元の世界への思い
ルシウスが肩にアグニを乗せて、世界樹へと近づいていく。
「でかいな……」
「世界樹だからな」
「そうだな。それで、精霊王は?」
「もう分かるはずだぞ」
「え?」
その時、ルシウスは巨大な魔力を関知した。世界樹から白い光が溢れ出している。
その光が収束していき、ルシウスの前で豪奢な鎧を纏う壮年の男を象った。
「アグニ……よく顔を出せるのう」
「フン……貴様に言われたくはないな」
「全く……大精霊が儂に逆らうなど、この数千年でお主だけじゃ」
「ルシウス」
アグニがルシウスを呼ぶ。何を求めているのかは理解していた。
「ああ。」
『
空間に亀裂が走る。精霊王にすら比肩する魔力が漏れだし、黒炎が溢れ出した。
肩に乗るアグニの欠片がそこへ吸い込まれ、黒炎は
轟と大気を揺らしながら、黒炎の大精霊--アグニの本体が精霊界へ侵入を果たした。
「この時を待っていた」
「人界で成長したか。本当に面倒じゃの」
「精霊王……いやマクスウェル、貴様はこれで終わりだ」
「さて……そうかの?」
精霊王の魔力が、爆発的に膨れ上がった。それは、比肩していると思っていたアグニの魔力を大きく上回っている。
「なんだと……?」
知っている精霊王はここまでの力を持っていなかった。それに精霊界では成長しないはずだ。精霊王がこれだけの力を得ているのはおかしい。
「気になることがあるようじゃな」
「……どういうことだ」
「ふむ……お主、よく儂を見ろ」
アグニが精霊王を見る。上から下まで、何も変わっていることはない、と考えると同時、アグニはあることに気づいた。
「貴様……何故老いている?」
精霊王の姿は、アグニが知るものより老いが見えた。魔力の塊である精霊は、仮の姿を持っている。
ウンディーネやシルフは人型で、精霊王も同じだ。ただし、何でも自由な姿をとれるわけではない。
一度問った姿が固定され、他の姿をとることはできなくなる。それは精霊王でも変わらない。
「……自分の時間だけ止めていないな?」
精霊王の口角が大きくあがった。
「カカッ! そうじゃ! 気づくのが遅かろう!」
「アグニ、どうする?」
「想定外の力だ……だが--ルシウス、見せてやれ」
「はいよ」
「何を見せるというのじゃ?」
「よく見ていろ」
アグニの言葉に、精霊王の瞳がルシウスを捉える。体の周囲を魔力が揺蕩っている。そしてルシウスが、魔法名を紡いだ。
『
魔法属性=無
性質=魔力変換
生成対象=魔力
変換効率=1:10
消費魔力=全魔力
稼働時間=120
空間を埋め尽くす程の魔力が、嵐のように吹き荒れた。魔力制御に重きを置いて訓練したルシウスの現在の魔力は、3000万を越えていた。
「……は?」
精霊王の目がルシウスの魔力を捉え、そのイかれた魔力に呆然とする。
「馬鹿な! あり得ん!」
「あり得なくないさ。これが人の努力の結果だ」
「人の限界を越えておる!」
「限界を決めるのはお前じゃないさ」
「終わりだな。お前の軽視した人は、お前すら越える可能性を秘めていた」
「ふん。だが、この世界で儂に勝てんのは同じこと。捻り潰してやろう」
マクスウェルの体の位相がズレていく。半透明となり、全ての影響を受けなくなる。
「カカカッ! これでどうする? 儂に手も出せんじゃろう!」
「うーん……」
「悩んでも無駄じゃ」
ルシウスは軽く手を前へあげ、魔法名を紡ぐ。
『
位相がズレていたマクスウェルの周囲の次元に
「何じゃ!?」
「おっと、マクスウェル殿? せっかく隠した姿が出てきているようだぞ?」
アグニがからかうように話しかける。罅はついに繋がり、マクスウェルのズレていた位相が元に戻った。
「ば……馬鹿な! 何故じゃ!?」
取り乱すようにマクスウェルが叫ぶ。
「どうやらルシウスのほうが一枚上手だったようだな。マクスウェル?」
「--もう良い。貴様らまとめて塵と化すがよい」
マクスウェルが腕を振り上げると、上空に無数の属性球が現れた。
火に水、地、雷、風、光、闇と全ての属性球に魔力が注がれ、膨れ上がっていく。
「そんな無駄に大きく数を増やして……あんたは軍隊とでも戦ってるのか?」
ルシウスが残念そうに呟く。
「一点に集中させてない魔法なんて俺たちに効くわけないだろ。そんなことも分からないのか?」
呆れるようなルシウスの問いに、マクスウェルが更に激昂した。
「黙れぇぇええ!!」
「あれはもうダメだな」
アグニの呟きと同時に、空から無数の属性球がルシウス目掛けて降り注いだ。
『
対抗するようにルシウスが炎球を無数に作り出し、下から上へ、属性球へ向けて撃ち上げた。
爆裂するような音が響きわたり、互いの全ての攻撃を相殺する。
「まだじゃ!」
マクスウェルが大気にとけ込み、世界樹を包みこむ。そして、世界樹が光り輝いた。
「……? あれは何をしてるんだ?」
ルシウスがアグニへ問う。
「分からん……が、良いことではなさそうだ」
その言葉通り、世界樹が光となってその姿を消す。そしてマクスウェルと一体化し、空を覆い尽くす魔力の渦と化した。
「なるほど、世界樹を丸ごと取り込んだのか」
「あのクズ王め……ついに精霊界の象徴までも……」
アグニが怒りの感情と共に、マクスウェルを睨み付ける。
「カカカッ! これで貴様等は終わりじゃ!」
空を覆う魔力が一点へ収束していき、マクスウェルの人型を象った。
「一点に集中していないものなど効かんと言うたな? ならこれはどうじゃ?」
全魔力を収束し爆発的な加速で光と化したマクスウェルが、ルシウスへと落ちた。
「ルシウス!」
「ああ!」
瞬間的にルシウスが周囲に白雷の砲身を生成する。そこへアグニが己の体を黒炎と化して混ざり合う。
その瞬間だった--
--二カ所で射出された魔力の奔流--極大の砲が一点へと向かった。そこには白銀が立っている。
「みんな! 魔力を注げ!」
白銀の号令で、勇者一行が白銀へ魔力を注ぎ込む。
「俺たちは……元の世界へ帰る!!」
『
ベイとネレイデスが放った砲が、反射で作り出された鏡へ衝突した。鏡は二つの極大の砲を取り込むと、二つを合成した埒外の破壊をもたらす砲撃を、ルシウスへ向けて撃ちだした。
「っ!! ルシウス!!」
「なっ!?」
上空からマクスウェルが、横合いからはベイとネレイデスの合成砲が唸りをあげて迫っていた。
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