第34話 お迎え
秋も過ぎ、木々の葉も枯れ落ちた頃の事だ。もう冬も直ぐ目の前だなと、昼食後、食堂の窓から外を眺めながら、カルロス、マイヤー、アイン、ショーンと話をしていた。その中で、カルロスだけが心ここに在らずだった。
「どうかしたのか?」
皆が気になっているようなので、俺が代表して尋ねる。
「俺、やっぱりお迎えしようと思うんだ」
うん、何を言っているのかさっぱり分からない。季節の話でない事はなんとなく分かったが。俺が困って三人を見ると、ショーンが答えてくれた。
「お迎えって、竜の事じゃないかな?」
ああ、カルロス、竜と契約するのか。
「え!? カルロス、竜と契約するのか!?」
俺だけでなく、三人も驚いている。
「そんなに驚く事かよ」
口を尖らせ抗議するカルロス。しかし驚くのも仕方ない。竜と契約するのは簡単な事ではない。
第一に金が掛かる。普通、竜は竜狩りが捕らえてきたものと契約する。または竜狩りに同行して捕まえたその場で契約する。どちらにせよ竜狩りを雇っての事なので、ケチなカルロスが大金を
したとしても三年生、四年生になってからで、魔物狩りである程度金が貯まってからの事だと予想していたからだ。
「安い竜狩りに当てでもあるの?」
マイヤーの言葉に首を振るうカルロス。当てもないのにどうやって竜と契約するつもりなのか。
「カルロス、竜狩りを幼い頃から見てきた俺からしたら、竜狩りを雇うのは安くないぞ? 竜を捕まえるには一騎の竜狩りじゃ無理だ。最低でも十騎の竜狩りが必要で、それも一ヶ月単位での継続雇用になるからな? マジックバッグを買うのとは訳が違うぞ?」
「分かってるよ、そんな事ぐらい! 誰が竜狩りに竜の捕獲を依頼するなんて言ったよ!」
長々説明したら反論された。竜狩りに依頼しない? ならどうやって竜と契約する気なのか。答えを求めて三人の方を見遣るが、三人とも首を横に振るうばかりだ。
「……サンダーラッシュとさ、契約しようと思ってるんだ」
ぼそりと発言するカルロスに、更に驚かされる。
「カルロス、それは無理だ」
サンダーラッシュには既に契約している元竜騎士がいる。その人が学院の卒業生で、もう引退しているから、と学院にサンダーラッシュを貸与してくれているだけなのだ。
「そこら辺は俺も図書館で調査済みだよ。どうやら、竜は再契約が可能なようだ」
「再契約?」
俺たち四人はカルロスの言葉に驚く。そんな事父からも教わっていなければ、学院の授業でも習っていない。
「ほら、二年生にガイウスさんっているだろ?」
灰色の巨竜に騎乗していた律儀な人だな。
「あの人の巨竜は、ガイウスさんの家に代々受け継がれている竜だって話だ」
そう言えば決闘の時にそんな事を言っていた気もする。成程、代々受け継がれている竜が、ガイウスが生まれるまで家の誰とも契約してこなかったとは考え難いな。
「話の筋は分かった。しかし本当にサンダーラッシュで良いのか?」
引退した竜騎士が学院に貸与してくれている竜は他にもいる。何もサンダーラッシュでなくても良いだろう。この間の決闘の時、カルロスはサンダーラッシュを制御出来ていなかった。おとなしいとまでは言わないが、制御の出来る竜であるべきだと思う。
「サンダーラッシュが良いんだよ! あの縦横無尽の暴れっぷりを見ただろう! 俺はあれに痺れたね!」
痺れたのはサンダーラッシュが電雷を操り、その電気で痺れただけだと思う。その後もサンダーラッシュのどこが良いかを熱心に語るカルロスに、俺たちは呆れて閉口するしかなかった。
その数日後、四日に一度の休校日。普段であれば南の森に魔物を狩りに行っている所だが、今日は違った。王都の東部にやって来ていた。
赤いレンガ屋根の家々が建ち並ぶ住宅地。その一画に俺たちの目的地があった。それはサンダーラッシュの契約者が住む住居だ。
家を囲う生け垣は綺麗に刈り込まれ、庭には白く塗られたテーブルとデッキチェアが備えられている。きっと春夏になれば庭は草花に覆われる事だろう。
コンコンと玄関扉に備え付けられたノッカーをノックすると、「はい」と中から家人の返事があり、扉が開けられる。
出てきたのは白いブラウスの上から紫のストールを羽織り、えんじ色のスカートを穿いた白髪のおばあ様で、とても品がある。
「どちら様でしょうか?」
「俺は、王立ネビュラ魔剣学院一年生の、カルロスと言うものです! サンダーラッシュの契約者であられる、ガボット・コッセー殿の家で間違いないでしょうか?」
隣家にも届きそうな大きな声で話すカルロスに、婦人は嫌な顔せずに応対してくれた。
「あらあら、今日はお客様が多い日ね。ええ、ここはコッセー家で、ガボット・コッセーなら中にいますよ。まさか貴方もサンダーラッシュを譲り受けたいの?」
婦人の言葉に俺たちはドキッとして顔を見合わせた。貴方も、と言う事は他にもサンダーラッシュを譲り受けたいと訪ねてきていると言う事だ。婦人もそれを察したのだろう、「どうぞ」と俺たちを中に迎え入れてくれた。
中も清潔に片されており、俺たちが通されたリビングには、二組のネビュラ学院の学生たちがいた。一組は赤い制服に黄色の差し色が入った三年生四人で、もう一組は紫の差し色が入った四年生三人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます