第122話すれ違い

「怪我が大したことないならよかったです…ではこれで、カイル様も鍛錬頑張って下さい」


ローズが手を離してとばかりにカイルが掴んで離さない手をじっと見つめる。


しかしカイルが手を緩める気が無いようだと気が付き顔を見ると、何か言いたそうにこちらを見ていた。


「さっきジュリア嬢から少し聞いたが…何があったのか話して欲しい…」


「何が…とはどういう事ですか?」


「なんでジュリア嬢が怪我をする事に?」


「何それ…私が何かしたと?」


嫌な気持ちにじっとカイルを見つめると


「それは無い!」


カイルは至極真面目な顔ですぐに否定した。


「ローズがそんな真似をすることない事は俺がよく知っている!しかしあの者の言う事を聞いた今、ローズの口から本当の事を知りたい」


何処までも真面目なカイルにローズはふっと肩の力が抜ける。


ローズは少し笑うと


「なんでもないですよ。少し挨拶をしてちょっと私が生意気な事を言ったのでジュリア様が興奮して転んでしまっただけです」


ローズが少し誤魔化して言うと…


「よかった…」


カイルがほっとした顔を見せる。


「何がですか?」


ローズが聞くと、カイルはローズを優しく引っ張ると掴んでいた手を腰に回してローズを引き寄せ眉間に優しく触れた。


「ローズの機嫌が戻った…」


嬉しそうに微笑む…


ローズはばっと眉間を隠すと


「そ、そんなに皺がよってましたか?」


恥ずかしそうにカイルを見上げる。


「ああ、鬼みたいに怒っていた…」


真面目な顔で頷くカイルに


「嘘!」


顔を触って確認する。


そんなローズの様子に微笑むと


「嘘だ…それに怒っていてもローズは可愛らしいから大丈夫だ」


サラッと髪をひと房掴んでなんで長い指を絡ませる。


なんだかいつもと違うカイルの様子に


「なんかカイル様…ちょっと変ですよ?女性が苦手なんですよね?それにしてはなんだかこなれているような…」


「いや、今でも女性は苦手だ…さっきもジュリア嬢を仕方なく運んだが蕁麻疹が出そうだった…」


思い出したのか体をさする…


「なら…これは…」


ずっと離してくれない手を見つめると


「ローズだけは何故か大丈夫なんだ…やりたい事言いたい言葉がローズの前だと素直に言える」


あまり人には見せない優しい笑顔でローズを見つめる。


「カイル様…女嫌いでよかったのかも知れません…こんな事色んな女性にしていたら大変な事になりますよ」


ローズが困った様に笑うと


「他の人にはしない…したいのはローズだけだ」


ギュッとローズの掴んでいた手を握りしめる。


「それって…」


ローズがカイルを見つめると…


「あっ!いた!カイル様!」


リプスがカイルを追いかけて来た!


ローズはカイルからサッと離れると…


「では私はこれで…」


部屋へ戻ろうとする。


「待っててくれ。部屋まで送る」


カイルの言葉にローズが迷って立ち止まるとリプスが泣き出しそうになりながら近づいてきた。


「カイル様!先程のジュリア様がカイル様を連れてこいと…」


困った様にカイルに報告する。


「なんのようだ、医務室まで運んだだろうが!」


「今度は部屋まで運んで欲しいと…」


「知るか!従者にでも運ばせろ!俺はローズを部屋まで送る」


カイルがローズの方に振り返ると


「私は大丈夫だから、怪我したジュリア様を見てあげて」


ローズはそういうと小走りに走って行ってしまう。


「あっ…」


カイルはため息をついて伸ばした手を下ろした。

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