step5.ソイフレ(4)

「ダメってことはないけど……」

 ストレートにボディブロウを食らって由基は怯む。


『アコは好きになったら手を繋ぎたいし大好きってハグしたいしぎゅってしてもらいたいしチュウだってしたいし、もっといろいろしたくなっちゃう。それは、アコだけの気持ちで、向こうがアコのことをどう思ってるかは関係なくて、アコが好きでしたいからするって感じで、あんまりちゃんと考えてなかったなって、ヨッシーにまやかしでいいの? って言われたとき、はっとしたの。だからいつも付き合ってみるとこの人なんか違うなって、すぐ別れたくなっちゃうのかなって。そういうことだよね』

「うん……そうなのかな」

『でもアコがヨッシーを好きな気持ちはほんとで、こうやって話してると、もっとどんどん好きになっちゃってく感じで、ヨッシーにも同じ気持ちになってもらいたいなって思うのはダメなの?』

「…………」


 沈黙せざるを得ない段階になって、由基はあれ? と首を傾げてしまった。なぜか、自分の方が追い詰められてないか?

『天使が通った?』

 いや、悪魔がと言うべきか。重く吐き出したため息が伝わったらしく、アコが不安そうに「ヨッシー?」と囁く声がくぐもる。どうすりゃいいんだ。


『あのね、ヨッシー。アコはバカだから、アコにわかりやすいように一個一個答えて?』

「……わかった」

『アコのこと好きじゃないっていうのはわかった。それなら嫌い?』

「……嫌いじゃないと思う」

『またデートしてくれる?』

「それは、うんとは言えないな」

『会うのは嫌ってこと?』

「なんて言うか。俺とアコちゃんはいろいろ違いすぎるから」

『疲れるって言ってたもんね』

「ごめん」

『アコはこうやって正直に、でもアコを傷つけないように気を遣って言ってくれるヨッシーが好き。声が優しいもん』


 そうなんだよな、駄目なんだよなあ、俺。悪いオトコになれなくて。この場合それこそが悪いことのような気がして由基は罪悪感に落ち込んでしまう。こうやって懐いてくれている女の子に嫌われたくないと思う、狡くて繊細なおっさんなのだ、自分は。


『アコはヨッシーとさよならしたくない』

「…………」

『こうやって時々電話で話すのはダメ?』

「それは……」

『お願い、ヨッシー。拒まないで』

 おいおいなんだよ、その捨てられた子猫みたいなか細い声は。ものすごい必殺技を持ってるんじゃないか、ここぞとばかりに出してきやがって。意地悪く考えながらも由基は降参する。ここで彼女を突き放せる性格なら最初から関わっていなかったのだから。


「わかった。時々、電話でなら」

『やった、ありがとうヨッシー』

 アコのトーンはローからハイに一気に跳ね上がる。

『ヨッシー好き好き!』

「それも禁止」

『えー、なんで?』

「妙な暗示にかかりそうだから」

『かかっちゃえばいいのに』

 一瞬、別人かと思うような声色だった。反応できずに沈黙がおりる。


『天使が通ったね』

「……ああ」

『ヨッシー今どこにいるの?』

「家だけど」

『もっとピンポイントで』

「布団の中」

『アコもだよ、もう電気も消して寝るところ。ねえ、由基』

 いきなり名前を呼ばれてどきりとした。

『これってちょっと、電話越しに添い寝してるみたいだね』

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