第51話 JKアイドルさんと暇人だけの大切な時間。
「なんで……なんで恋川さんなの!」
「……いや、だから恋川じゃ」
「あんな子ダメだよ! 航はきっと騙されてる、そうに違いないよ! 噂で聞いたよ、恋川さんは色んな男子と」
「人は……見かけとか噂とかで判断しちゃダメだろ」
それは過去の自分にも向けた言葉だった。
桜咲だって、恋川だって、最初の印象は決していいものじゃなかった。
でもそれ以上にそれぞれの特徴や、魅力があって、それを見つけた時やっと俺の中で信頼が生まれたと思う。
「ねぇ、なんでよ……。中学の時、私のせいであの子と別れることになったから?」
「違う」
「じゃあ、私のことが嫌いだから?」
「違う」
「じゃあ! ……幼馴染だから?」
「…………七海沢は悪くない。お前を、恋愛感情で好きになれない俺が悪いんだ」
俺は、鞄を持って七海沢を横切った。
「航……ひどいよっ」
「俺は、中学の時からお前の気持ちと向き合った。でも、それに応えることは出来なかった。ごめん、七海沢」
俺は引き戸の前で七海沢に背中を向けながら、最後にそう言って教室を出た。
どうやら恋川と俺の関係が色んなところで噂されてしまっているらしい。
だが、恋川の場合はアイドルだから、といった理由じゃなくて普通に俺がかわいそうだとか俺に対しての哀れむ声が多いようだ。
恋川が周りを気にせず絡んでくるせいでこういうことになってしまったのだから、あいつにはしっかりお説教しとかないとな。
「……はぁ」
今はただ、彼女に会いたかった。
嫌なことも全てを忘れさせてくれる柔らかい笑顔と、心を落ち着かせてくれる透明感のあるあの声の持ち主。
俺は七海沢に叩かれた頬を撫でながら、いつもの場所へと向かう。
——そして、
「閑原くん、待ってたよ」
「ごめん、ちょっと用があって呼び出されてたんだよ」
「……ふーん」
そして俺はいつものように、彼女と手を重ねた。
俺の肩より低い身長、見かけ以上に満ち溢れるオーラ。
彼女と出会えたことは、俺の人生の全てを変えた出来事だった。
「そういえば、朝さ」
これからもずっと、彼女と…………え、朝?
「美優ちゃんに『航くんっ』って呼ばれてたよねー?」
桜咲の顔は笑っていたが、声が完全に笑ってるそれじゃない。
……朝のあれ、もしかして聞かれてた?
「お、お前、聞いてたのか?」
「あと、わたし専用のヴェル●ースもあげてたしぃ」
「……あの、桜咲さん?」
「そういうことしちゃうならぁ、わたしも他の男子と仲良くしちゃおっかなぁ」
「……それは、嫌だ」
そう言うと桜咲は笑顔で、俺に抱きついてきた。
「じゃあ、わたしにもしてよっ」
「あ、飴か?」
「そうそうっ」
俺は鞄から飴を一つ取り出すと、袋を開けて、雛鳥に餌をやる親鳥のように桜咲の小さな口元に飴を近づけた。
すると、桜咲は俺の指ごと口に入れて、飴と一緒に舐め回す。
「お、おい! 桜咲……」
桜咲の舌が俺の人差し指の先まで舐め、桜咲が口を離すと、桜咲の口から俺の指に唾液の線が垂れる。
それはどこかいやらしくて、桜咲の舌の動きも少し官能的だった。
「えへへ、間違えて閑原くんのも食べちゃった」
桜咲のあどけない笑顔の中にはどこか、色気のようなものも感じて、俺は少し変な気分になっていた。
「き、気を付けろよ」
俺はハンカチを取り出して、指を拭く。
わ、わざと……じゃないよな。
桜咲がそんなことするわけ……。
「閑原くん……」
「ど、どうした?」
「わたし、他の子とあんまり仲良くされると……し、嫉妬しちゃうから……」
桜咲はそっぽ向きながら、そう言った。
「……わかった?」
俺の方に向き直り、その真っ赤な頬と少し怒った顔で俺を見つめる。
「あ、あぁ。これからは、気をつける」
「……ありがと、閑原くん」
そう言ってまた、桜咲は抱きついてきた。
さっきよりも強く。
今日の桜咲は少し怒ってたけど、それ以上にえ、エロかった。
俺は桜咲が指から口を離した時の顔を思い出す。
俺は帰ってからも悶々とした気持ちが止まらなかった。
次回予告
「ねぇ閑原くんの作る卵焼きってしょっぱいよね」
「甘い方が好きだったか?」
「うん! ……あれ? 動物園に行った時、わたしが作ったお弁当の卵焼き甘かったでしょ?」
「…………」
思い出したくないな。
次回『JKアイドルさんは体育祭に興味があるらしい。』
注意・書籍版は七海沢はこんなキャラじゃないです笑
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