第52話「【タイマー】は、発見する」

 ゴコォォォォ………………ンンっっ!



 ついに解放された最奥の扉。

 これまで何人も立ち入ることのできなかった時の神殿の最奥がついに明かされる時が来たのだ。


 格納された扉と、その隙間からパラパラと落ちる塵の音だけが響く中。

 ルビンとレイナは同時に顔を見合わせる。


「開いた……」

「開いちゃった……」


 ジッと手を見つめるルビン。

 まさかとは思ったが、本当に「タイム」で開くとは。


 もしかすると、本当に【タイマー】に関連しているダンジョンなのか?


「行こうか。この先は未知の領域。レイナは絶対に俺から離れないでね?」

「う、うん! わかった」


 レイナはギュッと唇をかみしめ、盾を構えてルビンの陰に隠れる。


「よし、気を付けて進もう。レイナも何か異常を感じたらすぐに教えて。───……能力も出し惜しみはしなくていいよ」

「わかってる───いざという時はお兄さんは僕が守るから」


 おぉ。頼もしい!


 小さな相棒の心強い言葉にルビンも口角を緩め、そして油断なく歩を進めていった。

 その足が向かう先は、人類にとって未知の領域なのかもしれない……。


 だが、この先に【タイマー】の謎が隠されているなら行かねばならないだろう。


 そうしてルビンはレイナと共に最奥のさらに奥へと歩を進める。

 カツンカツンと、床を叩く音は硬質なもので、先に開いた扉と同じような物質でできているらしい。

 ヒヤリと冷え渡るように美しい光沢はとても遺跡とは思えない。


「すごい……まるで出来立ての神殿だね」

「うん……。大理石かな、これ?」


 レイナがコンコンと床に壁を叩く。

 不用心さを責めようかと思ったが、ここには今のところ罠の気配がない。


 どうやら、この部屋への侵入を防ぐ目的でトラップが仕掛けられてはいるものの、ここ自体にはその防衛機能がないようだ。


「硬いけど……。なんだろう? 石じゃないみたい。不思議な感触」

「───不用意に床に触れちゃだめだよ? 何がおこるかわからないから」


 そう言うルビンも興味津々ではある。


 ここは見渡る限り、この空間はゆるく螺旋を描く通路になっているらしい。 

 先は見通しが利かず、一面が光沢のある白い材質でできた通路で構成されていた。


「こういった構造は、王宮などの最深部によくある構造だね」

「へ、そうなの?」

「あぁ。敵に攻め込まれた時に一直線だとあっという間に陥落するからね。こうして、辻々で待ち伏せしたり、敵を心理的に圧迫するために作られるんだ」


「へー!」


 レイナは興味津々だ。

 ルビンにとっては何気ない知識でも、今までそう言った機会に恵まれなかったレイナはなんにでも興味を示し、まるで海綿のように吸収していく。


 そして、適度な緊張感を保ちつつルビンたちが奥へ奥へと進むとそれは現れた。


「なん、だ……ここ」

「ひろーい」


 螺旋通路が不意に途切れたかと思うと、突如ルビンたちの眼前に広がる大きな広間。

 そこは天井も床もそして、壁に至るまで真っ白な材質でできており、通路と同じく光沢を持って艶やかに輝いていた。


「目がチカチカするな」

「うん……。なんだか広いんだか、狭いんだか……」


 多分広いのだろうと話思う。

 通路と同じようにダンジョン由来の照明がついているため何となく天井の位置が分かるのだ。

 そして、床も何となく──────。



 だって、ほら。



 このだだっ広い空間にポツンと一つ。


 長方形の箱が置かれていたのだ。


「何だろう、アレ」


 不意にゾクリと背筋が冷える気配。

 なんとなく、あの形状。そして、大きさに思い当たる節がある。


 中身は通路の入り口から出は見えないものの。

 あの大きさはまるで……。


「どうしたの? 行こ……?」


 通路にいる間何一つ危機が訪れなかったため、レイナは完全に油断しきっている。

 それが命取りだと分かっているルビンは慌てて彼女を制する。


 ダンジョン奥地で、こうした広い空間があると、そこは大抵ボス部屋と相場が決まっている。

 そして、この広い空間はまさしくそれだ。


「レイナ。下がって───まずは俺が行く」

「う、うん」


 ルビンの声色の変化に、レイナは素直に頷くと引き下がった。

 ルビンはミスリルのナイフを構えると、周囲に注視を飛ばしながらゆっくりと箱に近づく。



 そして、近づくにつれ、思った通りの形状だと分かった。



 人が一人なんとか入れる大きさ。


 そして、

 深さ、

 高さ。

 長さと独特の形…………。





「ひ、ひつぎ………………?」

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