第120話正体

ローズは逃げるように鍛錬場へと来ると…


「はぁ…」


ため息がもれる。


何慌ててるんだろ…


モヤモヤとしながら歩いていると…前に剣の打ち合いをした兵士が目に入った。


「こんにちは~」


ローズは知った姿に思わず声をかける。


「はい?」


兵士達が声に振り返る…すると目をまん丸に広げて驚いた顔をしている。


「どうしました?」


ローズは首を傾げてみんなに近づくと…


「こ、こんな危ない所にどうされたんですか?お供は?」


キョロキョロと周りを確認している、何か話が噛み合わない…


「どうしたんですか?この間の鍛錬の事…もしかして怒ってます?」


ローズが心配そうに聞くと


「鍛錬?…あっ!この間のスチュアートさんの!」


兵士達は何処かで見た事があるようなご令嬢の顔にこの前打ち合いをした男の顔を重ねる…


「あっ…そうだ…今日はドレスだった…」


ジュリアやカイルとの事があり動揺してローズは女の格好のままここに来てしまった事を思い出した。


「ま、まさか…女性だったとは…」


「スチュアートさんが名前を教えてくれないわけだ」


兵士達が信じられないとローズを見つめていると…


「ど、どうしよう!すみません皆さんこの事は見なかったことにしてくれませんか」


ローズがお願いしますと頭を下げる。


「や、やめてください!頭を上げて!」


兵士達がローズに顔をあげるように頼むと


「内緒にしてくれますか?」


ローズが困った顔で伺うようにみんなを見上げる…


「か、可愛い…」


兵士達がボソッとつぶやくと…


「スチュアートさん達に出来れば内緒に…」


ローズの口からスチュアートさんの名前が出るとボーッとローズを見つめていた兵士達が現実に引き戻される!


「は、はい!我々は何も見なかった!知らなかった!なっ?」


兵士が周りを見るとうんうんと頷き合う。


その様子にローズはほっとすると…


「ありがとうございます!」


ローズがみんなに笑いかけた…その笑顔に兵士達が顔を赤く染める。


「あっよかったらこれみなさんで食べてください。手作りのお菓子で申し訳ないですが」


ローズはお茶会の練習で焼いたお菓子を兵士達に渡すると


「では…」


兵士達に頭を下げて部屋へと戻ろうと背中を見せる…


しかし少し行って振り返ると…


「また剣の相手もしてくださいね」


軽くウインクして手を振るとタッタッと小走りに去って行った。


兵士達は軽く手を振り返す…しばらく動けずにローズを見送ると…


「か、可愛い…」


「いい…」


「えっ…ご令嬢ってあんなに気さくなの?」


兵士達が顔を見合わせる。


「俺が護衛した令嬢は…俺の事ただの物のように扱ってたぞ…」


「俺もだ…カイル様がそばにいるとなおの事…透明人間にでもなったかのようだよ」


兵士はローズがくれたお菓子を見ると


「ちょっと食ってみる?」


一つ手に取るとパクッと口に放り込む。


「うっま!」


疲れた体に甘いお菓子が染み渡る。


「なんか力が湧いてくるようだ!」


「俺にもくれ!」


「俺も!」


兵士達がお菓子に群がるとあっという間に食い尽くしてしまう…


「あーもうない…」


残念そうに空になった菓子の袋を見つめる。


「また来てくれるよな…」


「さっき剣の相手をして欲しいって言ってたもんな…」


「あんなに可愛いのに強いなんて…素敵だ」


兵士達がぼうとしている。


「そういや名前なんて言うんだ?」


「聞き忘れた…」


兵士は謎の令嬢に心惑わされていた…

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