No.5 メイビー 前編

 

『わけがわからない……』


 ラヴェイラに言われるがままに従って、ここに転送されたわけだが……


『聞いたこともないような場所にきたな……』


 きっと、今の人類では辿りつけない遠い遠い、小惑星。


 そこは太陽がなく、一面に砂漠が広がっていた星だった。


「うがあ!」

「ぎゃっ!」

「ごはあ!」


 悲鳴……

 行ってみよう。



 ♢♢♢



「ラヴェイラ」

「ヴァルハーレ、ゲンブ。」

「フェルゴールはどこじゃ。」

「エザート星へ行きました。」


 ラヴェイラの言葉を聞いたゲンブは驚き、ヴァルハーレは頭を抱えた。


「なんと……」

「メイビーのところか……」

「なぜ、行かせたのじゃ……」

「No.4はともかくNo.5がいつまでたっても来ないので、遊んでいる可能性が高いということをゼスタート様に告げたところ、いい機会だということで使いにフェルゴールを。」


「ちょっ、まてよ!」


 だだだだと走る音がする方を見ると、ドゥベルザと、それを止めようとするヘルハイがこっちに向かってきた。


「落ち着いてドゥベルザ!」

「ドゥベルザ、ヘルハイ。」

「あいつは!あいつは、おれたちにないココロと、そのココロに傷を持ってる!なぜその傷をさらにえぐるようなことをさせるんだ!」

「ドゥベルザ!」


 ドゥベルザが叫ぶも、ラヴェイラは何処吹く風というように答える。


「必要なことです。ここで生きていくためには。」

「そうだ……いずれ必要なことが早まっただけ、だ」


 ヘルハイがなだめるように言うが、ドゥベルザは煮え切らないようだった。


「わかってる、わかってるけどよぉ……」

「大丈夫です。フェルゴールなら。」

「ラヴェイラ……」

「そうじゃな……信じるしか、あるまいて。」

「そうだな。」

「うん。」

「おまえら……」


 頭を抱えてふんすと鼻息を吐いて決意したようにドゥベルザが正面を向いた。


「よし、おれも信じることにするぞ!あいつはおれの同士だからな!」

「おお、そうじゃヴァルハーレ。」

「なんだ、ゲンブ。」

「このフェルゴールの足を引っ張った馬鹿共に罰を与えるぞい。」

「ああそうだ、忘れていたな。」

「待って!おかしい!なんでボクもなの!?」

「当たり前じゃ。」

「理由を明確にしてよ!」

「ほれ行くぞい。」

「ガハハ!ぶっ潰してやる!」

「やってみろ。」

「ふざけんな!やりたくない!」


「フィー、いい収穫デシタ。流石フェルゴール、いい場所を知って……」

「あ、レブキー。」


 レブキーが帰ってきた。


「おお、レブキー帰ってきたのか。」

「ようやく帰ってきたか……」

「ゲ、ヴァルハーレ……ゲンブ……」

「ずいぶん帰りが遅かったのう……」

「頼んでいた仕事をほったらかして……どこへ行っていたんだ?」

「違いマス!フェルゴールが……ヘルハイ助けろ!」

「嫌です。」

「おい!ヴァルハーレ!ゲンブ!俺との喧嘩はどうしたあ!」

「ああ、もう滅茶苦茶だ!勝手にしろ!」


 ぎゃあぎゃあ、わいわいと騒がしい中、ラヴェイラは宇宙を見つめていた。



 ♢♢♢



『なんだよ、これ……』


 わあああああああ……!


「うおおおおお!」

「ぐああ!」

「だらあああ!」

「ぎゃあああああ!」


『これ……まるで、戦争じゃないか……!』


 襲う側と襲われる側


 肌が褐色の人間みたいな姿をした星人が男も女もみんな武器を取って戦っている。


「いやああああ!」

「おおおおおお!」

「うおおおおお!」

「あああああ!」


 地獄絵図ーー

 まさにそのものだった。


 殺人を楽しむ者もいれば、追いかけ回して逃げる様を楽しむ者もいた。

 

『やめろ……』


 黙って見てはいられなかった。

 いや、見ているわけにはいかなかった。


『やめろ、って言ってんだろうがぁああああああ!』


 自分で自分を鼓舞するように声を上げ、人々の群れに“黒”氷河の大鎌グレイシャルサイスを携えて、突っ込んでいく。


 だが、襲われる側の星人達の首が一瞬で無くなった。


『え……?』


 気配はなかった……一体誰が!?


 ざっざっ……


 襲う側の連中が何かを恐れ、逃げるようにその場から離れていった。


 一人の女性が堂々と歩いている。

 派手なスパンコールドレスを着、ピンクの髪という随分と派手な格好だった。


「あら、随分と呆気あっけないわね。」


(こいつが……!)


 俺はその女の道をはばむように、女の前に立ちはだかった。


 女の蛇のような瞳がこちらを見据える。


『待て……!』

「なに、あんた。邪魔よ。」

『させない、絶対に!』


「デベルク風情ふぜいが、あたしの前に立ち塞がるんじゃないわよ。早くどきなさい。」


『デベルク風情かどうか、試してみるか……?』


「なにを……」


 ギュオン


 気迫とオーラがフェルゴールから噴き出した。


 その気迫に気圧され、次々と襲っていた兵士がバタバタと倒れていく。


(やっぱりこの女、ただ者じゃない!)


「……なんで、デベルク風情が気迫とオーラを……!!」

(デベルクが扱える量じゃない!なんなのこいつ……!)


『デベルク風情……まるで、自分はそうでもないと言いたげだな……』

「当たり前でしょ?気づかないの?」

『お前からは、オーラどころか気迫すら感じない。』

「ああ、そういえばそうだったねぇ♪仕方ないわよ。だって、そうしてるんだから……!」


 ギュオオオオオオオ!!


 噴き出した気迫とオーラと共に、彼女の化けの皮が剥がれた。


 彼女の皮膚は蛇のような鱗の肌になり、髪の一本一本がピンクの蛇と化した。

 口からは犬歯がはみ出している。


『な……!』

「これで、わかった?あんたとは格が違うの。」

『あなたが……ヒトケタ。ラヴェイラの、言っていた……』


「そ。あたしがヒトケタ、No.5のメイビー。」


 ヒュン


 音もなく近づいてきた。

 対するフェルゴールは、相手の音無しの移動に気づき、すでに防御の体勢をとっていた。


 ガキン


 金属と金属のぶつかり合う音がした。


「ちぃ……」


 メイビーの手には、水晶の扇子が握られている。


(あいつの手にある扇子……)


『タブレットアームズ……』


「ご名答♪デベルク風情がよく知ってるわねぇ♪」


 そう言って伸ばしたメイビーの手からは、何匹もの蛇が飛び出し、こちらに襲いかかってきた。


『くっ!』


 一瞬で全ての蛇を凍らせた。


「はぁ……さっさと大人しくしなさい。こっちも話聞いてもらわなきゃ困るのよねえ。」


 今度は両手から何十匹もの蛇が飛び出してきた。

 それをフェルゴールが氷漬けにする。


 そして、メイビーがまた蛇を召喚する。

 それをフェルゴールが氷漬けにする。


『一体なんのつもりだ……時間稼ぎのつもりですか……!?』

「フフ、さあどうでしょうねぇ……?」


(時間稼ぎだとしたら、構ってる場合じゃない!だとしたら……)


 音無しで飛び出し、メイビーの目の前に迫る。


「!」


 このまま本体を氷漬けにしてやろうと手を伸ばす。


 メイビーは一瞬驚いたようだったが、すぐにバックステップをし、何十匹もの蛇を繰り出す。


(捉えた!)


 重心を移動し、黒氷河の大鎌グレイシャルサイスを振った。


「しぃいいいいいいいいい!」


 蛇の様に特徴的かつ長い舌を上手く使い、大鎌の柄に掴まり、宙に逃げた。


「かすったか……ウッ!」

(なに、タブレットアームズだったの!?それにこの効果……身体から、力が……でも、)


「そろそろきても……いいんじゃない……?」


『ぐっ、なんだ……』

(目が霞む、足も……)


 ドサッ


拘束する下僕達スネイク・バインド


 何十匹の蛇がぐるぐるとロープのようにフェルゴールを捕らえた。


『はぁ、はぁ……動け、ない……』


「やっと、落ち着いて話が、できるわね……デベルク風情が、やってくれたわ……」


『ふざけ……るな……』


 立ち上がろうと、蛇を解こうとするも身体に力が入らない。


「無理よ。デベルク風情があたしの毒に抗えるわけないじゃない。」


(毒……毒だと?そんなのいつ……)


『最初の一撃で、か……なるほど。あんたのタブレットアームズはそういう効果ってことか……』


「で?わかったとこで……!」


 ラヴェイラのオーラの放出量が減っている。


『効いてるみたいですね……』


「なにを……!」


『このアームズ、元はシニガミってのが持っていた死神の大鎌デスサイス……俺が持ってても、同じ効果が働くらしい。』


「……そういうこと……!けど、大人しく話を」



『ふざけるな……!あなたにやられるために、鍛えられてきたんじゃない……あんたを超えるために鍛えられてきたんだ……!』


 ぶちん、ぶちん


(蛇の拘束を……!)


『やられるわけにはいかない……!鍛えてくれたヴァルハーレ、ゲンブ、レブキー……なにより、』


 大鎌を構えた。


『ゼスタート様に会わせる顔がない』


「そう……あんたがフェルゴールね。」


 メイビーは距離を詰め、フェルゴールに怒鳴った。


「だったら……今あんたのやっていることが、あたしに刃を向けることが、本当にゼスタート様とあいつらの望んでいる事かどうか考えな!自分の本能で動くんじゃない!こういう時こそ、冷静に物事を見抜け!」


『っ!』


 その言葉がトドメとなり、フェルゴールは手を止めた。

 武器を下ろしたのだ。


「さて、これでようやく話ができるわね。」


 ガブガブガブガブガブガブガブガブ


 蛇が一斉にフェルゴールに噛み付いた。


『!』

(いつの間に!)


「安心しなよ。解毒だから。」


 やがて蛇は噛むのをやめ、メイビーの元へと戻っていった。


『ずいぶんと手加減されたもんだ……あんたの能力は蛇だけじゃないだろうに……』

「それよりあんた、あたしに謝らなければならないんじゃないかい?」

『……』

「なぜあたしの前に立ちはだかった!」

『あなたの正体に気づけず、あなたに攻撃を加えたことは本当に申し訳ありませんでした……けど、あなたのやったこと、おそらくこれからも同じことをやろうとしていると思うと……許すことができなかった。』

「そうかい……」


 そう言ってメイビーはフェルゴールに背を向け、歩を進める。


「来な。」


 メイビーの思惑が分からぬまま、複雑な心境でフェルゴールは着いていくのだった。

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