第22話 同窓会と約束
週が明けて、月曜日。
俺は学校で康政を待っていた。ちなみに、昨日はまたあのショッピングモールに行って、伸びてきていた髪の毛を切ってもらった。なんの偶然か、担当してもらったのはこの前と同じ人だった。涼風が一緒じゃなかったから、別れたのかなど、とやかく聞いてきてとっても疲れたが、全てはこれからのためだと思えば仕方がない。
「よぉ~、謙人ぉ~」
ようやくあいつが登場した。
「おそいぞ、康政。お前、また寝坊したのか?」
「ふぁ~あ……。まあ、そんなところだな。……また美容院にでも行ったのか?高いのによく行くよなぁ……」
そう、あそこ高い……。流石に毎回行くのはきついんだよなぁ……
「ちょっと気持ち的にな。……なぁ、康政。去年のこの時期に、中学の同窓会をやったって言ってただろ?あれ、確か今年もやるんだよな?」
「おう。高校に通ってる間はまだそんなに忙しくないから会おうって決めてな!……って、謙人、お前まさか、行くのか⁉」
「うん……。今年は行こうかなって思って。……いい加減、自分を変えたいんだ。いつまでもうじうじしててもしょうがないからさ」
康政はひどく驚いているようだった。
「まぁ、お前がそう思うなら、俺も応援するけどさ……。にしても随分と急だな。何かあったのか?」
「まあね。何があったかは夏休みが明ければわかると思うよ」
ここではあえて言わなかった。もちろん、涼風が編入試験で落ちてしまうかもしれないからとかそういう心配ではない。むしろ受かる気しかしない……。ただ、人に話して、自分の中の覚悟が揺らいでしまうといけないと思ったからだ。
「なんだ、その含みのある言い方は?……まぁ、なんにせよ、行くっていうなら大歓迎だな!えっと……夏休み初日、7月21日の土曜日だ。大丈夫そうか?」
夏休みの予定は今のところない。
「うん、大丈夫。その日、楽しみにしてるよ」
「会場は電車使って行くから、駅で待ち合わせようぜ。んじゃ、俺もその日楽しみにしとくわ」
よし、これでもう後戻りはできないぞ!勇気を出せ!
その日の夜、俺は涼風に電話した。
「もしもし、涼風?今大丈夫そうか?」
「はい、大丈夫ですよ。電話なんて珍しいですね?どうかしたんですか?」
電話越しに聞く涼風の甘い声に、思わず頬がにやけてしまう。
「用事というか……、単に俺が涼風と話したかったからかな?」
「あ、ありがとうございます。私も謙人くんとお話ししたかったんです。ただ、電話なんてしたら迷惑かと思いまして……」
「全然迷惑じゃないよ!むしろ、電話してくれたら嬉しい」
電話越しに、涼風の嬉しそうな様子が伝わってきた。
「じゃ、じゃあ、これからはいっぱいお電話かけますね!」
可愛い……。なにその無邪気さ、可愛すぎるよ……
「いつでも掛けてくれていいからね!……で、一つ報告があるんだけど、俺、中学の同窓会に行くことにしたんだ。いい加減、昔のこととして受け入れられるようにね……」
「そうだったんですか……。謙人くんはすごいですね。私ができなかったことを簡単にやってしまおうとしているなんて。本当にかっこいいです!」
違う。俺はそんな強い人間なんかじゃないんだ。
「ありがとな、涼風。でもな、こうして覚悟を決められたのは、涼風のおかげなんだ。君が頑張って立ち向かうところを近くで見て、俺も頑張らなきゃなぁって思ったんだ。だから、本当に強いのは涼風だよ。ありがとう」
「そんな……私なんて。……でも、私が頑張ったことが、謙人くんのためにもなったなら、嬉しいです!」
「本当に感謝しかないよ。……でさ、その日は夜ご飯を食べることになってるんだ。だから、お礼に、俺にお昼をごちそうさせてくれないかな?っていうか、一人だといろいろ考えちゃうから、一緒にいてほしいんだけど、だめかな?」
「ダメなわけないじゃないですか!もちろん、全力で協力させてもらいますよ!」
「情けなくてごめんな……。ありがとう」
「情けなくなんかないですよ。謙人くんはすごい人なんですから!……それで、お昼はあんまり人がいないところで、落ち着いて食べたいですよね?」
「あぁ……できればそうしたいかな?」
「じゃあ、また私の家に来てもらうっていうのはどうでしょうか?それで……その……け、謙人くんの手料理が食べたいです!」
ふむふむ……お姫様は俺の手料理をご所望のようで……。
腕によりをかけてふるまわせていただきます!
「お安い御用だ!それで、何が食べたい?」
「カレーが良いです。謙人くんがつくるカレーも食べてみたいです……」
「分かった、カレーだな。じゃあ、材料買ってから行くから」
「ありがとうございます!楽しみにしてます!」
それから、少しだけ話をして電話を切った。
もう俺としては、同窓会よりも涼風と一緒にご飯食べることの方が、断然楽しみなんですけど!欲を言えば、同窓会なんていかずに、その日はずっと涼風と一緒にいたい……
いや、だめだだめだ!それではそもそも涼風の家に行く意味がなくなってしまう!
俺は、同窓会……というよりも、涼風とのことを楽しみにしながら、夏休みを迎えた。
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