第26話 帰還

 今は太陽が真上にある真っ昼間。

 早朝に出発して、フローノアに到着するのは残り数十分と言ったところだ。


「帰り道って長く感じますよね」


「わかる。歩き始めてから結構経ったのに、まだまだ遠く感じるよね。なんでだろうね」


「景色の変化が少ないからだと思います!」


「あー、そういうこと! 確かに、ここまでずっと平坦な道だもんね」


「はい! もう少しの辛抱です!」


 俺を挟むようにして歩いている二人は、これと言って内容のない会話をここまで延々と語っていた。

 結局のところ、そんな日常的な様子が落ち着くのだが。 


「そういえば、報奨金は何に使うか決めた?」


 アンが反対側を歩くシフォンに問うた。


「僕は杖を新調したいです! タケルさんは決めましたか?」


 シフォンは杖をブンブン振りながら言った。


「……まあ、色々な。そういうアンは武器を買うのか?」


 俺は二人に買うお菓子と、諸々の生活費で全部無くなりそうだ。


「私はこの武器しか使わないって決めてるから、買うとしたら新しい鎧かな?」


「その剣は買い替える必要がないくらい相当な業物だもんな」


 前々から思っていたが、アンの単純な剣技に関しては、そこらのEランク冒険者とは思えないほどの長年の努力の成果を感じる。


「わかる!? お父さんからもらったんだよね」


 アンは興奮した様子で言った。


「アンのお父さんってどんな人なんですか?」


「今は王都で冒険者やってるよ!」


 王都で冒険者か。

 父親の年齢でそれができているということは、かなりの手練れかもしれないな。


「凄いですね! だから剣をもらえたんですね!」


「うん! あ、街が見えてきたよ!」


 果てしない草原の先に薄らとフローノアの街が見えてきた。


「……やっとか」


 流石に二徹したのもあって疲労感が蓄積しているので、早々に屋敷で休みたいものだ。





「受付さん! Dランク試験終わりました!」


 アンはギルドに着くなり、真っ先に受付嬢に報告をした。


「おめでとうございます。では、完了の証明として最奥のフロアの内壁を頂けますか?」


 受付嬢は小さな会釈をした。


「どうぞ」


 これがダンジョンの内壁がどうかは、鑑定スキルでもない限りわからないはずだが……。

 そんなことを考えていると、受付嬢はカウンターの下から石のプレートを取り出した。

 なんだそれは。


「お預かりいたします。少々お待ちを……確認できました。Dランク試験は合格となりますので、本日から御三方はDランク冒険者になります」


 受付嬢は石のプレートの窪みに内壁のカスを少量入れると、石のプレートは淡い緑色の光を放った。


「なんですか? 今のは……」


 俺は訳がわからなかったので、咄嗟に質問を投げかけた。


「これは簡易的な鑑定が何度でも可能な魔道具です。数年前に試験的に導入されてから、今は実用化されてます」


 石のプレートの上にある手のひらサイズの窪みに入るものなら、簡単に鑑定できてしまう魔道具っぽいな。

 しかも、何度でもか……。


「これって魔道具職人マジッククリエイターのセレナ・イリスさんが作ったんですよね?」


 アンが石のプレートを見据えながら言ったが、俺はその名前を聞いたことがなかった。


「はい。セレナ・イリスさんは魔法の街シャルムに住んでいると噂の魔道具職人マジッククリエイターの方ですね。なぜかは知りませんが、年齢性別外見の全てが謎に包まれています」


 年齢性別外見が謎に包まれているとは、普通は考えられないな。


「他に繰り返し使用できる魔道具は存在しますか? それと、その魔道具を作れるのはその方はだけですか?」


 俺が知っている魔道具というのは使い捨てだ。

 何度でも使えるなんて聞いたことがない。


「現在は世界でセレナ・イリスさんのみですね。それに繰り返し使用可能なのは、この魔道具しかありません」


「そうですか……。ありがとうございます。二人とも帰るぞ?」


 今日はサクラがいないみたいなので、受付嬢に別れを告げて屋敷へ帰ることにした。


「うん。でもすごいよね。ああいうのを一から作る人って」


「そうですね。どんな人だと思いますか? 若い男性ですかね?」


 街外れの屋敷へ続く整地された道。

 二人は身振り手振りを使って楽しげに話していた。


「ううん。きっと人生経験が豊富なお爺ちゃんだよ! 私たちと同じくらいの年代で魔道具を作るなんて凄すぎるもん!」


「そうですよね。一度でいいから会ってみたいですね!」


 シフォンはニコニコと笑いながら、まるで夢見る少女のように言った。


 魔法使いのシフォンからしたら、ベクトルは違えどサラリーと同じような憧れの対象なのだろう。







 適当な雑談を交わしながら歩き続けること数十分。

 

「着いたぞ。話の続きは体を綺麗にしてからだ。先に入ってゆっくりと——って、もう行ったか」


「シフォン二人で入ろ!」


「いいですよ。川で水浴びしかしてないので、早くサッパリしたいです!」


 二人は俺が言葉を言い切る前にドタドタと風呂場へ走っていったので、俺はリビングの椅子に座って、今自分が知ってる魔道具というものについて考えることにした。


 そもそも、魔道具は自身の魔法を道具に込めることで完成する。

 一見簡単そうに見えるが、その作業には莫大な魔力と研ぎ澄まされた魔法の練度が必要なので、単に魔法を唱えるよりも遥かに難しいと言われている。


 ましてや魔道具は手間とコストの割には一度しか使用できない使い捨て仕様なので、何度でも使用できる今回のような魔道具は革命的なものだと分かる。


 それに、そんな魔道具を作ることができる時点で相当な魔法使いであることは確かだろう。


「……セレナ・イリス……か」


 シャルムは魔道具職人マジッククリエイターと魔法使いの総数が最も多い街として有名だが、それ以上のことはあまり知らないな。

 

 旅行がてら行ってみても良いかもしれない。


 二人の了解を得られたら出発しよう。


【魔法の街】シャルムへ。


 



 

 

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