step16.トラップ
step16.トラップ(1)
三十分ほどで山の中腹に位置する施設の敷地に到着しバスを降りた。ところがアコは園内へは行かず、更に山の中へと続く坂道へと足を向けた。
「どこ行くの?」
「向こうに公園があるんだよ。お散歩できるし静かで気持ちいいの。アコお弁当作ってきたからそっちで食べよ」
至れり尽くせりな提案に少し驚いた。でも、実はこういう子なんだよなとすぐに納得して坂道を一緒に歩き始めた。
ほどなく公営の自然公園の敷地に入り、小径は急な階段へとつながっていた。弁当の入った荷物をアコに持たせているのが申し訳なくなり由基が鞄を持ってやると、アコはえへへと嬉しそうに笑って空いている方の腕に抱き着いてきた。階段でもみ合うわけにはいかないからそのままくっついて広場を目指した。
木陰が多く、この時期だとまだ肌寒いと最初は感じたのだが、歩いているうちに体が温まっていい運動になった。
葉擦れに目を上げてみれば膨らみはじめた桜のつぼみがいくつかあった。今は人気はなくても開花を迎えれば人も多くなるのに違いない。静かにすごすにはとても良い時期に訪れることができたわけだ。
初春のピクニックという様相で、いつもはスカートなことが多いアコが珍しくジーンズ姿であることにもなるほどと思った。
階段を上りきった先の広場にも人気はなかった。日差しがいっぱいに降り注ぐ芝生は気持ちが良さそうだが光が眩しそうでもあってそっちはあきらめ、木々に囲まれた東屋のテーブルで少し早いランチを食べた。
アコが用意してきたのはたくさんの小さなおにぎりと、小さなハンバーグや、ウィンナーや卵焼きだった。
おにぎりを包むラップにマスキングテープを貼って「しゃけ」とか「うめぼし」とかメモ書きしてあるのが可愛らしかったが、子どもの頃の運動会を思い出すおかずのチョイスは懐かしかった。
手作りの弁当などもう何年も食べていない。コンビニ弁当に入っている卵焼きは甘いものばかりだから、中華だしで味付けしたらしい厚焼き玉子が新鮮だった。
「卵焼きどう? 甘くないけど」
「うまい。俺はしょっぱい方が好きだな」
由基が絶賛すると、アコは目を潤ませて大げさなほど安堵した表情になった。
「良かった! アコの自信作、ヨッシーに食べてもらいたいってずっと思ってたんだ。良かった~」
木陰が風に揺れて、微笑むアコの顔の上でも光が揺れた。
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