ベイと光と水
『--
ベイの体が闇へと変質していく。膨大な魔力を変質させた闇は、空を喰らうが如く広がっていく。
「ルクス!」
ウンディーネが叫び、ルクスが空を駆ける。一瞬でベイへの距離をゼロにしたルクスが、ベイへと光の牙で襲いかかった。
「キャハハハ!」
闇を操るベイにとって、本来光は苦手とする属性だ。しかし、何の躊躇もなく己に喰らいついたルクスを闇で覆い尽くす。
「ガァアアア!」
暴れるルクスを、覆った闇から生えた無数の針が突き刺す。物理攻撃にも見えるそれは、精霊化した闇から放たれた確実に精霊へ
「ぬぅ!」
光の狼がたまらず距離を離す。
「ウンディーネよ。二人でかかるぞ」
「えぇ」
--瞬間、再びルクスが空を駆け、その背後から視界を埋め尽くす大波が追いかける。
闇と化したベイの口角があがる。
『
ベイの眼前を、黒い森が埋め尽くした。それにルクスの牙は阻まれ、大波もそのほとんどが周囲へ力を削がれていた。
「バカな!」
ウンディーネの顔が驚愕に染まる。
「我ら二人がかりの攻撃をこうもあっさり防がれるとは……」
「ほらほら、そんな無駄話してるとこっちから行くよ?」
『
「気をつけて!」
ウンディーネの叫びとほぼ同時--周囲の次元に亀裂が入り、そこから闇が溢れ出した。
僅かに漏れ出した闇は、爆発するかのように広がると、ベイとルクス、ウンディーネを覆う球状を象った。
「なんだこれは?」
球状の闇は一瞬の静寂を敵へ与え、そして次に破滅を齎す。
闇がドロドロと内から溢れ、爆裂するように弾けた。連鎖する爆発は、勢いを増していく。
「ぬぅ!」
前後左右から襲いかかる闇の飛沫を、ルクスが俊敏に躱す。しかし連鎖し、増え続ける闇についに捉えられた。
「ぐぁぁああああ!」
小さな水滴のような飛沫、その一滴に触れただけで、背中を象る光に穴が穿たれた。
「ウンディーネ! 気をつけろ!」
なおも必死で躱しながら、ウンディーネへ警告を促す。しかし、速度でルクスに劣るウンディーネが避けられていたのは、そのほとんどがルクスを狙うものだったからに他ならない。
標的となったウンディーネに避ける術はなかった。
「キャァァアアア!」
腹部、肩、太股を一瞬で破滅の闇に穿たれたウンディーネへ感じたことのない痛みが走る。
「破滅からは逃げられない」
口角をあげたベイが逃げまどう二柱の大精霊を観察する。そして--
「ガァアアア!」
ルクスの魔力が、膨大な光となって破滅の闇を内側から照らす。
しばし均衡を保つかに見えた光と闇の拮抗は、光の勝利となった。
破滅の闇から解放されたルクスとウンディーネが、ベイから距離をとる。
「へぇ! あれを解除するなんてさすがは光の大精霊!」
「吸血鬼風情が舐めた真似を!」
ウンディーネが怒り狂い、両手を頭上へ掲げると、ベイの上空に、大質量の氷が現れた。
ウンディーネが腕を振り下ろすと同時--
--巨大な氷塊が、空からベイへ向かって加速する。
『
対抗するように、ベイの頭上に闇の軍団が現れた。闇の兵士達は、即座に投擲の構えをとると、手に持つ闇の槍を氷塊へ向かって射出した。
無数の闇に晒された氷は、ベイへ到達する前に砕かれて、キラキラと光を反射している。
「そんな!」
「うーん、君達、大精霊だっけ。まさかこれが限界とは言わないよね?」
二柱の大精霊はその言葉にキレた。
己を構成するほとんどの魔力を自身の前方へ凝縮させる。
「なんだなんだ! まだそんなことできるんじゃないか!」
嬉しそうにベイが声をあげて、同じように前方へ魔力を凝縮させる。違う点といえば、両手を前に突き出し、それぞれの前に莫大な魔力を収束させている点だろう。
「化け物が……!」
あまりにも理不尽な吸血鬼の源流を前に、大精霊が苦言を漏らす。そして--
--膨大な魔力が砲となって、敵を喰いつくさんが如く、爆裂するように打ち出された。
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