step4.デート(4)

 エナジードリンクを飲み、眠い目をこすりながらどうにかこうにかデスクワークは終えた。製造は琴美に任せて大丈夫なようだ。売り場スタッフの了解ももらい、由基は正午に店を出ることができた。


 アコとは現地集合。仕事が終わった時点で由基からそれを知らせることになっている。駅前に向かいながら「終わった。今から向かいます」とメッセージを送ると、アコからはすぐに了解のスタンプが返ってきた。


 ロータリーの手前の横断歩道で信号待ちしているとき、ちょうど目的のショッピングモールへのシャトルバスがのりばに停車しているのが見えた。マイカーで移動するつもりでいたが、バスに乗れば居眠りできるな、と少し迷う。

 信号が青に変わり道路を横断してから交差点で足を止め、駐車場に向かうかバスのりばへ急ぐかを決めかねている由基の腕に、後ろから誰かが飛びついてきた。


「ヨッシー、お疲れ!」

 もちろんアコだ。

「バス座れなくなっちゃうよ、急ご」

 ぐいぐい由基の腕を引いてバスのりばに足を進める。自前の足か自転車かせいぜい原付か、公共交通機関しか自力での移動手段がない高校生にとってはシャトルバスを使うのは当然のようだ。そんな気づきが面白い。マイカーを持つと歩いて五分のコンビニへでさえ車で移動するようになるのに。


 バスの座席は七割ほどが埋まっていて、前方の二人掛けの席が空いているのを素早く見つけたアコは由基の背中をぐいぐいして座席の奥へと押し込んだ。

「ちょうどよかったね」

 にこにこ笑うアコの顔を見て由基はおや、と思う。どこか印象が違う。彼女の顔を見るたび黒ッと思っていた目元が今日はカラフルなのだと気がつく。ビビットな青色のアイシャドウにまぶたの際には白いアイラインが入っている。見慣れないメイクで、おっさんの感覚では可愛いかどうかは微妙なのだが、少なくとも今までの黒々盛り盛りメイクよりは季節感に合っていて涼し気に斬新に感じた。

 着ている服もボタニカルな花柄のTシャツに生成りのショート丈のキュロットと、すっかり夏の装いだ。くたびれたポロシャツにチノパンのおっさんと並んで座っていたところで、誰がふたりを知り合いだと思うだろうか。


「ヨッシーお疲れだよね。眠たそう」

「そ、そう?」

「うん。着くまで寝てていいよ。アコによりかかっていいからね」

 こんなほっそりした体に、もたれたりできない。バスが動き出してすぐ由基は眠気を覚え、腕を組んで窓際に寄りかかりアコに触れないように気を遣った。


 いつのまにか寝入ってしまっていたらしかったが、到着の気配が伝わってきて意識が浮上する。肩先になんだかいい匂いがする。と同時に窓側からの日差しで頭の片側を熱く感じた。薄目を開けながら傾けていた体を起こすと、通路側の半身に重みを感じた。

「なんでくっついてんの」

「だって、寂しかったんだもん」

 寝てもいいと言ったのは自分のくせに、隣から由基にぴったりくついていたアコは彼に顔を向けてくちびるを尖らせた。


 乗客は既にみんな席を立って、あと数人が通路に並んでいるだけだ。由基が急かすとアコはぱっと機嫌を直した様子で立ち上がった。

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