step17.フォーリンラブ(2)

 かちんこちんに固まったままアコは激しく瞬きする。由基はちょっと笑ってしまう。

「結婚するんじゃないの?」

「するする! するに決まってる!」

 呪いが解けたようにアコは身動きして、ぎゅうっと由基を抱きしめ返した。




 立ち上がってみれば度重なる衝撃のせいでか足ががくがくで、アコに引っ張ってもらって美術館の園内へと移動した。

 自然公園の素朴な広場の芝生と違い、青々と美しく整えられた芝生の庭園のあちこちにも彫刻が点在していて、ときおり首を傾げながらひとつひとつを鑑賞した。


「ねえ、ヨッシー」

 芸術的な庭園に見合った装飾の白いベンチで一休みしながら、アコは自分のつま先を見下ろし彼女らしくない小さな声で尋ねてきた。

「ちゃんと、アコのこと待っててくれる?」

「うん」

「由基はモテるから心配だよ」

 ここ数か月が異常だっただけで、まったくそんなことはないのだが。


「三咲さんみたいに、同い年に生まれたかったな」

「それはイヤだな」

 即答すると、アコは目を丸くして由基を見つめてきたが。

 だって、それはそうだろう。それほど波乱万丈でもなかったが紆余曲折あったうえでおっさんになった自分が、今はまだJKの彼女と、どういうわけか出会ったわけで。そうでなかったら、別の物語になっていた。


「そだね」

 説明はしなかったのだが、アコはアコで何かしっくりきたようだった。

「待ってるから、アコちゃんはアコちゃんでいろいろやってみてほしいな」

「いろいろって?」

「いろいろ。いいお嫁さんになりたいってアコちゃんの願望は可愛いとは思うけど、それはそれで。もっと世界を広げた方がいいっていうか」


「アコ考えてるよ。ことちんの大学目指そうかなって」

「ほんと」

「うん。国際的ですごいな、面白そうだなって。アコ、知らないことばかりだし、勉強ものすごく頑張らないとだけど、できそうな気がするんだ」

 へへっと笑う顔からは彼女の自信が透けて見える。それはそうだろう、とても頭がいい子なのだから。


「ヨッシーと会ってから変わったんだよ?」

 俺もかな、などとスカしたことを内心でつぶやきつつ、なかなかこういうことを言葉にはできないなあと感じる。


「ねえ、ヨッシー」

 アコがまた由基の上着の袖を引っ張った。

「アコのこと好き?」

 さっきの自信はどこへやら。不安そうに眉を寄せて瞳をうるうるしている。

「……」

 口元を手で隠し、由基は心臓のばくばくを落ち着ける。


 おっさんだって恋したいし愛されたい。それなら、ストレートに伝えることも必要で、いやというほど思い知った。言葉が足りなくても気持ちがあればいいけれど、言葉もあった方がいい。


 手を下ろし、覗き込んでくるアコに向けてようやく一言伝える。恥ずかしくてまた口を覆う。日差しが突き刺さる頬が熱い。


 アコは、くすりと笑ってぴたっとからだを寄せてきた。

「ヨッシー、大好き」

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