第43話 JKアイドルさんは学校でも話したい。03

 

 屋上に異様な空気が流れ、周りのカップルたちがこぞってヒソヒソ話している。

 その注目の的になっているのが……。


 アイドル×アイドル×暇人

……というこの3人が集まって座っているこの空間。


「俺の平穏な学校生活……終わった」


「なんで?」

「『なんで?』じゃねーよ。そもそもお前が……あーもう何言ってもダメだ」

「ほえ?」


 俺は恋川さんに目線を移す。


「あの俺、閑原航です」

「恋川美優です。よろしくお願いします閑原さん」


 恋川美優……。

 その小さな顔と見るからに優しそうなゆったりとした垂れ目。

 さらに、印象的な八重歯とあざといくらいのツインテール。そして桜咲と同じようなオーラ。

 やっぱ間違いない……この人。


「あの、恋川さんって文化祭の時、演劇部の劇に出てましたよね?」

「あ、はい! 見てくれたんですか?」

「まぁ……一応」


 嘘です、はい。

 俺は文化祭の時のことを思い返す。

 あの時恋川さんの衣装が痛々しくて、出て行ったなんて口が裂けても言えない。


「凄い……衣装だったなぁって」

「あ、あれは! 演劇部の人に、無理矢理着させられた衣装だったので、少々恥ずかしかったのですが……」


 恋川さんは赤面しながらそう言った。

 結構あざと可愛い感じのスタイルだけど、案外恥ずかしがり屋なのか?


「さっき桜咲が言ってたけど恋川さんはアイドル、なんですか? こいつと一緒で」

「わたしは、アイドルと言ってもご当地の方なので。出るテレビも、ケーブルとか独立局のばかりですし」

「へぇ……」


 恋川さんは、その後も長々と説明してくれた。

 まぁ、そういうの詳しくないからよくわかんないけど、周りの反応からして有名人の一人ではありそうだな。


「あの、閑原さんに一つ聞きたいことがあって」

「えっと、なんですか?」

「閑原さんも芸能のお仕事をなさってるんですか?」

「…………え?」

「あ、もしかして俳優業とか」

「おい桜咲、何も言ってないのか?」

「うん」


「うん」じゃねーよ。

 俺のことは何も話さずに、彼女をここに連れてきたのかこいつ。


「あの。この顔で俳優とかやってると思います?」

「へ? あ、はい」


 ……ま、まぁ、お世辞だろうけど、そう言ってもらえると普通に嬉しいな。

 だが、それを聞いて隣で桜咲が笑ってるのは気に食わない。


「俺は芸能人じゃないです」

「……菜子ちゃん、そうなんですか?」


 恋川さんは桜咲に問いかける。


「うん。閑原くんはただの暇人だよ」


 桜咲に言われて、ちょっとイラッとしたけど実際そうだし何も言えなかった。


「菜子ちゃんと繋がりがあるってことは、てっきり芸能活動をされている方なのかと思ってました。あの、だとすると菜子ちゃんと閑原さんはどこで知り合ったんですか?」

「え? まぁ……職員室で」

「職員室?」


 恋川さんは首を傾げる。


「うん。閑原くんが0点取って怒られててー」

「要らん情報を出すな! あの、それは名前の記入ミスで」

「0点は0点でしょ?」

「くぅ……。あ、俺が0点取ったテストの合計で俺に負けたのはどこの誰だっけ?」

「そ、それは……。ぜ、前回の現社のテスト100点で1位でしたけど?」

「それは俺も同じ。お前は勉強で俺にマウント取ろうとするな」

「むぅー! ん?」


 突然、俺たちの言い合いを聞いていた恋川さんが小さく笑った。


「お二人は、随分と仲が宜しいんですね」

「いや、そんなこと」

「うん! 仲良いよ」


 そこは否定するとこだろ。


「あ、美優ちゃんごめん、教室に水筒忘れてきたから持ってくるねー!」

「はいっ」


 桜咲は俺と恋川さんを残して一時的に屋上から出た。

 そして俺たちは微妙な空気になる。

 初対面の2人を置いてどっかにいかないでくれ桜咲。

 お互いに無言になっていたが、急に恋川さんの方から距離を詰めてくる。


「あの、閑原さん!」

「は、はい?」

「単刀直入に伺いますと、菜子ちゃんとはどんな関係なんですか⁈」

「……え、あっ」


 いや、近い近い。

 恋川さんの、桜咲のとは真逆の大きさの胸が腕に押し当てられる。

 周りの目もあるからマジでやめて欲しい。


「ちょ、落ち着いて」


 俺は一旦、恋川さんと距離を置いて話し始める。


「……俺と桜咲は、なんていうか。やましい関係とかじゃ全くなくて、本当にただの友達というか」

「そう、なんですか?」

「うん」

「あんなに仲良いのに?」

「まぁ一応」

「へぇ……」


 そして、一度俺の方から置いた距離を恋川は一気に詰めてきた。


「なら、問題ないですよね」


 恋川の豊満な胸が再び俺の腕に押し当てられた。


「閑原さん。わたしにも楽しいこと、教えてください」


「はい?」

「菜子ちゃんから聞きました。たくさん楽しいこと知ってるんですよね? お二人が付き合ってないならわたしとも……遊んでくれますよ、ね?」


 突如として豹変した彼女は、制服のリボンを取って自分の胸元のボタンをわざと外し、たわわなそれをこちらに見せつけてくる。

 一見清楚に見えたご当地アイドルさんは、ガッツリ小悪魔系アイドルだった。

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