step12.ニューイヤー(5)

「ありがとうございます」

 甘い香りの湯気が立つお椀に目を細めて琴美は笑った。

「つぶあんですね」

「ぜんざいってそうだよね。こしあんの方が好き?」

「いえ。つぶあん派です」


「あれ? アコの分もある」

 じゃがバターとフライドポテトを手に戻ってきたアコはテーブルに着くなり由基の目の前でじゃがバターを割り箸ですくいあげた。

「お返しにはい、あーん」

「結構です」

 由基は自分のおしるこの椀を持ち上げる。

「ぶう、じゃがばたおいしいのに」

 問題なのはじゃがバターではなく、アコの行動である。ため息と一緒に甘いしるこを飲み下すと、由基の方をじっと見ていた琴美と目が合った。


「何かな」

「あ、えと。お願いをしておいて今さらですけど、店長は里帰りしなくて良かったのかなって。お正月なのに」

「休みは一日しかないから毎年帰省してないよ。日帰りはちょっとキツい」

「ヨッシーのお家ってどこなの?」

「香川」

「うどん県だ!」

 目を丸くするアコに思わず笑って由基はそうそうと頷く。


「ヨッシーのお父さんとお母さんてどんな人?」

「どんなって……父親は公務員で母親は今はパートで介護施設に行ってるみたいだな」

「それは職業じゃん。どんな人かじゃないよ」

 言われてみればその通りだ。自分の親のことを他人に端的に説明するのは、いざとなると難しい。由基はそんなことに気がつく。


「きょうだいは?」

「尋問か」

「当ててみようか? 妹がひとりいて、結婚してる」

 正解だ。由基の表情から察したのか、アコはフライドポテトをつまみながらふふっと笑った。

「アコちゃんすごいね」

 琴美は感心して小さく拍手をしているが。きょうだい構成なんてパターンはたかが知れているし、既婚かどうかだって年齢的に確率が高い方をあてずっぽうしただけだろう。と、思いつつ、アコは妙に勘や洞察力が鋭いところがあるから怖い。女子高生を怖がってどうする、とは思うのだが。


「アコちゃん、お昼前なのにそんなに食べちゃっていいの?」

「いいのいいの。これがお昼ご飯。これからバイトだもん」

 けろっと答えたアコに、質問した琴美は絶句している。

「休みだと思ってた」

「だって、今日出勤すれば店長がお年玉くれるっていうし」

 どこでも店長は大変なのだなあと由基はさっきの神池の亀たちを思い出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る