第326話厄介事
クリスは襲われた際に逃げ出した馬を捕まえてくると馬車に括り付ける。
「よく逃げ出した馬が見つかりましたね…」
助けた旅商人のドリーさんが驚きながら声をかけた。
「あはは、なんか馬の足音が聞こえた気がしまして…」
クリスは笑いながら馬を撫でて誤魔化す、まさか遠くにいる馬の足音を聞き分けて連れてきたとも言えなかった。
「よかった、馬車も動きそうです」
馬車の車輪を確認していたドリーさんの妻のリスリーさんがほっと胸を撫で下ろした。
「よかった、これなら先に進めそうですね」
クリスは安堵する、コレで王子達の元に戻れると…ロイ王子達をそのままにしてきた事で少し焦っていた。
あのまま二人っきりにしといたら…
嫌な予感を払うように頭を振る。
「じゃあ町に行きます、僕が先頭しますのでついてきて下さいね」
「よろしくお願いいたします」
二人が頭を下げると
「あの…わ、私…怖くて…クリスさんと一緒に馬に乗ってもいいですか…」
娘のイブさんが伺うようにクリスにたずねる。
どうやら盗賊達が恐ろしかったのか自分と馬に乗りたいと言ってきた。
「いえ、なにかあったら危ないから馬車に乗ってください。大丈夫です、また襲ってきても返り討ちにしてやりますから」
クリスは心配ないと安心させるように笑った。
それにそんな事をすれば王子達を迎えに行くのがさらに遅くなってしまう…やっぱり王子とふたりきっりにしたの…不味かったかな…
今になり後悔が押し寄せる。
「じゃあ行きますよ」
やはり急ごうとすぐに馬を動かした。
そんなクリスの思いには気が付かずに馬車に乗り込んだ三人は…
「イブ…もっと甘えるよう言うんだ」
馬車の馬を操りながらドリーは娘に声をかけた。
「そうよ!そんな弱気でどうすのるの!」
リスリー達はクリスに聞こえないように娘のイブにソッと囁く。
「わかったわ…次はもっと積極的にいく」
「そうよ!顔も良くて親切で…あんな男性なかなか出会えないわよ!」
「それにあの盗賊達をあっという間に倒した腕も素晴らしい…是非ともイブを貰って欲しいなぁ」
「そうね、あなたを気に入って貰えれば…」
「ええ…私も一目見た時から…気になって…」
頬を赤らめクリスの後ろ姿を見つめると、三人でコソコソと今後の事を話し合っていた。
クリスにとってそんな会話は余裕で耳に届くはずだったが…その時は王子達の事が心配過ぎて意識が向いていなかった…
三人の会話はクリスの耳に届くことはなかった…
クリス達は馬を走らせると何事もなく町に到着した。
「では大丈夫そうですね、タウンゼントを目指すなら町で護衛でも雇ってください。私は用があるのでこれで…」
クリスはドリー達を無事に町に送り届けてその場を去ろうとすると…
「クリス様!どうか途中まで一緒に行くことはできませんか?」
ドリーが頭を下げる。
「すみませんが、僕は連れがいまして…今から迎えに行かなくては行けないんですよ」
「そのお連れ様も御一緒で構いません!護衛の費用ならお支払いします…やはり襲われて不安ですので信頼できるクリス様が良いのですが…」
「すみませんが…」
「お願い致します!」
「お願いします!」
リスリーさんとイブさんまで同じように頭を下げた。
「参ったな…」
クリスは頭をかくと…
「ちょっと連れに聞いてみます…ですが無理だと思うのでその時は諦めて…」
「ありがとうございます!」
「やはりクリス様は素晴らしい方だわ!」
まだ了承した訳でもないのにまるで同行することが決まったかのように喜んでいる。
「はぁ…」
なんだか厄介事がまた増えた気がしてクリスはため息しか出なかった…
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