第33話 JKアイドルさんは海鮮に興味があるらしい。03

 

 少し遅めの昼食を終え、青果棟も見て回った俺たちは、魚がし横丁に立ち寄っていた。

 旨そうなものばっかりで目移りするな。


「閑原くんお待たせー」

「お前、どんだけ甘味買ってきたんだよ」

「え? ようかんにお団子と」

「もういいもういい。そんな買ってどうすんだよ」

「後で食べようと思って、閑原くんの分もあるからね」


 こいつの腹どうなってんだ。


「閑原くんは何買ったの?」

「俺ははんぺん。今晩のおかずにしようかと」

「ははっ、お母さんみたい」

「あと、調味料とか」

「やっぱお母さんだよ」


 さらに歩みを進めると、雑貨屋があった。

 衣類やペナントなど、お土産の代表的な商品が店頭に並んでいた。


「このTシャツとか閑原くん似合うかも」


 桜咲は半笑いでTシャツを手に取る。

 達筆の『大トロ』の文字がプリントされたTシャツだった。


「じゃあ、お前はこれだな」


 俺は『脂』とプリントされたTシャツを差し出す。


「もー!」


 桜咲は頬を膨らませて怒るがすぐに笑い出した。


「はぁー、色々と満足だよー」


 施設から出ると、既に夕日が顔を出していた。


「海鮮、堪能できたか?」

「うん! こんなに美味しい海鮮を食べれるなんて思わなかった。北海道とか行かないと無理だと思ってたから」

「まぁ、北海道も確かに凄いけど、日本各地でそれぞれの特色があるし、撮影とかで地方に行った時はそういうのを食べに行くのもいいと思うぞ」

「……そう、だけど。閑原くんと一緒がいいから」


 桜咲はそっと指を俺の手に絡ませてくる。


「今日は人込み少ないけど、迷子になりそうか?」

「ひ、閑原くんが、迷子にならないようにしてるの!」

「はいはい。そーですかー」


 まぁ、別にいいけど。


「目的は果たしたし、ちょっと散歩でもするか」

「う、うん」


 桜咲と手を繋ぎながら、豊洲市場の西にある公園を歩く。

 広大な土地と芝生の緑に囲まれた公園。

 ここの高台からなら東京の街を一望できそうだ。


「この前電話でも言ったけど、ライブの日、メールで励ましてくれてありがと」

「ん? 俺は大したことしてないぞ」

「閑原くんにとってはそうかもだけど、わたしにとっては、何よりも勇気貰えたから」


 桜咲が足を止めたことで繋いだ手に俺は引っ張られる。

 ……ん?


「ねぇ、ベンチ座ろっか」


 俺たちはベンチに座り、桜咲は先ほど買った甘味を俺にもくれた。


「美味しいでしょ?」

「あぁ、めっちゃ美味いな」


 嬉しそうな桜咲。

 そんな彼女の隣で、俺はふと思ったことを口にする。


「桜咲は、なんで毎日メールくれるんだ?」

「へ? どしたの、突然?」

「いや、なんとなく」

「なんとなくって……。わたしが、毎日メール送るのは、その、閑原くん何してるかなーって、気になるから……」

「なんで? どうせ俺は暇人だし面白いことなんてないぞ」

「興味って言うか、なんていうか」


 興味……ねぇ。

 現役JKアイドルさんは、暇人の俺に興味があるってか?


「返信くると、安心するし……。あ、閑原くん元気なんだなって」


 生存確認かよ。


「じゃあ、逆に聞くけど。閑原くんはなんで返信してくれるの? 面倒なこと嫌いなくせに」


 返信しなくて、桜咲に拗ねられると面倒ってのが一番の理由だが、それを言ったら火に油だな、きっと。


「俺も、お前に興味があるから……かもな」

「閑原くんが、わたしに……」


 その後、甘味を食べ終わると、俺はベンチから立ち上がった。


「よし、そろそろ帰んないとな」

「……うん」

「……帰りたくないって顔してるな」

「だって! だってさ、楽しくて……。閑原くん、次はいつ会える?」

「お前に合わせるよ、俺はどうせ暇だし」

「……ほんと?」

「あぁ」


 桜咲もゆっくりベンチから立ち上がった。


「じゃあ、花火観に行きたい!」

「花火……分かった。調べておく」


 まぁ、夏の風物詩だもんな。

 にしても桜咲のオフの日にちょうど花火大会があるかどうか……。

 まぁ、もし無ければホームセンターの花火で我慢してもらうか。


「花火観てー、あとはたこ焼き、焼きそば」

「やっぱそっちメインか」

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