第23話 JKアイドルさんは食べ歩きに興味があるらしい。01

 

 朝、駅で桜咲を見かけた。

 桜咲も俺に気付いて小さく手を振るが、声はかけてこない。

 俺も、軽く手を上げそれに応えた。


 俺たちは放課後まで話さないことにしている。

 それ故に会っても目を合わせるだけで会話を交わさない。


 これに関して桜咲は相当不満があるらしく、夜の電話ではいつも文句を言っている。

 まぁこればっかりは仕方ない、といつも桜咲を宥めているのだが。


「航っ、おはよ」


 後ろから七海沢が飛びついて来た。


「朝から鬱陶しい。離れろっ」


 俺は七海沢を剥がして、早歩きで学校へ向かう。


「ねぇ、一緒に行こ?」

「はぁ……いいけどさ」


 俺は少し後ろにいる桜咲を見た。

 顔から察するに怒っていることだけは分かった。

 あぁ……またまた面倒なことになりそうだ。


「今日の宿題って何があったっけ?」

「現国と、現社」

「……お、オッケー」

「その反応、絶対オッケーじゃないだろ」

「だってー、部活忙しかったし」

「……お前なぁ」


 バレー部の期待のホープはなかなか反省しない。

 ったく、七海沢には困ったものだ。


「お昼のパン1個で手打たない?」

「よし、乗った」


 俺もパン1個で釣られるような困った人間なんだと感じさせられた。


 ✳︎✳︎


 学校で七海沢に宿題教えてる時も、七海沢と一緒に昼食をとっている時も、桜咲の視線を感じていた。

 そして帰り道、電車を使って目的地まで向かい、電車を降りて歩いている時だった。


「閑原くん、やっぱ学校でも話しかけちゃダメかな?」

「……いや、ダメだろ」

「えー! でもー!」


 桜咲のわがままタイムが始まる。


「七海沢さんに、後ろから抱きつかれてたよね?」

「朝のあれか?」

「鼻の下伸ばしちゃって……閑原くんのバカ」

「なんでそうなるかなぁ」


 こうなった桜咲は面倒でしかない。


「なんでそんな嫉妬するんだ?」

「そ、それは! ……閑原くんだって、わたしが他の男の子と話してたら……嫌でしょ?」

「……そうか?」

「もうバカ! 鈍感男!」


 桜咲は俺の腕をポカポカ叩いてくる。


「ほら、無駄話してたら着いたぞ」

「無駄話⁈ ……って、ここは」

「谷中銀座、食べ歩きで有名な商店街だ」


 揚げ物の香ばしい匂いが谷中銀座の門前まで溢れていた。

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