step13.エンクロージャー(3)

 もう午後十時をすぎていたが、まだまだ夜はこれからな様子で、アコと琴美は布団の上でトランプをしていた。

「おかえり。ヨッシーもやろうよ。7並べがいい? 大貧民? あ、このテンションで神経衰弱やっちゃう?」

 うきうきと誘ってくるアコを完全に無視し、由基はずかずかと和室の奥へと向かった。


 昔ながらの間取りの客室には窓際にカーペット敷きの広縁がある。そこに置いてある籐の肘掛け椅子やローテーブルを畳の間へとざかざか移動させる。空いたスペースにいちばん手前の布団一式をずりずり引っ張って持っていき押し込めた。


「ええ、ヨッシー? まさか」

「俺は寝る。入ってくるな!」

 しきりの障子戸をスパンと閉め、由基は布団の中にもぐりこんだ。向こう側から入り込んでくる光や聞こえてくる話し声をシャットアウトするように頭から掛布団をかぶる。そのまま酒の力を借りてどうにか寝付いたものの。


 ハッと目覚めると、窓からの月明かりで広縁は仄暗く、背を向けている障子戸の方から気配を感じた。そっと目線を流してみれば、しっかり閉めたはずの障子が少し開いている。

 がばっと起き上がると、隙間の向こうでびっくりしたように顔を引いたのは琴美だった。てっきり、アコが夜這いに来たのだと思って身構えたのだが。


「すみません。起こしてしまいました」

「いや……」

 酒を飲んで寝たせいか声がおかしい。喉がへばりついているような感触。

「お水を持ってきます」

 小さな声で言って琴美は立ち膝のまま後ろに下がり、壁際に寄せてあった座卓の上の水差しに手をのばした。

「どうぞ」

 戻ってきた琴美の手からコップを受け取り水を飲んで人心地ついた。

「ありがとう」

「いえ」


 薄暗い中でも琴美が浮かない表情をしているのがわかる。

「ダメですね。この前、反省したばかりなのに。また勝手なことしてはしゃいじゃって。すみませんでした」

 それで、こんなに暗い顔つきをしているのかと思うと、由基も自分の行動が大人げなかった気がして恥ずかしくなる。

「いや。こっちこそ、酔っ払って大声出して。ごめんね」

「そんな……」

 縮こまって俯く琴美に更に居たたまれなくなって由基は頭の後ろを掻きながらへらへら笑った。

「怒ってないから、別に」

「……だから付け上がっちゃうんですよ」

「え?」

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