第56話 驚きの連続

「ん? タケルくん? どうかしたかな?」


「……少し、いや、かなり驚きましたが気にしないでください」


 なんでもない顔でジェームズさんは聞いてきた。

 驚きのあまりリアクションすらしなかった俺を気遣ってくれているらしい。


「それで、結局のところ、どうして俺は領主様に呼ばれたのでしょうか」


 俺は驚愕や困惑といった感情を抑えて、次の話題に進むことにした。

 いちいち驚いていたら話が進まないと判断したからだ。


「それは君のことをパーティーに同行させたいってギニトさんが推薦したからだよ。それも本当についさっきだからね、俺もそうだし他のみんなも驚いていたよ」


「……俺が同行するんですか?」


 ジェームズさんがSランクだったということに驚いたかと思いきや、すぐに次の驚きポイントがやってきた。

 それもかなりおかしな話題だ。


「ああ。嫌だったかな?」


 ジェームズさんはにっこりと微笑んだ


「い、いえ。ありがたいお誘いなのはわかっているのですが、こんなにうまく話が進むとは思えなくて」


「それはギニトさんも言っていたね。本当は各Sランクパーティーから何人か派遣されるはずだったんだけど、みんな憔悴しきっていてね。そこで君に目をつけたってわけだ」


 俺の悪運が強いせいで、竜の巣から下山するなり、領主様とたまたま遭遇してしまったのか。


「あ、少し話を戻して質問をしてもいいですか?」


「なにかな?」


 俺は頭の中にある情報が多すぎるあまり、おうむ返しというか簡易的な質問をすることしかできないでいたが、そんな中で一つの疑問が生じた。

 疑問と言ってもこれはただの確認作業。

 現実から目を背けることはできない。


「もしかして、ギニトさんとガルファさんって元Sランク冒険者だったり……」


 俺の疑問は単純だった。

 現在のSランク冒険者の師匠にあたる二人が元Sランク冒険者なのではないか、というものだ。


「うん。二人とも元Sランク冒険者だよ。君は関係者だから教えておくけど、他言はしないでね」


 ジェームズさんは簡潔にそう答えると、すぐそこで眠る領主様を一瞥した。


「やっぱりか……」


 領主様が王都に来た理由。

 それは例のモンスターを討伐するため。

 現在のSランク冒険者であるジェームズさんや他の人たち、それに加えられる実力者というのは領主様のことなのだろう。


「その様子だと説明せずとも分かってくれたみたいだね?」


「ええ。今日は驚きの連続です」


 今日だけに限らず、最近はニュースが多い。

 レナの件やアンの結婚、サラリーの死亡。

 加えてシフォンとの間に生まれた溝、そして先ほど得た数々の情報。


「ハハハッ! 君は感情が乏しいように見えて心が揺らぎやすいみたいだから、あまり無理はしないようにね」


 なんとか平静を保てているつもりでいたが、目の前のジェームズさんからしたら俺の感情なんて丸見えだったようだ。

 

「一つだけいいですか?」


「なんだい? そろそろ夜も遅いし、これで最後にしよう」


 ジェームズさんは星空に浮かぶ三日月をチラリと見た。

 遮蔽のない大きな窓から見える夜空は絶景だ。


「わかりました。では、討伐に向かう日時とメンバーを教えてほしいです」


「これを聞くということは参加するということでいいんだね?」


 ジェームズさんは覚悟を決めたような眼差しで俺のことを見てくる。


「はい。俺で良ければ力になります」


 領主様に恩返しをすることができるかもしれないので、安易な気持ちで俺はメンバー入りを決断した。


「わかったよ。日時は二日後。メンバーは俺とギニトさん、そしてタケルくん、他にも二人いるんだけど、それは当日にでも紹介するよ」


 つまり五人で討伐に乗り込むということか。

 足を引っ張ってしまうような心配はあまりしていないが、連携や精神面、信頼の部分においてどうなるかはわからないな。


「了解です。それと——」


「——ああ。ギニトさんは俺が介抱するから、君は気にせずに帰ってくれて構わないよ。お金はあるかな? 少ないけどこれで宿をとってくれ」


「ありがとうございます。色々と」


 俺は素直に金を受け取った。

 普通の宿なら数日は泊まれる額だ。

 今の俺にとっては大金なので、大切に使おう。


「うん。それと、その日の午後八時に竜の巣の方面にある南の門の前に集合してくれ。くれぐれもこの情報は内密にね。じゃあね」


 討伐は夜か。

 気を引き締めておく必要はありそうだな。

 それに、そのメンバーに『漣』の誰かがいた場合は、公私混同を避けなければならない。

 俺はバレても無視をすればいいだけなので問題はないが、あっちがどうでるかはわからないので、なるべく穏便にことが運ぶように願うしかないな。


「ええ。失礼します」


「ギニトさん、そろそろ起きてください。ギニトさん——」


 俺は広々とした個室に一礼をしてから、高級感のあふれる引き戸に手をかけた。

 同時にジェームズさんがソファで眠るギニトさんを強く揺さぶっているのが見えた。


 こんなに緊張感がなくて大丈夫なのだろうか……少し不安になってきたな。

 

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