step16.トラップ(4)
「ア、アコちゃん……」
どうにかこうにか声を絞り出すと、ほとんどうつ伏せの体勢で由基の腹に顔を埋めていたアコは、少しだけ顔を上げて由基を見た。
「ドキドキする?」
は? 由基の額にじんわりと汗が浮かぶ。まさか。これは。吊り橋効果を狙ってるのか!?
「バカなこと言ってないで離れて……」
ずりずりと後ずさりながら由基はアコの腕をはがそうとする。アコは膝をついて弾みをつけ、また由基にのしかかってくる。吊り橋が揺れる。ひいいっと新たな恐怖が襲う。
「ドキドキする?」
「危ないから、ふざけないで」
「ドキドキするって言わなきゃ離れない!」
「ド、ドキドキする! ドキドキするから!」
堪らず由基が叫ぶと、アコの腕がふっと緩んだ。離れてくれるのかと思いきや、上半身を起こしたアコは由基の両肩に手をかけ橋の上で彼を押し倒した。
「…………!」
離れないのか? 更にすごいことになってないか? 馬乗りになって自分を覗き込んでくるアコの顔を見上げながら、由基には状況が呑み込めない。どうしてこんなことになってるんだ?
アコの小柄なからだはとても軽いけれど、小さな手のひらはその分圧が強くて両肩に食い込んでくる。必死な力で由基を橋の上に縫い留めている。
「結婚するって言って」
逆光がかかってアコの目元がちょうど見えない。口元だけがはっきり動いて由基に告げる。
「アコをお嫁さんにするって言うまで、どかない」
由基の腹の上に跨るジーンズの太ももにもきゅっと力が入るのがわかった。全力で男の力に抵抗する構えのようだ。
驚愕の瞬間が通りすぎてしまえば、硬直していた頭は意外と冷静に動き始めた。どうしてこの子はここまでするんだろう? 当然の疑問で頭はいっぱいになる。アコは今はくちびるを噛み締めて由基を見下ろしている。
「アコちゃん……」
「好きなんだもん」
落ちてきたのは、由基の疑問に答えるかのような言葉だった。
「今まで、好きな人はいっぱいいたよ? アコ、すぐ好きになっちゃうから。自分でもわかってる」
「……」
「でも、こんなのは初めてだから。由基が初めてだから。だからあきらめたくないし、ずっと一緒にいたい」
「アコちゃん」
「結婚するって約束して。でないと……」
「アコちゃん!」
声を張ると、アコは少し怯んだ様子で口を閉じた。沈黙が広がり、かすかに水音と野鳥の鳴き声なんかが聞こえてくる。のどかだ。由基はようよう片腕を持ち上げ、自分の顔を撫でた。
「盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、三年だって」
「え?」
「今、盛り上がったところで、三年で気持ちは冷めるって」
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