第38話 ヴォーパル
「はあ~」
いざ決闘祭に出るとなると、どれに出るのか迷う。魔法、武術、騎竜と俺はどれもそれなりのレベルで、突出しているものがないからだ。
出るからにはそれなりに好成績を残したい、と思うのが人の性と言うもの。しかし一般コースが終わると直ぐに家に帰ってしまう俺は、研究コースを受講していないので、それぞれのレベルと言うものが分からない。
リオナさんは武術の実戦と騎竜のレースに出るらしい。カルロスはサンダーラッシュがスピード型だから騎竜のレース一択。マイヤーは騎竜の実戦と武術の実戦に。アインは武術の実戦一択。ショーンはなんと魔法の研究発表に出るそうだ。二年生との決闘後の方針転換らしい。
「はあ~」
「何さっきからため息吐いてるの?」
俺が教室でエントリー表を前に悩んでいると、後ろからマイヤーに声を掛けられた。
「いや、俺も決闘祭に出ようと思ってさ」
「えっ!? 本当に!? 何!? 何に出るの!?」
食い付きがエグい。後ろの席から小さな身体を目一杯伸ばして、俺のエントリー表を覗き込んでくる。カルロス、アイン、ショーンまでが覗き込んでくる。そんなに俺が何に出るのか気になるのか?
「いや、まだ決めかねているんだよ。ほら、俺って突出して得意な分野ってないだろ?」
「は? 何それ? 嫌味?」
皆して俺を睨まないで欲しい。怖いから。
「何だよ、そんなの迷う事ないだろ?」
とカルロスは俺からエントリー表を取り上げると、書かれた種目全てにチェックを入れて、入ってきたばかりのダン先生へと持っていってしまった。
はあ、何やってんだよカルロスは。まあ、ダン先生も現実的じゃないと突き返して、…………こない! そのまま他の書類の中に挟んでしまった。
「あの、先生!」
俺は立ち上がってダン先生にエントリー表を返して貰おうとするが、
「えー、どのような心変わりがあったのか、えー、知りませんが、えー、頑張って下さい」
ええ! 全種目で受け付けるの!?
「ブレイド」
マイヤーに呼ばれて振り返ると、ニマニマした笑顔をしている。マイヤーだけでなくカルロス、アイン、ショーンまで。
「頑張って」
ウインクされても嬉しくない。俺はダン先生の授業中どうにかあのエントリー表を回収出来ないかばかり考えていて、授業内容が全く耳に入ってこなかった。そしてエントリー表を回収する事も出来なかった。
「どうしてくれるんだよ!」
授業を終えて退室していくダン先生を見送った後、俺はカルロスに詰め寄った。
「まあまあ。先生が受理したって事は、それが出来るって思われてるって事だ。頑張れ」
「出来るか! 実戦系やレースは分かるが、研究発表や演武って何するんだよ!?」
「演武はいつも朝練でやってるあれで良いんじゃない?」
マイヤーの意見にアインやショーンもうんうんと頷いている。
「あんな親から習った我流を披露しろってのか?」
「我流?」
俺の『我流』と言う単語に引っ掛かるマイヤー、アイン、ショーンの三人。
「ブレイドって、『ヴォーパル一刀流』じゃないの?」
マイヤーの言葉に同意するアイン、ショーン。カルロスは分かっていないのかキョトンとしている。いや、俺もキョトンとしているだろう。
「『ヴォーパル一刀流』って何?」
「えっ!? 明らかに太刀筋とか型が『ヴォーパル一刀流』なんだけど?」
三人の話では、『ヴォーパル一刀流』と言う剣術の流派があるのだそうだ。俺の剣はそれに酷似しているらしい。だとすると、
「多分父が習っていたんだろう。父は
「卒業生!?」
逆にそこに食い付かれてしまった。
「ブレイドのお父さんって、田舎で薬草採りしてるんだよね?」
「ああ」
「『ヴォーパル一刀流』って、貴族が習っている事が多い流派なんだけど」
「…………多いのであって全員貴族な訳じゃないだろ?」
「それはそうだけど……」
なんだか皆を混乱させているが、一番混乱しているのは俺だ。どうやら俺の父は相当な変わり者で、それに嫌な顔せずに付き合っている母も相当変わり者なのだろう。
「それより」
俺は話を仕切り直す。
「魔法の研究発表って何をするんだ?」
俺はショーンを見遣る。カルロス、マイヤー、アインの視線もショーンに向かう。
「その名の通り研究発表だよ」
だからそれが何なのか聞いているのだが。
一般コースの授業が全て終わった後、俺はショーンに連れられて魔法実験室にやって来た。
相変わらず魔法実験室は室と言うには巨大な建物で、中では決闘祭に出場するのだろう学生たちが魔法の練習をしていた。
「ブレイド、良い魔法ってどんな魔法だと思う?」
いきなりの質問に俺は首を捻る。
「やっぱり、威力が強い魔法なんじゃないか?」
俺の答えに呆れたように首を横に振るショーン。なんかイラッとする。
「確かに威力は大事だ。最大の効果を発揮出来てこそ魔法だろう。でもそれじゃ半分だ」
「半分?」
「その最大の効果を発揮するのに、膨大な魔力を消費するとしたら、どう思う?」
成程、最小の魔力で最大の効果を発揮してこそ、良い魔法と言う訳か。竜の契約者であれば魔力量は相当なものだが、普通は魔核を使って魔法を発現させる。同じ威力なら魔力消費が少ないに越した事はない。
「言いたい事は分かったが、そんなのどうやって証明するんだ?」
ショーンの話は理解出来るが、それをどうやって証明するのか。効果の程は見た目で証明出来る。問題は魔力の消費が見た目に現れない事だ。魔法を唱えた本人が少ない魔力で魔法を唱えましたと言われれば、周りはそれを信じるしかないんじゃないか?
「そこで、これだ」
俺の疑問は先刻承知していたのだろう。ショーンはテーブルに置かれていたランタンのような魔導器を持ち上げた。
「これは魔力計測器だ」
ほう、そんな物があるのか。
「使い方としては、このランタンの光を魔力を計測したい対象に当てる。ブレイド、何か魔法を使ってみてくれ」
俺はランタンの光に当てられ、少し眩しいなあ、と思いながら、指を一本立てて、「ファイア」と唱える。すると指先に小さな火が灯った。
「魔力消費量は五だな」
ランタンの裏側を覗いてショーンがそう答える。
「それって、多いの? 少ないの?」
「少し多いな。魔法実験室の平均は三で、少ない人だと一だからな」
同じ魔法でも、魔力消費量にそんなに差が出てくるのか。攻撃魔法なんかの高消費魔法だと、撃てる数にさえ差が出て来そうだな。これだけでもここに来た意味があった。
魔法研究コースでは他に、同じ魔力量で出現する魔法の量を増やす研究なども行っているそうだ。これはファイア・アローならその本数を増やす感じだ。
他にも新たな魔導器の研究発表や、魔法どころか戦闘部隊の運用から都市計画なんてのもあるらしく、将来そちら系に行きたい学生の、良い発表の場になっているようだ。
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