第26話 踏み出す勇気

「ずっと気になってたんだ……、あの時君は何であんな嘘をついたの?」


 俺は店を出てすぐに、話を切り出した。あまり時間をかけてもよくないだろう。


「それ、は……、受験でストレスが溜まってたから、気分転換になるようなことがしたかったの。その時にちょうどあなたが告白してくれて、ちょっとやってみようかなって思っちゃって……」


 やっぱりそうか……。


 何となくそんなところであろうという予感はしていた。あの時、俺らは受験を目前にしていた。もちろん、ストレスも大いにあっただろう。


 そんな時期に告白してしまった俺も俺だな……。


「私に対して真剣に向き合って、勇気を出して告白してくれたのに、気持ちを踏みにじるようなことをしてしまって本当にごめんなさいっ!これも、本当なら今日会ってすぐに言わなきゃいけなかったのに、なんだか面と向かってしまったら、怖くて言い出せなくなっちゃって……。ほんと、私って弱いなぁ……」


「……そんなことないよ。今日俺は君に理由を聞きたくてこれに参加したんだ。元々君を攻め立てたり、喧嘩したりするつもりはないから、そんなに怯えないで。君の口から、君の言葉で本心を言ってもらえて嬉しいよ。……正直、まだ心のどこかでは君のことを完全には許せていない気がするんだ。

 ……でもね、今日こうして君に理由を聞きに来た理由も君と同じで、本当に身勝手なものなんだ。……実は、あれから高校に進学して、また好きな人ができたんだ。その人は誰よりも優しくて、一緒にいるととっても心が温かくなるんだ。でも、どうしても前に進めない自分がいた。

 ……だから、この場を借りて君とのことをきれいさっぱり解決して、その子に対して誠意を見せようと思ったんだ。こんなこと、君に言うべきじゃない気もするんだけど、隠したままにするっていうのも、何だか自分に嘘をついてるみたいで嫌だったから……、こんな身勝手な理由で聞き出しちゃってごめんね……」


「そんな、謝らないでください。私があんなことをしてしまったばっかりに、南君がこんなにも苦しんでいたなんて全く知らなかった……。謝って済むようなことじゃないけど、本当にごめんなさい……」


「もういいよ、気にしてないから」


「……南君に好きになってもらえた子は幸せですね。自分では気づいてないかもしれませんけど、南君ってかっこいいだけじゃなくて、優しくって、とっても素敵なんですよ。……こんなこと、私が言える立場ではないことは分かってるんですが、少し羨ましいです……」


 彼女はお世辞なんかじゃなくて、本心でそう思ってくれているんだろう。彼女の瞳の真剣さから、そんな気がした。


「ありがとう。そう言ってもらえると、今日来て無駄じゃなかったって思えるよ。ようやく俺も自分の中で割り切れた気がする。これで、彼女に対しても、ようやくまっすぐになれそうだ」


「あの、頑張ってください!」


 俺はふっと微笑んだ。もうそこには心の底から恐怖や憎しみを感じていた人はいなかった。ただの知り合いの女の子が一人、立っているだけだった。




 俺たちが一緒に店に戻ると、皆が温かい目で出迎えてくれた。気を使わせないようにそーっと出て行ったつもりだったのだが、どうやらバレバレだったらしい。


「よく頑張ったな。お疲れ、謙人」


 康政が真っ先に近寄ってきて、そう言った。


「ありがとう、康政……」


 彼がいなかったら、きっと俺はここまで立ち直れなかっただろう。本当に俺は、たくさんの人に支えられている。本当に、感謝しかない。俺の周りはこんなにも優しさに満ち溢れているんだ……!




 その後は、同じテーブルのみんなで喋っていた。昔の思い出話や、それぞれの高校生活を。楽しかった。友達を意識的に、康政以外は作らないようにしていた今の俺にとって、この時間はとても新鮮で、あっという間だった。


「もうこんな時間か……、そろそろお開きだな」


 気づけばもう、九時を過ぎていた。俺たちはまだ高校生。あまり遅くなると補導されたりなんだりで色々とまずい。……それに、俺にはいかなければいけないところがある。


「皆さん!久しぶりに楽しめましたか~?私ももっと話していたかったのですが、残念ながら、この辺でお開きにさせていただきます……。また来年、会えることを祈りましょう!」


 そんな前向きな司会の挨拶で、今年の同窓会は終わった。




「じゃあ、また、次会う時まで」


 駅で、俺と康政は他の三人とはお別れだった。


「またね、高田、南。たまには連絡しよ?」


 俺は仲良くなった証に、他の三人とメアド交換をした。たまにはまた皆で集まって話をするのもいいかもな……。


「ああ、そうだな。またここで集まれたらいいな」


「おう!んじゃ、またな!」


 その言葉を最後に、俺たちは電車に乗って帰っていった。


「今日は楽しかったなぁ~!謙人、お前はどうだった?」


 康政は久々に皆に会えたのがよほど嬉しかったのか、かつてないほどに上機嫌だった。


「うん、楽しかったよ。また来年も行こう……!」


 来年、変わることなくまたこうして会いたい。本心でそう望んでいる自分がいることに少し苦笑してしまう。


 そんな俺を、康政は嬉しそうに見ていた。……なんだか、くすぐったい。



「じゃあな、謙人。夏休み中も会えたら会おうぜ?」


「うん、そうだね。またね、康政」


 一人になって、俺は気持ちを切り替えた。まだ今日は終われない。ここからが本番だ!


「もしもし?うん、……マンションの前に出てきてくれないか?」



 駅を出て、俺は夜道を駆け抜けた。この世で、一番愛しい人めがけて、一心に……

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