第20話 side涼風 決意
「実は……好きな人がいるんです。心に決めている人が。俺はその人の事しか見えてませんから」
そう謙人くんが言った時、私は衝撃で倒れそうになってしまいました。今まで謙人くんからそう言う話を聞いたこともなく、私も特に謙人くんの交友関係を考えずに彼と仲良くしてしまっていました。
でも、考えたらそうですよね……?謙人くんだって、恋したりするんですよね……
もしかしたら、私がこうして仲良くしてるのは迷惑なんでしょうか……?
謙人くんだって、本当はその人と一緒にいたいはずなのに、私がしつこくかまってしまうばかりに、謙人くんの時間が奪われてしまってるんですよね……。
謙人くんは夕飯を食べ終わると、お父さんと一緒に隣の部屋に行ってしまいました。私は謙人君の事を色々と聞いて、気分が沈んでしまいました。
「涼風~!……あら、どうしたの、暗い顔して?」
一人リビングでボーっとしていると、お母さんに気づかれてしまいました。
「あ、なんでもないです……」
「……謙人君の事ね?お母さんに話してみなさいよ?」
どうしてわかったんでしょうか?やっぱり親にはわかってしまうんですよね……。
「実は……、謙人くんには好きな人がいるってさっき聞いて……。私は謙人くんともっと一緒にいたいけど、謙人くんからしたら迷惑なのかなって……」
お母さんはなぜか困ったような顔をしていました。
「二人とも鈍感だと、気づかせるのが大変ね……。そうだ!涼風、謙人くんとお父さんの会話、聞いてきなさい!きっとそういう話をしていると思うわよ?」
「へっ?」
どういうことでしょうか?
意味が分からずその場でボーっとしていると、お母さんは私をせかすように、謙人くんたちが話している部屋の前まで私を連れて行きました。
「じゃあ、そーっと聞いてみてね~」
それだけ言って、お母さんはリビングの方へと戻っていってしまいました。私は言われた通り、ドアに耳を近づけて会話を聞いてみました。
「……どうなのか、話してくれないか?」
何の話をしているのでしょうか?話してくれないかってことは何か謙人くんの秘密を聞いているのでしょうか……?
「おっしゃる通り、俺は涼風のことが好きです。友達としてではなく、一人の女の子として好きなんです……」
へっ?い、いったい何のことを……
「そうか……。いつから好きになったんだ?」
「最初は、どこかそっけない女の子だと思ってました。それこそ初対面の時なんかは怖いとさえ感じましたね……。でも、涼風と関わるようになって、内面的なものがどんどん見えてきたんです。意外とおっちょこちょいなところ、太陽の様に明るく笑うところ、人に気を配れるところ、甘えん坊なところ……。そういう彼女の本当の姿を見たときに、とても好ましく思えたんです。……だから、いつからという明確な線引きはできません。気づいたら、涼風のことが、好きで、愛おしくてたまらなくなっていました」
ま、待って下さいっ!これ、絶対、私が聞いてはいけないやつですっ!
私は部屋に飛び込むのを何とか堪えて、リビングに戻りました。
「どうだった?……あら、なにかとんでもないことを聞いてきたような顔をしてるわね?」
お母さんにすぐに気づかれてしまいました。
これからどうしたらいいか聞くためにも、全部話した方がよさそうですね……
「じ、実は、聞き始めたらすぐに、謙人くんが、その、わ、私のことが好きだって言ってたんですっ!……それで、びっくりして逃げてきてしまいました」
「あら~、良いこと聞いたわね!……で、涼風的にはどうなの?」
「わ、私も謙人くんの事が大好きです……」
消え入るような声でしたが、お母さんの耳には届いたようです。
「まあ!分かってはいたけど、本人から聞けるのはやっぱりいいものね!」
ん?分かってはいたって……
「あの、私ってそんなに分かりやすいですか……?」
「えぇ、とっても!謙人くんが気付いていないのが不思議なくらいよ!」
私は自分の顔が真っ赤になっていくのを感じました。
「それで……私はこれからどうしたらいいでしょうか?謙人くんに気持ちを伝えたいですけど、さっきの話を聞く限り、まだ難しそうですよね……」
きっと彼はまだ、恋愛ということに関して、少し抵抗があると思います。喋り方は何でもないという風でしたが、それを話しているときの謙人くんの顔はすごく辛そうでしたから……。
「そうねぇ……、今はまだ待ったほうが良いかもしれないわねぇ。でも、安心しなさい、涼風!彼は絶対に乗り越えて、涼風に告白してくれると思うわ!それまで、涼風の方からもっと積極的に近づいて、もっと自分をアピールすればいいのよ!」
「あ、アピールですか?」
「例えば……、並んで歩くときは腕を組んでみたり、ご飯食べるときは涼風の方から食べさせてあげたり、甘えてみたり!要するに、グイグイ行ってみなさい!」
「は、恥ずかしいですっ!」
そうすると、お母さんは残念そうな目で私を見ました。
「残念ねぇ、涼風。そんなんじゃ、謙人くんかっこいいから、すぐに他の子がもってっちゃうわよ?」
そ、そんなことは……!
「……それだけは絶対にやです!私、頑張ります!」
「その意気よ!両想いだって分かったんだから、きっとうまくいくわよ!」
なんだか勇気が湧いてきました!
「ありがとうございます、お母さん!」
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