第23話 いざ、同窓会へ……の前に

 ピンポーン。


 俺は今、涼風の家に来ていた。今日は7月21日。約束通り、涼風に手料理をごちそうしに来たのだった。


 しかし、今日に限って、どうしても緊張してしまう。……というもの、昨日実は、こんなことがあった。






 夏休み前最後の登校日。うだるような暑さの中、退屈な授業を終えて、真っ先に帰ろうと下駄箱を開けた時の事だった。




 見慣れない封筒のようなものが、中に入っていた。


「ん?なんだこれ?」


 そこでそのまま放置しておくわけにもいかず、俺は封筒から一枚の便箋を出して読んだ。





「この手紙を読んだら、校舎裏に来てもらえますか?伝えたいことがあります……」





 これ、は、……まさかね?いやいや、そんなはずはないでしょう?俺みたいな平凡な学生が、いったいどんな徳を積んだら、ラブレターなんて貰えるって言うんだい?


 それに、俺には涼風がいるから、もし万が一そういう類のものだったとしても、断るんだけどね?


 ……ん?まだ付き合ってもないだろって?まぁ、それはもうすぐすることだから、問題ないだろう。


「……とりあえず、行くだけ行ってみるか!」


 ……これ、いたずらだったら嫌だな。


 そんな風に考えながらも、とりあえず行ってみた。そこにいたのは……


「来てくれてありがとう……!南くん」


 クラスで一番といわれている、榊原夢乃さかきばらゆめのだった。


「え、えっと、話って何かな?」


 とりあえず、俺の完全なる思い込みの可能性もあったため、話してもらうことにした。


「あ、あのね、明日から夏休みでしょ?だから、南くんと一緒にどこか行きたいなぁって……。それで、その、私と付き合ってくださいっ!」


 俺の予想通りなんだけど、困ったな……


 あ、ここで勘違いしないでほしいんだけど、いくらクラス1といったって、それに流されてしまうほど俺の決意は脆弱なものではない。……かといって、女の子を泣かせるのは嫌だなぁ。


「榊原さん。俺のこと好きになってくれてありがとう。嬉しいよ。……でも、実は俺、好きな人がいるんだ。近々告白したいなって思ってて。だから……ごめん」


 一応、言葉は選んで言ったつもりだけど、そもそも好きな人がいるんだって言った時点で傷つけちゃってるんだろうな……。


 そうは思っても、どうすることもできない。俺の気持ちが変わることは無いんだから。


「……そう、なんだ。ご、ごめんね?変なこと言っちゃったよね?」


 あの時の俺と同じだ。振った本人でありながら、榊原さんに同情してしまっている自分がいた。


「あ、あのさ、南くん。このことは無かったことにしてくれないかな?」


「俺はこれからも榊原さんとは友達でいたいな。それでもいい?」


 あえて質問には答えなかった。これが今の俺の本心だったから。振ったとしても、榊原さんとの関係が悪い方向には転じることは無いんだと伝えたかったから。


「うん!ありがとう、南くん……」


「じゃあ、また夏休み明けに」


 俺はすぐにその場を去った。きっと彼女も見られたくはないだろう。


 彼女は強い。俺なんかすぐに泣き崩れてしまったが、彼女はそれを見せまいと必死に我慢できるだけの強さがあった。


 きっと彼女はすぐに、俺よりももっといい人を見つけるだろう。その時は、精一杯のお祝いを言ってあげたい。振った当人がこんなことを考えているのはどうかと思うが、今の俺には、こう思わずにはいられなかった。




 時は戻って、現在。俺はもうすっかり定位置になっている、ソファーに座っていた。


「謙人くん?なんだか落ち着きがないですね?そんなに不安になることないですよ、きっと大丈夫です!」


「いや、そうじゃなくてな……」


 話そうかどうしようか迷ったが、結局俺は昨日の事を涼風に話すことにした。


「……ってことがあったんだけどさ」


 涼風はひどく驚いているようだった。


「謙人くんがかっこいいのは分かっていましたが、いざそういうことがあると聞くと、驚きますね。……盗られちゃいそうで心配です」


 今、盗られちゃうって言ったよね?もう、これ確定じゃないですか?まぁ、ちゃんとした感じで言いたいから、まだ言わないけどね?


「大丈夫だよ、誰にもなびかないから」


 これくらいならセーフだろう。核心を突くようなことは言ってない……はず……


「へっ⁉ど、どういうことですか?っていうか、聞こえてたんですかっ!わ、忘れてくださいっ!」


 握りこぶしで俺の肩をポカポカ叩いてきた。可愛い……。ずっと拝めるよ、これ。


「涼風、落ち着いて?……じゃあ、そろそろ俺は、作るとするかなぁ~」


 お楽しみはご飯の後で!……って、特に何するってわけじゃないんだけどね?


「そ、そうですね!ご飯にしましょう!」


 俺は涼風に続いてキッチンに入った。キッチンは、しっかりと整理されていて、いかにも普段から料理してます!っていう感じだった。


「よし!じゃあ作るか!……涼風は待っててくれていいんだぞ?」


 なぜか涼風はエプロンを着て、俺の隣に立っていた。……エプロンバージョンの涼風、めっちゃかわええ……


「私もお手伝いしたいです!……だめ、ですか?」


 君、それ分かってやってるよね?俺がそれ断れないの分かってるでしょ?


 涼風が小悪魔に見えてきた……。ん?それはそれでありかも……!


 って!邪推なことばかり考えてないで、料理始めないと!


「じゃあ、始めるか!ん~と、俺はまず材料を切る感じだけど、涼風はどうする?」


「そうですね……、じゃあ私はカレールーを用意したり、謙人くんのサポートをしてますね!」


 それはありがたい……!


「そうしてくれると助かる!よろしく頼むわ!」


「はい!」


 なんか、こうしてると……


「なんかこうしてると、新婚生活みたいだな……」


 しまったぁぁぁ~~~!声に出てしまったぁぁぁ!


 これはもう間接的に好きって言ってるようなものじゃないか!……多分ばれてるけど。


 ……なんか、どっちが告るかみたいになってるなぁ。題して、『涼風様は告らせたい』的な?


 涼風の顔がみるみる赤く染まっていった。


「け、謙人くんは、どんな新婚生活にしたいですか?」


 おっと!涼風から爆弾発言が飛んできました!これを華麗にブーメランしたいと思います!


「そうだなぁ~、ずっと二人で一緒にいたいな。どんなに一緒にいても、退屈に思わなくて、楽しくて、幸せだと思えるような生活がしたいかな。……って、今の涼風との毎日って、まさにそんな感じなんだよなぁ……」


 はい、きれいに跳ね返しました!きっと涼風は俺にも恥ずかしがってほしかったんだろう。でも、甘い!すでに覚悟を決めた俺は、そんなことで照れはしないのさ!


「わ、私も、謙人くんと一緒に入れて、幸せです……」


 ぐはっ!


 思いっきり、フラグ回収しました……。あれは耐えられないって。顔真っ赤にして涙目で上目遣い、おまけにあのセリフ。こんなの耐えられるやつおるの?


「よ、よし!早く作っちゃおう!」


 とりあえず、この話は終わらせないと!俺が死んでしまう!


 ……何死って?もちろん、キュン死だろう?




 ってな感じで、お互い真っ赤になりながらカレー作りが終わりました……。


「「いただきます!」」


 どれどれ、味の方は……うん!なかなかにおいしくできた!


「美味しいです!謙人くん、美味しいですよ!」


 二回言うとか、可愛すぎだろ……。もうだめだ、涼風愛があふれて止まらなくなってきた。


「涼風、はい」


 ごまかすべく、俺は涼風の前にスプーンを持って行った。


「あ、あ~ん」


 最近は、涼風もためらいなく食べてくれる。ちょっと赤くなるのは可愛いな……。


 涼風も俺にスプーンを差し出した。


「あ~ん、うん、我ながらうまくできた!」


 涼風からもらったというシチュエーションがプラスされて、さらにおいしく感じた。


 前を見ると、涼風は少し悔しそうにしていた。


「むぅ~~、私ばっかり恥ずかしくて、謙人くんが平気そうにしているのがずるいです!」


 拗ねてる涼風も本当に可愛い!ここは褒めちぎるの一択だろう!


「もう、本当に可愛いなぁ、涼風は!拗ねてほっぺた膨らますとか、最高かよ!もう、可愛すぎ!」


「ひゃうっ!ちょ、ちょっと、謙人くん、いきなり何言ってるんですかぁ!」


「なにって、涼風の可愛さを叫んでるだけだろう?」


「や、やめてください!恥ずかしくて死にそうです……」


「涼風が死んじゃうのは嫌だから、やめとくか」


 そう言った時、涼風が少し残念そうな顔をしたのを、俺は見逃さなかった。


「なに、やっぱりもっと言ってほしい?」


 涼風はぽっと顔を真っ赤にさせた。


「ち、違います!なに言ってるんですか!」


「そっか~、じゃあ、もう絶対に言わないようにするよ……」


「や、やっぱりだめです!もっと言ってほしいです!」


「まったく涼風は可愛いなぁ~~!もう、最高!」


「分かってたんなら、揶揄わないでくださいっ!」




 お昼時のマンションの一室から聞こえてくる叫び声を、同じ階の人たちが楽しそうに聞いていたのは、きっと二人は知る由もないだろう……。










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