第25話 やっとのことで、同窓会!

 会場となるレストランには既にたくさんの人がいた。


 俺は涼風の家を出てから、駅前で康政と待ち合わせ、電車に乗ってここまで来た。


 俺と康政は、互いに知っている顔を探していると、後ろからひときわ大きな声がした。


「お!久しぶりだな、康政!……となりのイケメンは、誰だ?」


 こいつは確か……


「お!久しぶりだな、翔平!……覚えてるか、同じクラスだった……」


 康政が俺に聞いてきた。俺もクラスのやつらの中では喋る方だったので、流石に覚えていた。


「あぁ。久しぶり、翔平」


「え?ごめん、本当に誰だ?」


 どうやら昔とはだいぶ変わったためか、俺だと分かってないらしい。……そもそも俺という存在が記憶から消えていたら、流石に泣くよ?


「南だよ。同じクラスだった、南謙人だ」


「南……謙人……、って、お前、謙人なのかぁ‼」


 うわぁ、めちゃくちゃ声でけぇ……


 ちょっと引き気味になったところに、翔平はグイグイ来た。


「え?お前本当に謙人なのか?冗談なら早めに言っとかないと、後で大変なことになるぞ?」


 めんどくせぇ……。康政、助けて……!


 どうやら、俺の願いは届いたらしい。


「落ち着け翔平。そいつは正真正銘、謙人だ!俺もびっくりしたんだけど、こいつ、五月くらいに、いきなりイメチェンしてきたんだよ」


「ま、マジか……。お前がこんなにイケメンだったなんて……」


「なぁ。本当に意外だよな。中学の時は陰キャ代表みたいだったのに!ガハハハッ!」


 康政くんは、僕のことをけなしているのかな?うん?


 まぁ、こんな反応になるのは予想してたけどね……


「おい!お前ら!こいつ、あの南だってよ!地味だった南謙人!」


 その紹介の仕方はどうなの?流石の俺でもちょっとは傷つくよ?


「ええええええっ!嘘~~~~!」


 あ~あ、これは一時間は監禁されるコースだな。


 なんて遠い目をして考えていたら、気づくと周りを囲まれていた。


「本当に、南くんなの⁉」

「え、めっちゃイケメンじゃん!」

「嘘だろ、南!」

「ま、負けた……」


 四方八方からそんな声が飛んでくる。と、その輪から外れたところから声が聞こえた。


「来てみたら早々に騒がしくやってるのね。みんな、久しぶり!」


 心臓がドクンと大きく跳ね上がったのが分かった。この声は……


「おっ!久しぶり!朝田さん!」


 朝田美麗。中学の頃のお淑やかさを残したまま、大人びた姿に成長した彼女がそこにいた。




「それでは!元3年1組の同窓会を始めま~す!」


 全員が集まったため、ようやく同窓会が始まった。どういうわけか、俺と同じテーブルには、康政と、翔平、それから、朝田さんと、当時彼女と仲が良かった桜井さんがいた。


 康政と翔平はさっきから二人で盛り上がっていたため、話に入ろうにも入れない。朝田さんたちは……言うまでもないだろう。もちろん二人で喋っている。


 ……俺、こんなところに来てまでも、一人なの?帰ってもいい?


 仕方がないからトイレにでも行って時間をつぶそうと思っていた矢先、桜井さんに話しかけられた。


「あの、さ、南。本当にびっくりするくらい変わったね」


 本当なら、話しかけられたくもないし、話しかけられても無視したいくらいの相手だが、そういうわけにもいかないだろう。


「まあね。昔とはだいぶ変わったと自分でも思ってるよ」


 どうしても話し方がそっけなくなってしまう。朝田さんは、どうやら他の班の人と話に行ったようだった。


「あのさ、南。こんなところで言うのはおかしいと思うんだけどさ、……あの時はごめんなさい!ずっと、南はそんなことしてないって分かってたのに、美麗と仲悪くなりたくなかったから、止められなかった……」


 別に俺は、桜井さんに対しては何も怒っていない。というか、誰に対しても怒っているわけではないんだ。ただ、関わりたくないだけ……


「頭を上げて、桜井さん。君がそうやって思ってたってことが分かって、俺は嬉しいよ。さっきは、久しぶりに会った君とどう接したらいいのか分からなかったんだ。だから、別に何ももう怒っていないよ」


 桜井さんは、本当はいい人なんだろう。なんとなく、そんな気がした……


「ありがとう、南!それで、本当は言っちゃいけないと思うんだけど、さっき美麗も、後で南と話したいって言ってたから。こんなこと私が言える立場にないことは分かってるんだけど、出来れば彼女の話をちゃんと聞いてあげてほしい。きっと美麗も反省してると思うから……」


「うん、心配しなくて大丈夫だよ。俺はもう、朝田さんにも怒ってないから。ちゃんと話を聞いて、出来るだけ受け入れるつもりだよ」


 桜井さんの表情が少しだけ柔らかくなった。


「ありがとう、南。本当にごめん」


 彼女なりに、多少の罪悪感はまだ残ってしまっているんだろう。う~ん、どうしたものか……


「もういいよ、気にしなくて。……その代わりさ、俺と友達になってほしいな。今までの分、俺は君と仲良くしたい」


「うん!っていうか、もう私たちは友達だよ?そんなに改まって言うことじゃないって!……高校二年生の二人がこんな会話してるって、変な感じだね?」


 どうやら彼女も溜めていたものがなくなって、心が軽くなったらしい。昔と変わらない、明るい女の子に戻っていた。


「それにしても、いったいどうしてそこまでイメチェンしようと思ったの?」


「したっていうか……どっちかというとさせられたっていう感じなんだよなぁ……」


 そこに康政が混じってきた。


「女だよ、女。どうやら仲良くしている、俺も知らない女の子と一緒に行ったらしい。くっそ~、先越された気しかしねぇ!」


 こいつは酔っぱらってるのか?


「へぇ~!そんな一緒に出掛けちゃうほど進んでるんだ~!いいなぁ……」


「え?一緒に出掛けるって、そんなにすごいことなのか?」


 恋愛経験ゼロの俺、そういう知識が全くありません!


「そりゃそうでしょ!女の子は普通、誘われても自分が行きたいって思わなかったらばっさり断るもんだよ?ナンパとかだって大概はそうでしょ?……つまり、その子は南と一緒にどこかに行きたいって思うほど、あんたに好意を寄せてるってわけだよ!」


 そうなのか……!普通に出掛けるだけなら、どんな奴でもいいと思ってたんだが、考えてみればそうか。涼風は今までいったい何人のナンパ野郎を撃沈させてきたんだろう……?


「謙人~羨ましいぞ~!とっとと仲悪くなって、その子を俺に紹介してくれ~!」


 なんて往生際が悪いやつなんだ。……ちょっと哀れに思えてきたぞ?


「やめろ!そんな目で俺を見るなぁ~」


「うるさいよ、高田。……それで、その子はどんな子なの?」


 どんな子、か。なんて言えばいいんだろうな……


「あの、南くん。ちょっといいかしら?」


 俺が涼風のことを真剣に考えこんでいると、後ろから声がかかった。


 振り返ると……朝田さんだった。


「あ、朝田さん。……ちょっとあっちの方に行かない?」


 流石にここで話をするのは良くないだろう。全員に気を使わせてしまうことになる。


「そうね……。じゃあ、ちょっと外に出ましょうか」


 朝田さんに続いて、俺も席を立って店を一回出た。



 ……絶対に逃げない。今日、ここで終わらせて、彼女を、涼風を迎えに行くんだ!

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