸らない方がおかしいってもんだ。」

「お前が浸れる感傷があればの話だが、な。」

「アハハ……!ひどいねえ。」


「それで、お前さん地球で何しとったんじゃ。」

「うーん……なにしてたんだろ……」

「なにしとったんじゃ……」


「メイビー……あなた、どうしてあのようなことを。」

「あら。ずいぶんあの子のこと、気にかけているのね。」

「からかわないでください。」

「シシシ……冗談よ。ま、あんたなら察しついてるんじゃない?」

「……まあ……」

「この先当たり前のようにやれなきゃ、無価値なんだ。無価値だった場合、どうなるかなんて知らないけど。乗り越えてもわなきゃ、困るわ。」

「……」


「全く頭が痛い……」

「おうおう、どうしたってんだヘルハイ。」

「誰のせいだと思ってるんですか!」

「はぁ……あの報告のせいで公開処刑になるかもしれない……ああ……不安だ……」

「あの時……?」

「お前が阿呆やった時だ!」


 ヒトケタのそれぞれが会話をする中、フェルゴールとレブキーが帰ってきた。


「足の調子はどうデス。」

『ああ、悪くない。ありがとう、レブキー。』

「イエイエ。まあ、よかったです。相性のいいパーツを使っているので、治りも早いみたいデス。しばらくすれば、しっかり馴染むデショウ。」

『わかりました……自分でも治せるようにしたいですね。俺でも治せますか?』

「そうデスネ。パーツが大きな損傷または欠落、あるいは消滅しなければやりようはあるのデ、機会があればの教えまショウ。」


 司令室にいたヒトケタ達がフェルゴールとレブキーが気づいた。


「フェルゴール、無事だったか。」

「ま、死にはせんでも深手じゃったのは事実……」


 ヴァルハーレとゲンブが見据える先には、メイビーがいた。

 当の本人は何処吹く風と、フェルゴールに近づいて顔を近ずけた。


「あら無事だったのね。」

『ええ、おかげさまで。ありがとうございます。そして、すみませんでした。』


 フェルゴールがメイビーに頭を下げた。


 それを見たメイビーがフェルゴールの頭を撫でた。


「やっぱ、あんたかわいいね。」


「こらこら。フェルに変なことすんなよ。」

「バカね。かわいい子を見守るのはあたしの役目よ。」

「あー、そっすか……」

「ちなみにあんたはどーでもいいから。」

「一言多いわ!ったく……」


「……ゼスタート様。」


 ヴァルハーレが声をかけると、カッとゼスタートの目が開いた。

 その瞬間、虹色の目がこの場にいる皆を見据える。


 キスオフ以外のヒトケタとフェルゴールが膝をついた。

 キスオフがそれを見て、ゼスタートにぺこりと頭を下げた。


『皆、ご苦労であった。ヴァルハーレ、ゲンブ、ラヴェイラ。お前たちのおかげで、フェルゴールはより強くなった。礼を言うぞ。』


「ありがたき幸せ。」

「滅相もございません。」

「イエイエ……」

「はっ。」


『そして、メイビーお前のおかげで大きく資源を得ることができた。礼を言うぞ。』

「はい。」


『ヘルハイ、お前のおかげでパラトゥースファミリーのある程度の位置を思考することが出来た。礼を言うぞ。』

「はっ!」


『ドゥベルザ、お前がアフリカにあるガーディアンズの支部を壊滅させた活躍。褒めて遣わす。』

「うおおおお!気にしないでくれえ、ゼスタート様ぁ!」


『キスオフ、お前はなにをしていた?』

「んー……なにもしてないよ……?」

『そうか。お前のことだ。気が向いた時に頑張ってくれ。』


「ねぇ……ゼスタート……様……」


 キスオフがゼスタートを見て、口元を歪めた。


「いつになったら……おれと戦ってくれるの……?」


 キスオフの、純粋な質問だった。


『地球を手にしてからだ。』

「そっか……!ああ……楽しみだなあ……!」


 キスオフは本当に楽しそうに笑っていた。


『そして、フェルゴール。』

「……はい。」

『お前に二度"命名の儀"を行った理由を話そう。ひとつは、お前の"命名の儀"が不完全だったこと。もうひとつは、私がお前に可能性を感じた為だ。』

『可能性……ですか?』

『そうだ。我はお前が誕生し、なにかを感じた。そして、最初に行った"命名の儀"にて、我のグリッヂがお前に馴染むのを感じた。ヒトケタではないにも関わらず、デベルクであるにも関わらず、だ。

 なぜかはわからぬ。だが、我はそれに賭けることにしたのだ。』


 ここにいる皆が、ゼスタートの話に静かに耳を傾けていた。


『レブキーから話は聞いた。お前のアイデアを採用して見ようと思う。レブキーの創ったデベルクが消滅する前に再回収する案。そして、地球人をここに連れ、デベルクに改造する案を。

 この先お前が育った後、回収者としての任に就いてもらう。』


『回収者……ですか?』


『そうだ。デベルクの再回収。そして、地球人の連行をお前に任せる。

 理由としては、お前を次に地球に向かわせる際は、既にヒトケタに近い実力を持っていると仮定できるからだ。そのため、地球にて消滅する可能性が極めて低いこと。そして、我々の中で一番地球を知っている。それが理由だ。』


 ゼスタートがフェルゴールを見据えた。


『フェルゴール、お前には期待している。我にはいや、我々にはお前が必要なのだ。どうか我に、お前の行先を見せてくれ。』


『はっ!ありがとうございます!』


 フェルゴールが力強く返事した。


『お前達、異論はあるか?』


 全員がゼスタートを見据えた。

 どうやら異論は無いようだ。


『では、これからについてだが。

 ヴァルハーレ、ゲンブ、レブキー、ラヴェイラ。お前達は、フェルゴールへの鍛錬を。フェルゴールが回収者としての任に就いた場合、船内待機だ。』


「はっ!」

「はい」

「ハイ」

「はっ」


『キスオフ。お前は自由でいいが、我々の迷惑になるようなことだけはするな。命令を聞かぬお前でも、これだけは守ってくれ。』

「んー……いつも通りにするよ……」


『メイビー、お前も待機だ。用がある時は私から連絡する。』

「了解。」


『ヘルハイ、お前にはパラトゥースファミリーの調査を依頼する。やり方は、そうだな。ヴァルハーレと話し合え。』

「了解しました。」


『ドゥベルザ、お前にはツロリロ星人に関しての任をいずれ与える。』

「わかったぜ、ゼスタート様!」


「ナクリィ、お前は引き続き極秘任務だ。」

「了解ですっ。」


『では、これにて。終了だ。我はコアへ戻るとしよう。』


 ゼスタートはそう言って目を閉じ、眠ったように動かなくなった。


「さて、どうするか……」


 ヴァルハーレがそう言うと、キスオフがナクリィが出口に向かった。


「じゃ、オレは先に行くとしますか。」

『もう行くんですね。』


 フェルゴールが別れ惜しそうに、言った。

 するとナクリィは笑ってフェルゴールに近づいた。


「生きてりゃ、また会える。今日みたいにな。ってか、絶対生きてろよ。オレはまだお前とは話し足りないからさ♪」


 プシュー……とドアが開いた。


 ニッと笑うとナクリィはさっさと出ていった。


 キスオフがフェルゴールの元に歩み寄った。


「じゃ……フェルゴール……次会う時までね……本気で楽しめる……相手になってよ……」


「まだ言うとったのか……」


 ゲンブが呆れて言うが、当のフェルゴールはどこか嬉しそうに見えた。


『はい、わかりました。絶対、やってみせます。次こそちゃんと当てますから。』


 その返事に満足したのか、キスオフは口元を緩め、部屋を出ようとした。

 すると……


「オイ!キスオフ!俺との戦いはどうした!」


 ドゥベルザがヘルハイを指さして怒鳴った。

 そばにいたメイビーとヘルハイが耳を塞いでいた。


「忘れた……んー……気は乗らないけど……いいよ……」

「よっしゃあ!」

「久々に……ちゃんと動かせるかな……」


 プシュー……とドアが開いた。

 キスオフは気だるげに、ドゥベルザがやる気満々に部屋を出た。


「じゃ、あたしは部屋に戻るわ。やること無くてしばらく暇ね……ああ、フェルゴール。あとで来な。色々話したいこと、聞きたいことあるから。ラヴェイラもあとで来なよ。」

『わ、わかりました……』

「私も……ですか。」


「何考えてるんデス……まったく。」


 やれやれと頭を振るレブキーとため息を吐くラヴェイラを見なかったことにしたネイビーは、ポンッとフェルゴールに頭に手を乗せ、部屋を出た。


「じゃ、ボクも戻ろうかな。じゃ、後でね。フェルゴール。地球に行く前だったら特訓に付き合えるからね。」

『ありがとうございます。』

「気にしないで。」


 ヘルハイが優しくそう言って、部屋を出た。


「どれ、特訓といこうか?フェルゴール。」

「ゲンブ……アナタバカですか!フェルゴールはケガして帰って来たばかりなんデスよ!?」

「動いてりゃあ良くなる。」

「ハァ……これだから戦闘バカは。」


『ふふ……あははは……!』


 またぎゃあぎゃあと騒ぐヴァルハーレ、ゲンブ、レブキーを見て、フェルゴールはもう笑いを耐えられなかった。


「どうしました、フェルゴール?馬鹿馬鹿しくて呆れましたか?」

『いや、嬉しくて。』


 ヴァルハーレ、ゲンブ、レブキー、ラヴェイラがフェルゴールを見据えた。


『俺はやっぱり、デベルクで良かった。そう思ってる。俺は今日、人を殺した。けど、そうしなきゃ生きていけない世界に俺は来た。後悔はした……でも、自分がいつ死ぬか本当に分からないにも関わらず、自分が自分としてあるために全力で生き、全力で楽しむあなた達がいる。

 なにより、家族のように迎えてくれたあなた達がいる。

 自分を……自分という存在を見てくれる。

 自分に価値があることを認め、教え、導こうとしてくれる。

 そんなあなた達に出会えて、俺はよかった。

 だから、今度は俺が全力で生きて、返す番だ。』


 フェルゴールがそう言うと、ヴァルハーレがフンと笑った。


「そういう感傷に浸るのは、私達の目的を達成した時に言うものだ。」

「家族のぅ……考えたこともなかったわ。」

「まァ……家族なんて集団じゃないデスからね。」


「家族……」


 ラヴェイラがでポツンと呟いた。


『ラヴェイラ?』

「いえ、なんでもありません。」


 フェルゴールがふと窓を見ると、そこには宝石を散りばめたように広がる星々が、各々の光を誇示するように光り輝いていた。


 今度こそ躊躇わない、今度こそ遠慮しない。

 今度こそ……もう後悔しない。

 精一杯、生きてやる。


 フェルゴールが一人決意した。


 外の宇宙では、流れ星が静寂と共に流れていた。



 ♢♢♢



「メイビー、キミ自分から嫌われるような行動しちゃダメですって。」


 そこには、メイビーとヘルハイがいた。


「しし……あら、心配してくれるの?」


 からかうように、メイビーが言う。


「ダメでした?」


「いや、意外だっただけよ。」


「意外って……ボク、結構キミのことは気にしてるつもりなんですけどね。から……」


 メイビーが笑いながら、水を汲んだ。


「そっか……今回は自分でも生きた心地しなかったわねぇ。流石にヒトケタ全員が敵に回ったと思うと……」


 ケラケラ笑いながらメイビーだったが、対するヘルハイは真剣な表情を崩さなかった。


「フェルゴールのためだろう。全部。」


 ヘルハイが言うが、メイビーはどうでもいいとばかりに笑い飛ばす。


「よいのですか、弁明も何もしなくて。」


「いーんだよ。それがあたしの役目で。」


 クッと水を一気飲みすると、器を置いた。


「悪者は、あたし一人で十分さ。わかる人だけが分かればいい。」


「バカなこと……言わないで欲しいものですよ……」


 部屋を出ていく際に、つぶやくように漏れたヘルハイの言葉は誰の耳にも届かなかった。

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